らいぶらりぃ
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フジ子・ヘミング ピアノリサイタル

●日 時2001年1月14日(日)15時開演
●会 場神戸国際会館・こくさいホール
●出 演ピアノ:イングリット・フジ子・ヘミング
●曲 目シューベルト/アンプロムプチュ
ショパン/ノクターン第2番変ホ長調Op.9-2
     ノクターン第5番嬰へ長調Op.15-2
     バラード第1番ト長調Op.23
     アンプロムプチュ第3番変ト長調Op.51
     エチュード第11番イ短調「木枯らし」Op.25-11
     エチュード第3番ホ長調「別れの曲」Op.10-3
     エチュード第12番ハ短調「革命」Op.10-12
リスト/「詩的で宗教的な調べ」より 葬送曲
    「3つの夜想曲」より 愛の夢第3番変イ長調
    「2つの伝説」より 小鳥に語るアッシジの聖フランシスコ
    「パガニーニ大練習曲」より ラ・カンパネラ
(アンコール)
ドビュッシー/月の光
ショパン/ワルツ第7番
モーツァルト/トルコ行進曲
ブラームス/ハンガリー舞曲第5番

 何かと話題の、フジ子・ヘミングさんのリサイタルに行ってきました。新世紀初の(国内の)コンサートです。(^^;

 さて、既にTVや著書、CD等で広く知られているフジ子さんですが、実は私は初めてなんですね、彼女の演奏を聴くのって。(CD屋の試聴コーナーでは聴いたことはあるのですが…)だから、とっても楽しみにしていたのです。一体、どんな演奏を聴かせてくれるのだろう?って。あれだけ話題になる方ですから、素敵な演奏をするに違いないと思ってたのです。

 そして、その期待は見事に当たります。最初のシューベルトからして、彼女の独特の世界がはっきりと表れてくるのです。何と言うか、とても穏やかで優しく、ふわっと包み込むような音が響いてくるのですね。そして、それはショパンになると、より顕著になります。こんなショパンは聴いたことがない、そう思えるほど、独特な演奏なのです。例えば、バラード。割とドラマティックに演奏する人が多いですし、また、実際、そういう曲なんだろうと思ってもいたのですが、しかし、フジ子さんの演奏はこの思いを完全に否定してしまいます。人生の中で多くの辛苦を味わってきた方が、或は昔のロマンスやその情熱を思い出し、懐かしんでいるかのような、非常に”渋い”演奏なのです。情熱たっぷりに、それを爆発させるというような(たぶん、先月にこの同じホールで聴いた、リ・ユンディさんなんかだったら、そんなふうに弾くのでしょうね…)、若々しい演奏とは違い、非常に熟した、味わい深いものなのです。それはきっと、フジ子さんご自身の人生そのものが反映されてのことなのでしょうね。幾多の試練を乗り越えて生きてこられた彼女ならではの、まさに独自の表現に、深く感銘を受ける思いがします。きっと、作曲したショパン自身も、この曲がこんなふうに演奏されるということは考えてもみなかったのではないでしょうか…(ショパン自身も若くして亡くなられてしまいましたし…)

 バラード以外でも、「木枯らし」や「革命」等のエチュードも、同様にかなり独自の路線です。これらの曲にしても、派手な曲というイメージがありますが、しかし、フジ子さんの演奏は決して、派手に音を表現するというのではありません。非常に内にこもるような、激情を表に出すのではなく、それを内へ向けて発散させていくというような演奏なのですね。そして、また、音の1つ1つを大事にしていこうという姿勢の現れなのかもしれません。或いは、先のショパンコンクールで惜しくも入賞を逃した梯剛之さんの演奏を思い出すような、非常に丁寧で優しい音楽、と言うてもいいのでしょうか。音がこもって聴こえるから、普通の演奏者だと、ペダリングがおかしいのでは、と勘ぐってしまうのかもしれませんが、フジ子さんの場合は、あえて、狙ってそうしているのでしょうね。それが彼女の音楽なのでしょう。

 後半はリストの曲が並びます。こちらになると、前半と違って、音もかなりクリアに聴こえてきます。リストの曲の方が、お好きなのでしょうか。非常に伸びやかに自由に歌い上げていきます。それでも、「愛の夢」など、やはり独特で、中間部の盛り上がるところも、押さえ気味に、内なる高揚を表現しているようでしたが、それでも、やはり何かしら訴えかけてくるものは強く伝わってくるような感じがします。最高なのは、やはり、「ラ・カンパネラ」。これを目当てに聴きに来たという人も多いのでしょうが、やはり、彼女の弾く「ラ・カンパネラ」は違いますね。どうしたら、そんなふうに弾けるのだろうと思ってしまうような、得体の知れない(?)魅力があります。テンポもゆっくりめで、音をとても大事に扱いながら、それでいてしっかりとそこに思いを込めて、聴く側に伝えていく、「ラ・カンパネラ」がこんなにも素敵な曲だったのだということを、思い知らされたような気がします。

 アンコールは何と、要望に応えて4曲も弾いてくださいました。ドビュッシーはともかく、フジ子さんの弾くモーツァルト、なんてちょっとイメージができなかったのですが、なかなかどうして、プログラム中の演奏とは違って、実に楽譜に忠実な、いかにも古典派らしい演奏をしていました。最後のブラームスもなかなか盛り上がり、会場も、おぉ、と驚いていたようでした。

 期待どおり、いや、それ以上に素晴らしい演奏で、1年の初めを迎えることができて、とても幸せな気分に浸ることができました。今度は、4月に、この同じホールで、フジ子さんとウィーンフィルのメンバーの競演を聴くことになっております。そちらもまた、ますます楽しみになるのでした。