らいぶらりぃ | |||||
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●日 時 | 2001年5月26日(土)19時開演 |
●会 場 | 神戸文化ホール・大ホール |
●出 演 | ヴァイオリン:久保田巧 |
ピアノ:ヴァディム・サハロフ | |
●曲 目 | ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第4番イ短調Op.23 |
プロコフィエフ/ヴァイオリン・ソナタ第1番へ短調Op.80 | |
シュニトケ/喜びのロンド | |
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第5番へ長調Op.24「スプリング」 | |
(アンコール) | |
クライスラー/愛の悲しみ | |
愛しのロスマリン |
久保田巧さんとサハロフさんとのデュオによる、ベートーヴェン・チクルス、昨年10月の第1回目でも、素敵な演奏を聴かせてくれたことは、まだ記憶に新しいところです。今回は4番と5番という、対比をなす作品を取り上げています。陰と陽、という曲調の違いを味わうことができますね。4番の方は、最初から、切迫した感じの曲調で始まりますが、久保田さんのヴァイオリンは、その緊迫感というものを見事に表現しています。決して、きゅうきゅうとした感じではなく、しかし、何かとてもやるせない、切なくもの哀しげな感じを、うまい具合に表わしているのです。それは悲劇のオペラのヒロインのアリアを聴くようなもの。すぅっとした音色が、どこまでも失われることはなく、そこからくる深ぁい響きが、曲のシリアスさを十分に語っています。非常に品のいい艶っぽさが、実に素直な響きとなって、それが曲のシリアスさ、悲劇性というものをたっぷりと表わしているのですね。久保田さんのヴァイオリンは、まさにこうした曲を演奏するにこそふさわしいと言うことができましょう。しかも、その緊張感がずっと持続していき、2楽章、3楽章でも絶えず、緊迫感をもって、私達の心に迫ってくるのです。極めて雄弁なまでの艶やかさに、すっかり魅了されてしまうのでした。
が、一方の5番、こちらになると、がらりと音色が変わります。凛とした響きはそのままですが、音がより一層、艶っぽさを増しているように思うのです。その艶やかな音色で、今度は実にのびのびと、あたかも人生の喜びを謳歌しているかのように、たっぷりと歌い上げていくのです。しかも、その喜びを表わすのに、非常に高い音などで歌うようなところでも、決して力んだりすることはなく、深い響きのままに、すぅっと高音も歌っているのです。まるで、天から明るい光がさぁっと差し込んでくるかのような、そんな神々しさみたいなものすら感じてしまうのは、私だけでしょうか。実に安らぐことのできる演奏なのでした。
ところで、ベートーヴェン・チクルスと言うておきながら、一番、印象に残ったのは、プロコフィエフだったりします。プロコのこの1番ソナタ、とんでもないくらいにすごい曲ですね。極めて変化に富みながらも、一貫して、まるでロシアの暗く雲の立ち込める空を表わすかのように、暗たんとした情景が続くのですね。風がすぅっと流れていくような中、暗いトンネルをくぐって行くかのような1楽章、そして、そのトンネルを抜けた途端に始まる、何かと闘うような鋭利さを持つ2楽章。ここでの緊迫感と言ったら、もう、ベートーヴェンの4番以上にすさまじいものです。サハロフさんのピアノも、一段と冴え渡り、パンチのある音を叩き出していきますし、それに負けじと久保田さんのヴァイオリンも澄んだ音を響き渡らせます。それはあたかも、お2人が強烈なまでのバトルを展開しているかのようでもあり、私達はただ、息を飲んでそれを聴いているしかない、という状態。こんなにすごい演奏は、そうそう聴けませんね。そして、3楽章になると、曲調はがらりと変わり、今度は夜の空いっぱいに無数の星が光輝いているような情景を思わせるような音楽が始まります。ここでの久保田さんのヴァイオリンの音色は、もうたまらなく魅力的です。どんどんと高みへと登っていき、しまいには星の彼方へまでも行ってしまいそうなくらいな、線の細い、クリアな音が響くのです。何て透明感のある音色、その美しさには、思わず涙してしまいます。そして、終楽章はまた複雑怪奇な感じで盛り上がり、どこまで行くのだろうと思っていると、1楽章冒頭の風が吹くような旋律が戻ってきて、曲は静かに終ります。何て充実した曲で、素敵な演奏なんでしょう! 室内楽系の演奏会で、ここまで深く感動したことって、そうそうないです。これは、実に素晴らしい、最高の演奏でした。
ところで、もう1つのシュニトケの曲、シュニトケと言うと、どうも前衛的な音楽というイメージが強いのですが、この曲は、そうしたイメージを大いに覆してくれます。…ほとんど、モーツァルトかハイドンのような、明るく分かりやすい音楽なのです。へぇ、こんな曲もあったのね、という意外さにちょっと驚いたのでした。
明と暗、陽と陰とのコントラストを存分に味わうことのできた演奏会でした。次回もまた、楽しみです。