らいぶらりぃ
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神戸アーバンオペラハウス/フィガロの結婚

●日 時2001年5月19日(土)17時開演
●会 場神戸文化ホール・大ホール
●演 目 モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」
●出 演アルマヴィーヴァ伯爵:井原秀人
伯爵夫人:田中潤子
フィガロ:林剛一
スザンナ:寺内智子
ケルビーノ:服部愛生
マルチェリーナ:小林久美子
バルバリーナ:黒田恵美
バジリオ:西尾幸紘
バルトロ:松下雅人
アントニオ:服部英生
クルツィオ:安川忠之
花娘:宮西央子・渡辺孝子
阪哲朗指揮大阪センチュリー交響楽団
神戸アーバンオペラハウス合唱団
演出:松本重孝

 今年のアーバンオペラは、「フィガロの結婚」。指揮は阪哲朗さんで、演出は松本重孝さん。すっかり、お馴染みのコンビですね。2日間公演のうちの、私は1日目の方に行ってきました。さて、その内容は、と言いますと、…とっても素敵なものでした。演奏や演出、美術、何をとって見ても、文句の1つも言えないような、これまでのアーバンオペラの中でも最高の出来だったのではないかと思うのです。

 何が良いと言うて、まずは、ソリスト達でしょう。一番は、伯爵の井原秀人さんに、伯爵夫人の田中潤子さん。このベテランのお2人が中心でどっかりとしているから、周りで若手の歌い手さん達も歌いやすかったのではないかと思うのです。芸達者な井原さんは、小憎たらしい伯爵の役を実にうまく演技していますね。そのよく響くバリトン声で、フィガロ等とやり合うところなどは、見ていても何か面白みがあります。それに、よく見ていると、井原さん、結構、細かな部分でウケねらいの動きをしているんですね。舞台の角の方でコケてみたりして、ちゃんと見ていないと分からないだろうってもんです。そういうことができるのも、ベテランの余裕、なのかもしれませんが。一方の田中さんも、その凛とした響きが、いかにも伯爵夫人という雰囲気で、素敵です。2幕や3幕でのアリアは、ほんと、すぅっとした響きが、清楚な淑女といった感じで、とても美しかったです。こうした2人の歌唱や演技が、どっかりと安定しているから、それだけでも舞台全体も安定するのでしょうね。

 では、他の役はと言うと、一番印象的なのは、スザンナの寺内さんでしょうか。スザンナの役って、ほんと、ころころとした、どこかコミカルな感じもさせながら、それでいて、舞台を進行させていくための重要な役だと(勝手に)思っているのですが、寺内さんのスザンナはまさにそんな感じなんです。可愛らしいという感じを前面に出して、愛敬たっぷりに演技しているのが素敵だと思います。また、ケルビーノの服部さんも素敵です。ボーイソプラノとしての役をうまく演じています。ご自身、阪さんの指揮でケルビーノを演じるのも2回目ということですが、さすがに、それだけの余裕みたいなものも多少、感じられますね。非常に素直な響きを持った声でのケルビーノのアリアは素敵でした。あ、女声ばかり書いてますが、もちろん、フィガロの萩原さん等の男声陣も素敵でした。気になると言えば、2日目の公演では、伯爵夫人を並河寿美さんが、スザンナを山本美樹さんが演じられるということ。キャスティングとしては、2日目の方もまた面白そうだ、と思うのです。…どうだったんでしょうね。

 合唱の方もおおむね、良かったと思うのです。昨年の「カルメン」では、?と思う部分も多かったのですが、今回は、人数も少なくて小数精鋭なのか、なかなか聴かせてくれます。もっとも、合唱の出番もそう多くないといえば、確かにそうなのですけどね。

 声楽陣に加えて素敵なのは、やはり、阪さん指揮のセンチュリー響。序曲でこそ、ちょっと演奏が荒っぽくも聴こえたのですが、次第に、いつもの美しいアンサンブルを聴かせるようになってきます。音自体がとても艶やかなのですね。弦の響きもすぅっとしているし、管も嫌みがない。特に印象的なのは、ホルンの音。いくつか、アリアの伴奏的にホルンが鳴る箇所がありますが、そこでは、もう、これ以上のやわらかい音はないというくらいに、ふわっとした音色を響かせてくれるのです。こうした音を出して、それでしっかりと声楽陣を支えていくのですから、舞台の上も歌いやすいでしょうね。相変わらずの阪さん節(?)は健在で、ほっとするのでした。

 ところで、今回の舞台は、真ん中に各幕ごとの舞台となる部屋(又は庭)が置かれ、その周りを見えない壁(!)が囲っているという形のものでした。割とシンプルな感じの舞台構成ですが、でも、これでしっかりと魅せてくれるのですから、たいしたものです。外から部屋に入ってくる時も、見えない壁をどんどん、とノックするしぐさをして、それからドアを開ける動作をして入ってくる、という芸の細かさ。見ようによっては、パントマイム的にも見えるから、これは面白いです。また、更に舞台について言えば、3幕の結婚式の場面になると、舞台が伯爵の部屋から、あっという間に結婚式の会場に早替り。シャンデリアの奇麗な美しい式場のシーンになり、これは、思わずため息が出てしまうほど、素敵なものでした。こんな素敵なものをそろえることができるというのも、たいしたものです。

 これだけの素晴らしい公演ができるというのは、やはり、今回にかける関係者の並々ならぬ努力があったからでしょう。特に、今年は、ソリストを選定するにあたっては、全国規模でオーディションを行ったと言いますから、その意欲の程がうかがえます。これだけのものは、ぜひ、来年以後も続けていってほしい、と思うのです。が、何でも、オペラ公演は今年でいったん打ちきり、来年からはガラコンサートの形でやっていく、という噂もあるようなのです。今年、これだけ周囲の期待に十分に応えるだけのものをしておいて、それはないでしょう、というのが正直なところです。スポンサーがつかなくなったとかいうのが直接の原因のようにも聞きますが、こんなところにも不況のあおりがきているのでしょうか。行政サイドからの補助がどうなっているのかは知りませんが、何ともお寒いことです。何とかならないのでしょうかねぇ…