らいぶらりぃ
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第166回神戸学院大学グリーンフェスティバル

長谷川弥生ヴィオラ・リサイタル

●日 時2001年5月26日(土)15時開演
●会 場神戸学院大学メモリアルホール
●出 演ヴィオラ:長谷川弥生
ピアノ:鷲宮美幸
●曲 目シューベルト/アルペッジョーネ・ソナタイ短調D.821
ロッラ/練習曲第2番
ショパン/ポロネーズ第6番変イ長調Op.53「英雄」
シューマン/おとぎの絵本Op.113
ブリテン/ラクリメ−ダウランドの歌曲の投影Op.48
(アンコール)
エルガー/愛の挨拶
マスネー/タイスの瞑想曲

 神戸学院大のグリーンフェスティバルも今年で14年目なんだそうです。これだけの間、ずっと続けてこられているということ自体、すごいことだとも思うのです。関係者の皆さんのご尽力には、ほんと、頭が下がる思いです。

 さて、今回は、長谷川弥生さんの登場です。グリーンフェスティバルと言うと、真っ先にそのレジデント・アーティストである長谷川陽子さんのお名前を思い浮かべてしまいますが、今季はご都合があわなかったのでしょうか、陽子さんはご出演にならず、代わって(かどうかは知りませんが)、お姉様の弥生さんの登場、なのでした。ヴィオラのリサイタルというのも、なかなか聴く機会に恵まれませんし(今までに聴いたことがあるのは、今井信子さんのリサイタルくらいなもんです)、これはいい体験となりました。

 最初はシューベルト。チェロとかにも編曲されて演奏されることも多い曲ですね。妹の陽子さんもかつて、このフェスティバルで弾いたことがあるんだそうです。で、弥生さんのヴィオラは、これが実に表情豊かに、シューベルトの、歌曲にも通じる曲の心象というものを歌い上げていきます。ヴィオラの音自体が、ヴァイオリンとチェロを足したような、非常に奥行きの深い響きを持っているということもありますが、そのしぶい響きから織り成される曲は、とても素敵なものです。1楽章の第1テーマなど、その冒頭からとっても印象的な響きがしてきて、聴く者の心をぐっと捉えますね。加えて、2楽章の何とも言えない甘美な旋律、シューベルトの曲の素晴らしさもさることながら、ヴィオラの音色って、こんなにも豊かで、聴く者の心の中にしみ入ってくるものなのか、ということを思い知らされます。切れ目なく入る3楽章も、非常動的な旋律と静的な旋律との対比が素敵です。そして、その表情の表現のし分け方もまた素晴らしいものです。楽器自体の発音が遅い、と弥生さんご自身、おっしゃっていましたけど、そんなことを感じさせないくらい、ぱっと音色を変えてしまわれるのですね。いやぁ、素晴らしいものです。

 次のロッラの曲は練習曲ということもありますが、とても短い曲です。ですが、無伴奏で、ヴィオラだけでどれだけのことができるのか、ということを、私達にもはっきりと知らせてくれます。オーケストラの中での目立たない脇役的な存在に終らず、ヴィオラだけでもたっぷりとメロディを歌うこともできるし、また、それに合せて副旋律もしっかりと歌うこともできる(つまり、和音ということ)、しかも、人間の声に近いからか、とても安心感を与えてくれる、そんなヴィオラの魅力がたっぷりと入っている曲でした。

 後半は、シューマン。これも、もとからヴィオラのために書かれた曲です。だからなのでしょうか、弥生さんのヴィオラの音色が更に深みを増して聴こえてきます。「おとぎの絵本」という、可愛らしいタイトルのついた曲ではありますが、シューマン独特の寂しさに満ちた叙情性たっぷりのメロディがたくさん出てきます。それらを、弥生さんのヴィオラが実に切々と歌い上げていくのです。特に1曲目や4曲目の、そのむせび泣くような響きには、こちらも涙しないではいられません。心地好い緊張感を伴う感動というものを久しぶりに味わったような気がします。

 最後はブリテン。なかなか不思議な感じの曲ですね。呪文を唱えているような、或は怒っているような感じもするのですが、でも、それだけではなく、割と目まぐるしく曲調は変わっていきます。タイトルにあるとおり、ダウランドの歌曲をベースにしているらしいのですが、それはどこに出てきているんだろう、とちょっと分からないです… が、弥生さんの演奏にかける集中力はさすがなもので、そこから生まれてくる緊張感は、決して飽きさせるものではありません。むしろ、その曲の不思議さの中に、分からないながらもずるずると引き込まれていくという感じです。そして、やがて感情が次第に高まってきます。まるでオーケストラの中でヴァイオリンがぐいぐいと音を高く高く引っ張っていくような感じで、気分は一気に昂ぶってきて、そして迎えるクライマックス。これがもとになった歌曲か、という歌がはっきりと現われます。極めてシンプルな形ですが(そりゃ古典時代の曲だからそうだろう)、シンプルだからこそ、余計にこのクライマックスにふさわしく、感動を呼びます。静かな感動のうちに曲は終るのでした。

 ところで、この春、神戸学院大学では、ピアノを新しく購入されたそうなのです。仲道郁代さんらも一緒に入って、浜松のヤマハの工場まで行って検討した結果、ヤマハの最新のCFIIISなる機種になったのだとか。4月に購入して、今回が初のお披露目。まだまだ弾き込みも足りないから、十分に音が出ないかも、ということだったのです。ところが、なかなかどうして、鷲宮さんもおっしゃってましたけど、いい音を鳴らしているのです。短い期間にこれだけ仕込むというのも大変なことでしょう。調律士の方などのご尽力の賜物と言えましょう。鷲宮さんのピアノソロによる「英雄」ポロネーズも、実によく響いていました。鷲宮さん自身は、割と軽い感じで弾いてはるのですが、それが実によくかぁん!と響いてくるのです。fで鳴るところなどは、思った以上に大きな音量が出て、ちょっと驚いてしまいました。

 ヴィオラの温かな響きと新しいピアノの華やかな音色とを存分に味わうことのできた演奏会でした。