らいぶらりぃ
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第164回神戸学院大学Green Festival

仲道郁代 ピアノ・リサイタル
ベートーヴェン/ピアノソナタ連続演奏第7回

●日 時2000年12月9日(土)15時開演
●会 場神戸学院大学メモリアルホール
●出 演ピアノ:仲道郁代
●曲 目ベートーヴェン/ピアノソナタ第28番イ長調Op.101
ピアノソナタ第29番変ロ長調Op.106「ハンマークラヴィーア」

 久しぶりに仲道さんの演奏を聴いてきました。前からずっとベートーヴェンの全曲シリーズをされているわけですが、とうとう、今回と次回で最後となってしまうともなれば、俄然、聴く側にも力が入ります。

 今回の曲目は28番と29番。どちらも”超”大作ですね。男性ピアニストでも恐らくは手こずるのではないかというような、この体力の要る曲を、仲道さんがどう演奏されるか、正直なところ、ちょっと心配でもありました。圧倒的なパワーをもって、そびえるこのベートーヴェンの大曲を、仲道さんのあの優しげな雰囲気で弾くことができるのか、と思ってしまうのです。

 が、その思いは杞憂に過ぎませんでした。仲道さんのピアノは、実にたくましく(?)音を鳴らしていきます。どうしても女性的な優しさも出てしまう部分もあるようですが、それでも、敢然と曲に向かっていこうという仲道さんの姿勢はなかなかすごいものです。28番の1楽章はまだ穏やかな感じですが、2楽章に入ると、あのマーチのリズムが炸裂、実にパワフルに音楽を展開していきます。やや力みすぎ?と思うフシもあるのですが、音楽はしっかりとした足どりで進んでいきます。そして3楽章。ベートーヴェン流のフーガが印象的です。各声部ごとに入れ替り出てくるフーガのテーマを、実に力強く歌い上げていきます。そして、一気にラストへ。実に緊張感と集中力に満ちた、素晴らしい演奏です。

 29番の方も、同様で、力強さは変わりません。長大なソナタですが、これに真正面から向かい合っている姿勢が素敵でもあります。1楽章の力強さと柔らかさとの対比も見事で、ころころと様々な動機が登場してきますが、それらをきっちりと歌い分けていきます。2楽章での気難しさもいいですが、さらに3楽章の美しさが素晴らしいです。ここはまさに女性ならではの感性が見事に音楽を表現しきっていると言うてもいいでしょう。このもっとも神聖なる部分とも言われる楽章を、仲道さんのピアノは、実に情緒豊かに表現していくのです。ひたすらに長い楽章ですが、聴く側にも、単に美しいというだけでなく、音楽のもっと深い部分、精神世界へと誘うかのような響きにも聴こえてくるのです。そして4楽章では、こちらでもやはり、フーガが印象的ですね。この長大なフーガも、また、例えば「第九」交響曲の4楽章、テノールのマーチの後に続くオーケストラによるフーガ間奏の部分のように、まさに音と音とがぶつかり合い、何か心の葛藤のようなものを表しているようでもあります。それを、力強く、固い音色で弾いていくのです。それはまさに、仲道さんご自身が、ピアノと正面からぶつかり合い、闘っている(?)というふうでもあります。ダイナミックかつパワフルな演奏が終わった時、会場中から割れるような拍手が起こったのは言うまでもありません。

 それにしても、ベートーヴェンって、よくもまぁ、こんなにもすごいピアノソナタを書いたものですね。まさに巨大な山のような印象の曲です。この大きな山を見事に登りきり、制覇された仲道さんはさすがです。かなりの体力を消耗されたのではないでしょうか。いつもの仲道さんとは何か違う、曲に対して集中力に満ちた素敵な演奏会でした。次回のシリーズ最終回にもぜひとも、来たいものです。