らいぶらりぃ
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フジ子・ヘミングとウィーンフィルの仲間たち

●日 時2001年4月1日(日)15時開演
●会 場神戸国際会館こくさいホール
●出 演ピアノ:フジ子・ヘミング
ヴァイオリン:ライナー・ホーネック
ヴィオラ:ヘルベルト・ケーファー
チェロ:フランツ・バルトロメイ
コントラバス:ゲルハルト・ムートシュピール
クラリネット:エルンスト・オッテンザマー
●曲 目ショパン/ノクターン第2番変ホ長調Op.9-2
     エチュード第11番イ短調「木枯らし」Op.25-11
リスト/ため息
    愛の夢第3番 変イ長調
    ラカンパネラ
モーツァルト/クラリネット4重奏曲第1番K.378
クルーセル/クラリネット4重奏曲第1番変ホ長調Op.2
シューベルト/ピアノ5重奏曲イ長調Op.114 D.667「ます」
(アンコール)
モーツァルト/トルコ行進曲
ブラームス/ハンガリー舞曲第5番

 1月に続いて、またフジ子さんの演奏会を聴いてきました。今回は、ウィーンフィルのメンバーのカルテットと組んでの室内楽であります。フジ子さんの室内楽… ちょっと想像できなかったので、楽しみな公演でありました。

 とは言うたものの、最初はフジ子さんのピアノのソロ、その後に、ウィーンフィルのメンバーによるカルテットの演奏があり、最後に、「ます」を合わせて演奏する、というだけのものなのですね。…もう1曲くらい、何か一緒に演奏してもいいんじゃない?と思うのは私だけでしょうか… ま、そういうことは置いておいて、まずはピアノのソロであります。

 フジ子さんのピアノは相変わらずですね。1月に聴いた時と同じく、独特の味わいのある演奏を展開していきます。曲目もほとんど一緒だからかもしれませんが、何か懐かしいような雰囲気を漂わせており、その柔らかく深い音に、これがフジ子さんの音楽だということを思い知らされます。印象的なのは、「木枯らし」でしょうか。1月に聴いた時もそうだったのですが、ほんとに穏やかな感じで、あの細かなパッセージを弾いていくのですね。それは、単に木枯らしの風景を描写するというのではなく、その木枯らしを、或いは家の中から窓を通して眺め、そこに思いをはせているような、そんな雰囲気の演奏なんですね。だから、風景の描写と言うよりは、心象の描写であるのではないかという気がするのです。そして、それがまさにフジ子さんならではの演奏だと思うのです。「愛の夢」にしても、単に美しく綺麗に演奏するというのではなく、実に表情豊かに、テンポもたっぷりと揺らしていて、こんなにも複雑に心が揺れ動く様というものを、実にうまい具合に表現していたと思うのです。決して、誰にも真似することのできない、フジ子さんだけの世界がそこにはありました。

 でも、フジ子さんのピアノ以上に素敵だったのは、ウィーンフィルのメンバーによるカルテットです。この手の室内楽を生で聴くのも久しぶりだったからなのかもしれませんが、その見事なアンサンブルは、さすが世界一流のアーティストが集まっただけのことはあります。全体のバランスというものが常に考えられていて、お互いが出るところと引っ込むところとをはっきりと意識し合っていて、それが実にメリハリのある演奏を作り出しているのです。緊張感とゆとりとがうまくマッチして、極上の演奏を仕立てている、といった感じでしょうか。モーツァルトも素敵でしたし、クルーセルの曲も素敵でした。実に美しいテーマが印象的な第2楽章や、あっという間に終わってしまう短く可愛らしい第3楽章などが印象的です。このカルテットの演奏をもっともっと聴いていたい、そう思わせるような極上の演奏でした。

 そして、最後になって、ようやく、フジ子さんとカルテットのジョイントになります。カルテットの演奏だけを聴いていた時、この実に緻密に美しく構成されたカルテットの中にフジ子さんのピアノが加わって、一体、どんな音楽ができるのだろうかと、ちょっと不安にも思っていたのです。だって、最初に聴いたとおり、フジ子さんのピアノはかなり独特のものでしょう。それは自由奔放に独自の世界を築いているというもので、そんな彼女が室内楽に加わると、どうなってしまうの?という気がしてならなかったのです。が、いざ、「ます」の演奏が始まってみると、そのようなことは杞憂に過ぎなかったことに気付きます。フジ子さんのピアノも、彼等のアンサンブルの中に完全に溶け込んでいて、実にいい感じで演奏が進んでいくのです。失礼なことを言うようですが、どちらかと言うと我が道を行くといった感じのフジ子さんが、ここまでアンサンブルの中に完全に入り込んで演奏をしはるとは思わなかったので、ちょっとだけびっくりでした。(ごめんなさい…)そして、溶け込むとは言うても、もちろん、ちゃんと出るべきところは出てくるわけで、そんな5人の、まさに駆け引きが展開されていくのを聴くのは、この上ない快感でもあります。それはまさに、彼等5人の”競演”であり、お互いがお互いを理解し合いながらも、ちゃんと自己主張をしていこうという競争が見られて、その緊張感は、聴く者をぐっと捉えて離さないほどのものでした。「ます」がこんなにも充実した内容の曲であったということも改めて思い知らされたような気もします。実に見事で充実した演奏でした。

 アンコールは、1月と同様のモーツァルトのトルコ行進曲。そして、何と、全員が出てきて、弦楽+クラリネット+ピアノによる、ブラームスのハンガリー舞曲です。これはとっても嬉しかったです。あのハンガリー舞曲が、室内楽のアンサンブルになると、こんなふうに聴こえるということが、妙に感動的で、この曲の魅力というものを改めて感じます。

 もう少し聴いていたい、そう思わせるような、とっても充実した演奏でした。フジ子さんの室内楽というのも素敵なものですね。そして、彼女は今年は、カーネギーにも進出されるそうで、ますますのご活躍ですね。既に凱旋公演というものも決まっているようで、更なるご活躍を期待しながら、カーネギー公演の成功も祈らないではいられないのでした。