らいぶらりぃ
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New Year's Eve Gala Performance〜The Merry Widow

●日 時2000年12月31日(日)19時開演
●会 場The Metropolitan Opera House
●演 目Lehar/The Merry Widow
●出 演Hanna Glawari:Frederica von Stade
Valencienne:Jennifer Welch-Babidge
Danilo Danilowitsch:Hakan Hagegard
Camille:Paul Groves
Baron Mirko Zeta:John Del Carlo
Sylviane:Yvonne Gonzales
Olga:Reveka Mavrovitis
Praskowia:Diane Elias
Raoul:Mark Schowalter
Kromow:James Coutrney
Njegus:Anthony Laciura
Bogdonowitsch:Dennis Petersen
Pritschitsch:Thomas Hammons
Woman:Constance Green
Lolo:Lori Alexander
Dodo:Stephanie Ann Sheppard
Jou-Jou:Susan Lamontagne
Frou-Frou:Karina Michaels
Clo-Clo:Tara Schoch
Margot:Jenny Hill
Conductor:Asher Fisch
Production:Tim Albery
etc.

 ”年末年始をNYのエンタテイメントで楽しもう!ツアー”の第2弾は、あの憧れの「MET」であります。「MET」! 2001年も初夏に来日しますがこれを、生で、しかも現地で見てしまおうというのですから、たまりません。それはそれはもう、行く前から心もはずむ、というものです。(^^)v

 さて、その[MET」、さすがにごっついですね。私達は地下鉄の「Lincoln Center」駅から攻めて行きました。駅の出口の階段を登っていくと、目の前にそびえるのが、リンカーンセンターの建物達です。手前に「NY State Theater」と「Avery Fisher Hall」がそびえ、その奥に「MET」はあります。ちょうど、このシーズンだから、手前の広場には大きなクリスマス・ツアーが立っていて、私達を暖かく迎えてくれます。そして、いざ、このオペラの殿堂の中へ。BoxOficceでチケットを受取り、正面にまわってみると、何やらごっつい飾りがされていて、思わず、おぉ、と声が出てしまいます。チケットをもぎってもらって、中へ入ると、そこにカウンターがあり、大勢の着飾った人達がシャンパンなどを飲みながら談笑しています。これが、いわゆるアメリカの社交の場なのね、ということを実感することができます。ま、私達にはおよそ関係のないところですので、とりあえずトイレへ行きます。このトイレの辺りもまたごっついもんで、いろいろな作曲家や指揮者の胸像や絵画がずらりと並んでいて、まるで美術館のよう。それはまさにゴージャスという以外の何ものでもありません。ヨーロッパからの伝統文化を現在にまでしっかりと伝えていこうという芸術精神を垣間見ることができて、さすがだぁ、と感心してしまいます。

 そして、いざ、客席の中へ。私達の席はと言うと、何と、1Fの前から4列目、真ん中よりやや右寄りの辺りなのです。こんなにいい席とは! 舞台も正面に間近に見ることができますし、本当に見やすい場所です。そして、席の前、前の席の背面には、小さな液晶ディスプレイがあります。そう、ここに訳語などが出るようになっているのです。個人毎にそういう設備を持たせるとは! さすがです。周りをぐるりと見渡してみると、6階まである客席の多さにもびっくりです。写真等で知っていたとは言え、やはり、こうして実際にこの目で見ると、感激です。あぁ、自分が今、こうして「MET」の中にいるのだと思うだけで、とてつもなく幸せな気持ちになるのでした。

 …と、感激ばかりしているのですが(^^;、いよいよ開演です。序曲と共に、踊り子達が登場してきて、華やかな雰囲気を盛り立てます。そして、幕が上がり、ポンテヴェドロ公国の公使館の場面になります。カスカーダ子爵やツェータ男爵が話をしているわけですが、このいわば、脇役の方にしてみても、とっても声量もあり、表情も豊かで、これが本場のMETなのか、と思わされます。それは合唱にしても同様。全員が実にしっかりとした響きを保っていて、とても厚みのある合唱になっているのです。ソロで歌ってもおかしくないような人達が合唱を構成しているわけです。その層の厚さには、ほんと感心してしまいます。そして、いよいよハンナが登場です。この場面が実におかしくて、突然、舞台の公使館のセットが2つに割れたかと思うと、その向こうに、パリのエッフェル塔らしきものの足が見えていて、そこから、こちらへ向けて階段が降りてきています。その階段の一番上にハンナのStadeさんがいるのです。それはまさに、ぱんぱかぱぁ〜んと宝塚の主役が登場してくるかのような感じです。おぉ、と思っていると、男声達がその階段に群がり、ハンナを取り囲もうとする、しかし、ハンナが下へ降りてくると、適当にあしらわれて、ばたばたと倒れていってしまう、というくだりは、まさに喜劇そのものですね。笑わせるツボをしっかり押さえていると言えるでしょう。

 さて、そのハンナのStadeさん、とってもチャーミングな方ですね。貫禄も十分に持っていらっしゃいますが、ハンナのとてもお茶目な感じをよく表現していて、まさに貴婦人という雰囲気をたっぷりと出しています。一方のダニロのHagegardさんも、同様に貫禄たっぷりの方ですね。でも、いかにもやんちゃなプレイボーイといった感じをうまく表現しています。お2人ともお年の割りにとっても若く見えて、また実際、その歌唱や演技も若々しくて、すごいと思ってしまいます。そして、そのお2人のデュオもとっても優雅でお洒落で素敵なんです。そして、その延長にある、2幕での2人のワルツ、これがたまらないくらいにお洒落なんです。とっても自然な感じで優雅に舞うことができるんですね。こんなにもムードたっぷりで踊れるなんて、すごいなぁ、と感心してしまいます。

 しかし、主役の彼ら以上に素敵だと思ったのはカミーユのGrovesさん。こちらはまだお若い方のようですが、実に凛とした声で、ヴァランシャンヌのことが好きで好きでたまらないという気持ちを切々と歌っているのが印象的です。そりゃ、こんな美声で口説かれたら、人妻であっても心がなびいてしまうわいな、と思わせるのに十分なだけの技量を持っていらっしゃることが、はっきりと分かります。対するヴァランシェンヌのBabidgeさんも、やはり素敵な美声でカミーユに応じています。惚れ惚れとしてしまうような美しい声がふわぁっと響いてくるのは、とても素敵です。だから、そんな2人の二重唱はとても聴き応えがあります。1幕でも2幕でも、主役以上に存在感のあるデュオを、たっぷりと聴かせてくれました。

 出演している人達全員が素晴らしい技量を持っているのと同様に、演出の方も実に素晴らしいのがまた、印象的です。特に第2幕のハンナ邸の庭園のシーン。背景の庭園の風景が実に美しいのです。まるで写真を持ってきたかのような、いや、実際に奥に緑の芝が広がっていると錯覚してしまうような、実に見事な庭園が舞台に出現したのです。その美しさと言ったら! 日本では見たことがないほどの美しさに感動するのでした。

 ところで、今回の公演は、「New Year's Eve Gala」です。このオペレッタをそのまま上演しても何の”Gala”にもなりません。私達も、一体、どこが”Gala”なんだろうと思っていたのです。しかし、それは3幕になって明らかになります。3幕の冒頭、例のマキシム風の装飾のされたハンナ邸が舞台になって、そこで繰り広げられるフレンチ・カンカンが、このいオペレッタの1つのお楽しみですね。いきなり、「天国と地獄」の曲が流れて、華やかなフレンチ・カンカンが展開するのが、普通なのですが、しかし、今回の公演では、この部分がちょっと違うのです。スッペの曲が出てこないで、レハール風の曲がずっと流れながら、それに合せてフレンチ・カンカンが繰り広げられるのです。ん?…と思っていると、やがて、ニエグシュのアリアが終わると、さらに、ニエグシュが、”今回は特別ゲストをお迎えしていまぁす!”とか言い出して、登場してきたのが、…名前は存じませんが、アメリカで有名なタレントさんか誰かなのでしょう。会場中が、どぉっと湧きます。コミカルなトークで会場を爆笑の渦に引き落としていく彼女のペースになり、もうすっかり、マキシム風のショーが、彼女の仕切るショーになってしまっています。しかし、それだけではありません、彼女が更にゲスト歌手を紹介していくのです。クラシック畑からは、あのトム・ハンプソンが登場、その凛とした美声をたっぷりと聴かせてくれます。他にもブロードウェイで歌っているのであろう歌手達が次から次へと登場してきて、すっかり、舞台の様相はブロードウェイの舞台に変わってしまっています。合間合間に司会をしているタレントさん(?)のトークが入りながら、実に楽しいひとときとなるのでした。(もちろん、英語で話しているのを全て理解できているわけじゃありませんけど…^^;)オペレッタの出演者達も、舞台に座り込んで、彼らの繰り広げるショーを、すっかりくつろいだ格好で聴いていて、とっても楽しそうにしています。そう、これが”Gala”なのですね。大晦日特別の演出というわけです。私達も、よく分からない部分もあるけれども、何だか皆が楽しそうにしているから、それにつられて笑ったりしながら、楽しいひとときを持つことができます。と、こんなことがずっと小1時間ほど続くのです。これだけのことができるのって、やはり、ニューヨーク、或はMETだから、なのでしょうね。様々な文化が交流する場所だからこそ、オペレッタの中にミュージカルナンバーを組み込んだりすることができるのでしょう。(もっとも、オペレッタが変形してミュージカルが誕生した、ということもあるのでしょうけど…)楽しい中にも、アメリカの懐の深さを垣間見たような気もするのでした。

 長々としたショーが終わると、舞台は再び、オペレッタに戻ります。そして、後はお決まりのオチへと流れていくのでした。実に楽しくも素晴らしい公演でした。終演後も、またいつか、5階や6階の席でいいから、またこの劇場でオペラを見てみたい、と思うのでした。やはり、「MET」には「MET」ならではの魅力があります。音楽芸術の奥深さをじっくりと味わうことができる場所として、「MET」が世界中に有名なわけが、分かったような気もします。多くの人を魅了してくれる「MET」、これからもずっと私達を楽しませてくれることを期待しながら、新世紀へのカウントダウンが始まろうとしているNYの街に戻って行くのでした。