らいぶらりぃ
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神戸市演奏協会第155回公演

神戸市混声合唱団 春の定期演奏会

●日 時2001年3月18日(日)15時開演
●会 場神戸文化ホール・中ホール
●出 演北村協一指揮神戸市混声合唱団
演出:岩田達宗
●曲 目松井和彦/「英雄たちのクライマックス」より
  宮本武蔵/卑弥呼/……?/……?/……?
  ベートーヴェン/アームストロング/ゴッホ
林光/若林一郎の台本による一幕のオペラ「あまんじゃくとうりこひめ」

 今回の神戸市混声合唱団の定期演奏会は、何と、オペラの上演であります。でも、オペラと言っても、いわゆるグランド・オペラではなくて、ごく小さなオペラです。だから、公演の副題は「小さな小さな日本のオペラたち」。普段は、あまり神戸市混声合唱団の演奏会には積極的には行こうと思わないのですが(すみません…)、何か興味をそそるものがあったので、行ってきました。

 前半は、松井和彦さん作曲の「英雄たちのクライマックス」。昨年の倉敷音楽祭で初演され、中国ニ期会の福山公演に続いての3回目の上演になるのだそうです。演出は、神戸出身の岩田達宗さん。さぞや斬新なものなのでは、と思っていたのですが、…案の定、斬新なものでした。何が斬新かと言うと、とにかく型破り的な要素がいっぱい詰まっているということに尽きるでしょう。タイトルのとおり、様々なな英雄達の姿を、ごく短いオペラ形式で次々と上演していくのですが、それは、まるでマンガを見ているかのようなコミカルなものであり、時には吉本の新喜劇を思わせるような面白みもあったりして、とにかく、笑えるのです。こんなにも面白可笑しいオペラなど、他にはない、そう思わせるだけの魅力があります。

 最初は宮本武蔵。例の厳流島での佐々木小次郎との決闘シーンを再現していきます。が、何よりも印象的なのは、最初、舞台上には小次郎配下の者たちが並んで、遅い!と武蔵を非難しているところから始まるのですが、そのシーンで、舞台の端っこの方で、男性団員が2人、突っ立って、松の木を演じているのです。そのポーズも可笑しいのですが、何か、学芸会的な雰囲気がそこにだけあって、これが会場の笑いを誘っていたのです。まさに、掴みはOKという感じで、これで、見る者の心はぐっと、舞台へと引き寄せられてしまいます。舞台ではお決まり通り、武蔵が小次郎に勝ち、刀の長さなどが勝敗を決めるのではない、とかいうようなことを言うて終わります。

 次が卑弥呼。何やら怪し気な雰囲気を漂わせながら、卑弥呼が登場して、お祈りをしています。周りには民衆が群がっていて、ひたすらに雨乞いをしています。と、ピアノの音により、雨垂れの音が再現され、雨が降ってきた!というシーンになります。と思ったら、次の瞬間には、もう、水が溢れてしまったのか、人々が何やら泳いでいるようなのですね。そんなに雨が降ったんかい、と突っ込んでしまいそうな感じで終わります。

 その次からの3つは、タイトルが伏せられています。「……?」の中に入る人名を、会場の客にあててもらおうという、クイズ・オペラなのです。で、まずは1問目。舞台には、何やら蓄音機らしきもの(人?)が出てきて、周りを発明家らしき人とその助手達が囲んでいます。そして、その蓄音機(らしき人?)に録音をして、そして、再生。…が、なかなかちゃんと再生されない、さぁ、修理だ!と取りかかると、全員で蓄音機を囲んで、手荒な修理をしていきます。仕上げは、ハリセン。痛そう!と思いながらも、ぷっと笑ってしまうのはいけないのでしょうか… そうして最後には蓄音機が完成して、ちゃんと録音したものが再生されるぞ!というところで幕になります。…エジソンなわけですね、これが。

 4つ目は、何やら船に乗って遠くを望遠鏡で見ているような人物が登場してきます。インドはどこだ?と言うています。やがて、船はどこかへたどり着いた、と思いきや、いきなりインディアンの群れが現れ、奇声を上げながら、走り去っていきます。と、1人、遅れたインディアンがぽつりと一言、「ここ、インドとちゃうで!」どっと会場も湧いてしまいます。そして、新大陸発見だ!と喜ぶ一向。主人公も喜んで、上着を脱ぎ捨てて、会場に向けて背中を向けると、そこには、…思いっきりUSAって書いてあるやんか。(^^; しかも、可愛いミッキーマウスのお面つきで。何ともチャーミングな演出で、さらに会場が湧いたのは言うまでもありません。そう、答はコロンブスなのでした。

 5つ目は、白衣を着た学者風な人物が、太陽を中心に置いて、その周りを星が回っているということをモデルを使いながら説明しています。もちろん、その太陽系のモデルをやっているのも人間です。くるくると周りながら、1人、地球だけが一生懸命、その役割を果たしていきます。が、主人公はやがて、宗教裁判にかけられ、その説を否定するよう、言い渡されてしまいます。悲しみで、星たちも去っていき、主人公たちもどこかへ… 1人、ぽつんと残る地球。「それでも地球は周っているんですけど!」と言うたところで幕になります。そう、答はガリレオです。クイズ・オペラと言うて、簡単なもんですね。(^o^)

 クイズを離れて、再びプログラムの方へ。6つ目になるのが、ベートーヴェン。合唱団員を前に、指揮をするベートーヴェン。気難しい顔をしながら、指導をしてきます。が、くしゃみをしたり、蠅を追って、ベートーヴェンの頭を叩く団員、その勝手な動きに対して、腹を立てて暴れるベートーヴェン。何とか押さえ込んで、ようやく「第九」を歌い出した団員たち。どうでしょう?という問いに対して、ベートーヴェン曰く、「ベートーヴェン、耳が聴こえないから、分からない!」と。全員がずっこけたところで、幕になるのでした。

 7つ目は、アームストロング。あの月面着陸の瞬間を描いていきます。月面で嬉しそうに歩き回るアームストロング達。が、突如としてそこに現れるのが、宇宙人。脅かされて、逃げ廻る彼等。最後、酸素ボンベのパイプ(?)が切れてしまい、アームストロングが倒れてしまうというところで幕になります。…何か、後味が悪いような気もするんですけど…(^^;

 最後は、ゴッホ。狂気に陥ってしまったゴッホが銃で自殺を図るという衝撃的なシーンを再現していきます。これはなかなか、シリアスな感じで、見ごたえがあったように思います。やはり、最後はびしっと決めた、ということなのでしょうか。

 …という具合に、短いオペラが8つ続くのですが、ほんと、楽しい内容でした。団員の皆さんも、すっごく表情がよくて、心から、このオペラの上演を楽しんでやっているという感じがよく伝わってきます。団員1人1人が実によく動き回っていて、まさに”熱演”しているわけなのです。時には舞台上を暴れまわっている、と言うた方がいいくらいで、舞台上のひな段を壊してしまうほど、凄い暴れよう(?)でした。(実際、ひな段が壊れかけて、公演途中で、舞台屋が出てきて、トンカチでとんとんやっていたのです…)こんなにも楽しかったのは、作曲もあるのでしょうが、むしろ、演出の方の力なのではないでしょうか。いかにも関西っぽいノリの、笑いを誘う演出というものが全般に施されていたと思うのです。笑わせるツボを押さえながら、それでいて、しっかりと見せる部分は見せる、しごく当たり前のことなのかもしれませんが、今回の公演は特にそれがはっきりとよく出ていたと思うのです。いやぁ、実に素敵なものでした。

 後半は、林光の「あまんじゃくとうりこひめ」です。タイトルは割とよく見かけるのですが、私にとりましては、生で見るのは、初めてです。これもやはり、面白い!の一言に尽きますね。話は、とのさんがうりこひめをさらおうとやってくるのを、あまんじゃくが阻止して、それまでのあまんじゃくに対する偏見がなくなる(?)という平易な筋ですが、これをこれだけ見応えがあるようにしているのは、やはり、林光さんの力なのでしょうね。ピアノやパーカッションが実に効果的に使われていて、特に、機織り機の音をパーカッションで表わしているのは、おぉ、と思います。からから、がったん、という音をちゃんと出しているんですね。それに合わせて、舞台でもうりこひめが機を織っていくのです。このシーンは、なかなか可愛らしいと思います。そう、うりこひめを演じているのが、石塚広子さんだったのですが、妙に合っていますね。可愛い、というよりは幼い、といった感じがよく出ていて、まさに、じっさとばっさの大事な宝物のうりこひめ、という雰囲気がよく出ていました。一方のあまんじゃくは、木下裕子さん。彼女の声は、よく響きますね。人の声の真似をするというあまんじゃくの役にはもってこいでしょう。このお2人が、なかなかの好演技を見せてくれていたのは、印象的ですね。でも、さらに強烈なのが、とのさんの萩原次己さん。会場後ろの入り口から、けらいの杉江康さんを引き連れての登場だったのですが、それは、…まるで志村けんさんの「バカ殿」を見るかのよう。顔を白く塗って、まさに馬鹿なとのさんという感じなんです。けらいとのやりとりも、まさにマンガを見るかのようなコミカルなもので、ついつい笑ってしまいます。こんなとのさんなら、あまんじゃくにしてやられても当然、というのもうなずけます。(^^; そういうコミック的なものがある一方、ワキでは、じっさの井原秀人さんとばっさの栗木充代さんが、味な演技を見せてくれます。特に、井原さんのじっさは、実に渋い、ええ感じになっていて、いいなぁと思います。どたばたとしながらも、最後はハッピーエンドで終わり、何か心に残る内容でした。カーテンコールでは、…とのさんがまだ、うりこひめをさらおうとして、会場の笑いを誘っていました。おいおい…(^^;

 今まで、神戸市混声合唱団の演奏って、あまり真面目に聴いたことはなかったような気もするのですが、それは、どこか演奏がつまらない、というふうに思っていたからなのです。音楽としてきれいにまとまっているんだけれども… という思いはいつもありました。ですが、今回の演奏を聴いて、今までとは何か、違うものがあるように感じました。こんなにも団員の皆さんが生き生きと、表情豊かに伸びやかに歌っている、或いは演じているという姿は、これまでには私は見たことはありません。それはひとえに、今回取り上げたものが、こういう型破り的な内容のものであったことに加え、やはり、演出の岩田さんの力もあるのでしょうね。言いたいことを言う、伝えたいことを伝えるための、ほんまもんの演技というものがどういうものなのかとはっきりと示してくれたと思うのです。そのことは、この合唱団にとっても大いにプラスになったはず。今回の演奏会で、何か、一皮剥けたような、そんな気がするのです。団員の皆さんは、それぞれ音楽大学の声楽科などを卒業されたプロの方ばかり。だから、力はもともと十分に持っていらっしゃるのです。だけど、今まではあまりその力が、十二分に出せていたのかというと、聴いた限りでは、私は必ずしもそうではないと思うのです。が、今回の演奏会を機に、彼等の持っている力が存分に出すことができるような、いい方向へとベクトルの向きが変わったように思うのです。更に、もっともっと主張のある、いい演奏をしてくれることを望みたいと思います。幸いにも、次の定期(9月2日)では、何と、あの宇野功芳氏を指揮に迎えて、モーツァルトのミサ・ブレヴィス他を演奏するそうなんです。”熱い”演奏をすることで知られる宇野さんの指揮が、さらに、この合唱団の力を存分に発揮させるであろうことは、間違いないことでしょう。今から期待、なのでした。