らいぶらりぃ
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神戸大学混声合唱団アポロン第38回定期演奏会

●日 時2000年12月10日(日)16時開演
●会 場尼崎市総合文化センター・アルカイックホール
●曲目&出演【1】三善晃/混声合唱のための「地球へのバラード」
    指揮:小川貴充
【2】メンデルスゾーン/Four Sacred Choruses
    指揮:松本洋平
【3】荻久保和明/混声合唱組曲「季節へのまなざし」
    客演指揮:斉田好男
    客演ピアノ:細見真理子

 今年も後輩達の演奏会に行ってきました。今回アポロンの定期は、「地球へのバラード」や「季節へのまなざし」等の曲が並ぶということで、ちょっと期待していました。で、実際、聴きに行ってみてどうだったかと言いますと…

 最初は「地球へのバラード」。三善作品の名曲として合唱ファンには広く知られたこの曲、正直なところ、選曲を聞いた段階で、えっ?と思っていたのです。広く知られた名曲ではありますが、でも結構、難しい曲でもあるわけです。歌うのにかなりのパワーが要求される曲なのですね。そんなのをいきなり最初のステージに持ってきて、どうするの?という感じもしてしまうわけです。そして、聴いてみると、…案の定、声が出ていません。人数のバランスもあるのですが、どうしても女声が薄いんですね。バランスが悪い上に、声の響きも薄っ平くなってしまっていて、ちょっと…という感じです。前に、10月に「灘区民コーラスフェスティバル」でも、この曲の1曲目だけ聴いたのですが、その時と全く変わっていません。あの時も、もっと楽しそうに歌っても、と思ったのですが、それは今回も思います。2曲目、3曲目、4曲目も何かぱっとしない演奏が続きますし、一番期待の終曲、一番声量も要求されるこの曲も、どうにも情けなく聴こえてしまいます。感動的に盛り上がるはずのクライマックスでも、いまひとつ盛り上がらない、これはどうして?と思うのですが、単に練習が足りないとか歌い込みが足りないとかいう問題ではないような気もします。一番の問題は、曲に対する思い入れとかが全く感じられないことです。何となく、表面的に音符を追っているだけで、そこから1歩、踏み込んだ曲への理解や思いがない、そのように感じてしまうのです。指揮者の振り方を見ていてもそう思うし、発声或は発音の仕方を聴いてもそう思います。三善作品なんて、そう簡単にできるものではない、そういうことを改めて思い知らされたような気がします。

 続いては、メンデルスゾーンの曲です。これも1曲目だけは6月に一度、聴いているのですね。ちょっとは進歩したかと言うと、なるほど確かに1ステージ目よりは声は出ているかもしれないし、それなりに考えてはいるのかな、という感じはします。でも、何か緊張感が持続しないんですね。途中にかなり多くのソリが出てくるのですが、それが曲全体の流れを切ってしまっているのかもしれません。ソリの人達もかなり緊張しているようで、いまひとつ4重唱として成り立っていないような感じもするのですが、ある意味ではこれはしかたないことなのかもしれません(緊張する気持ちは分かるので)。でも、そこで緊張の糸が切れてしまって、音楽にハリがなくなってしまってはいけません。ひたすらに多いソリを経て、ひとしきり盛り上がった後、終曲は静かに終わる、実際はとっても素敵な曲なのでしょう。メンデルスゾーンの宗教観のよく表れた曲なのだということは、聴いていても分かります。でも、もう一つ、踏み込んでほしかった、そう思います。

 最後は待ちに待った「季節へのまなざし」。この曲は、私達も過去に歌ったことがあるので、ちょっとうるさいです、(^^; でも、前のステージまでの不満はどこへやら、斉田先生の指揮で、団員皆がすっごく伸びやかに歌っているのが印象的です。前の曲までとは違う団であるかのような、そんな感じすらします。それは、ひとえに、やはり斉田先生の指導のおかげなのでしょう。この曲自体、結構なパワーを要求される曲だと思うのですが、斉田先生の指揮は、全体をさらりと上品な感じに仕上げながら、それでいて、前へ訴えかけてくるような音楽を作るようにしていらっしゃるようです。もうちょっとねちっこく演奏する人もいるかと思うのですが、そうではなく、「音」的な要素の美しさを引き出すかのような演奏であったと思います。もちろん、そうは言いながらも、「言葉」も大事にして、はっきりとしゃべらせてはいるのですが。でも、一度歌ったことがあり、楽譜を覚えている者として聴いてみると、非常に細かなことではありますが、ピッチが微妙に上ずったりしているのが分かります。(ちょうど、私達が過去に失敗したのと同じところで、同じようなことをしているので…)でも、逆にそれは、どうしてもそうなってしまうもの、なのかもしれません。(だって、難しいんだもん。^^;)総じて言えば、なかなか健闘していた、というところでしょうか。

 ところで、この曲はピアノもまた重要な役割を持っています。(この曲の練習ピアノ伴奏もまた、過去に経験していますので、ピアノについてもちょっとうるさいのです…^^;)即ち、合唱とピアノの協奏曲的な要素が、この曲にはあり、ピアノを弾く者にも、単なる伴奏とは違う、ソロ並の資質が求められると思うのです。細見さんのピアノは、どちらかと言うと、やや大人しめで、とても丁寧にピアノを弾いている、という感じです。1楽章や4楽章前半等、とっても美しいピアノで、歌う側からしても、多分、歌いがいのあるピアノだったのではないかしらん。でも、特に4楽章では、ピアノコンチェルト的な音楽になっていますから、ピアノがもっともっと前面に出てきてもよかたのでは、とも思います。印象的な変拍子の部分のみならず、そこに続く、コーダへ向けてのクライマックスでは、ピアノにもっと出てきてほしかったような気もします。

 思えば、私達がこの曲を歌ったのは、もう11年も前のこと。その時もまた、このアルカイックホールでした。私らはちょうど大学の2回生で、この年のことが妙に思い出として印象に残っていたりします。そんな昔のことを懐かしみながら、後輩達の演奏を聴いていたのでした。私達自身もまた歌えたらいいですね…(多分、無理なのでしょうけど)