らいぶらりぃ
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第14回ショパン国際ピアノ・コンクール in Japan 2000

●日 時2000年12月7日(木)19時開演
●会 場神戸国際会館こくさいホール
●出 演カジミェシ・コルド指揮ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
ピアノ:リ・ユンディ/イングリッド・フリター
●曲 目バーバー/弦楽のためのアダージョ
ショパン/ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21(イングリッド・フリター)
     ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11(リ・ユンディ)
(アンコール/リ・ユンディ)
ショパン/マズルカ第23番ニ長調Op.33-2
     ワルツ第5番変イ長調Op.42「大円舞曲」

 あのブーニン以来、15年ぶりに優勝者が出た、とか、優勝者と4位入賞者はともに同じ師を持つ中国の奏者だ、とか、審査席には久しぶりにアルゲリッチが登場した、など、何かと話題の多かった今年の第14回ショパン国際ピアノコンクール。その入賞者達による公演ツアーが行われるということを知ったのは、10月くらいでしたでしょうか。言うまでもなく、ショパン好きな妻とも相談して、即、チケットをGETしました。が、まだその段階では誰が入賞して、誰が神戸の公演に来るのかは分かっていませんでした。そして、11月後半になって、神戸公演には、何と、優勝のリ・ユンディさんと2位のイングリッド・フリターさんが来る!ということを知り、とっても驚きました。だって、上位2人の演奏なんて、神戸ではそうそう聴けないと思っていましたから。おぉぉっ!と期待に胸をふくらませながら、雑誌「ショパン」12月号の特集記事を読んだりして、公演を楽しみにしておりました。

 そして、公演当日です。演奏会は最初、オーケストラによるバーバーで始まります。何故、ショパンの前にバーバーなのかはよく分かりませんが、それでも、久しぶりにこの名曲を聴けて、個人的にはとても嬉しかった。ちょうど、折しも、1週間後にはルミナリエも始まるし、年が明けての1か月後には、あの震災から6周年を迎える、そういう時期だけに、この曲を聴くと、とても切なくも神妙な気持ちになります。弦の響きもなかなか味があり、この美しいハーモニーをたっぷりと楽しませてくれました。素敵でした。

 ピアニストの登場は、バーバーが終わってからです。最初は、フリターさん。彼女は、あのアルゲリッチ以来の、アルゼンチン出身の入賞者なのですね。アルゲリッチさんにも独特の味がありますが、彼女はと言うと、…彼女にも非常な持ち味というものがあるということを思い知らされます。ショパンのこの2番コンチェルトを、もう完全なまでに自分のモノとして消化し、それを全く、自分の音楽としてかみ砕いて、表現しているのです。他のピアニストがこんなふうに弾くだろうか、というくらい、その演奏は際立っています。特にpやppの部分の扱い方、これが実に見事です。これ以上するともう聴こえないというくらいまでに抑えて、しかし、その音色は実に純んでいて美しく、空気の中にすぅっと入って溶け込んでしまうくらいなものです。1楽章の第2テーマや或は2楽章など、まさにそう。まるで落ち葉が音もなくさぁ〜っと風に吹かれて宙を流れていく、そんな様をまざまざと見るようで、実に感動的です。ショパンの2番とはこんなにも美しい曲だったのか、そういうことを改めて思い知らされ、思わず感動で涙してしまいます。かと思いきや、fの部分になると、一転、突如として、実に強烈なパンチで鍵盤を叩いていくのです。この静と動の対比がまた素晴らしいのです。そうした対比を生かしながら、音楽を完全にコントロールして、聴く者の心をぐっと捉えていく、実に素晴らしいですね。こんなにも素敵なピアニストがいたのだ、と、彼女に一目惚れしてしまいました。彼女の演奏でまた、ノクターンなどもぜひ、聴いてみたいものです。

 さて、一方の、優勝のリさんです。ブーニン以来の優勝者であり、また、アジア人としては、ブーニンの前の回のダン・タイ・ソンさん以来の優勝者でもあります。まさに名誉中の名誉を手に入れられた、リさんの演奏はというと、…やはり、さすがに世界の頂点に立つだけのことはありますね。そのテクニックの完璧さは素晴らしすぎます。1つ1つの音を極めて正確かつ的確に表現していくのです。しかも、その音色は華麗で、きらきらと光り輝くかのような響きをしています。1楽章の第1テーマや3楽章などは、本当に華やかさいっぱいで、これをさらりと弾いてしまわれるのが、すごいですね。指もかっちりと鍵盤を捉えて離さないといった感じで、力強さに満ちています。(しっかりとオペラグラスで指の動きを見ていたのです…^^;)が、力強いと言うても、決して力任せな演奏ではなく、その音楽はとても伸びやかで、明るく澄んだ、とても素直な響きなのです。が、やはりまだお若いからなのでしょう、2楽章などはもっともっと情緒深くてもいいような感じはします。とっても奇麗なんだけれども、も1つ、音楽の深みが加われば、と思ってしまうのです。もっとも、これは、あの個性的なフリターさん(しかも彼女の方が彼よりも年上…)の演奏を先に聴いてしまったから、そう思ってしまうのかもしれませんが… でも、そうした部分はしっかりとオケがフォローしているのがまた、印象的でもあります。バックのホルン或はファゴット等が、実に情緒たっぷりと副旋律を歌っていて、リさんのピアノを支えているのです。やはり、コンクールからずっと一緒に演奏しているから、お互いをよく知り尽くしているのでしょう。全体に、リさんの演奏には決して、嫌味なものがなく、純粋で正直に音楽を表現しているのですね。そういう姿勢が、優勝のポイントになったのかもしれませんね。まだまだお若いわけですから、今後、さらに磨きがかかれば、新しい世紀を担うスターとして君臨することでしょう。ますます楽しみです。

 最後は、そのリさんによるアンコールが2曲。華麗で優雅なショパンの世界を存分に楽しませてくれたのでした。次に聴く機会があれば、きっと、今以上に素晴らしい演奏を聴かせてくれることでしょう。