らいぶらりぃ
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バルトーク弦楽四重奏団

●日 時2001年6月2日(土)18時開演
●会 場フェニックスホール
●出 演バルトーク弦楽四重奏団
 ヴァイオリン:ペーテル・コムローシュ/ゲーザ・ハルギタイ
 ヴィオラ:ゲーザ・ネーメト
 チェロ:ラースロー・メズー
●曲 目モーツァルト/弦楽四重奏曲第14番ト長調K.387
バルトーク/弦楽四重奏曲第4番
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第8番ホ短調Op59-2「ラズモフスキー第2番」
(アンコール)
ベートーヴェン/ト長調Op.18-2より フィナーレ
モーツァルト/ニ短調K.421

 フェニックスホールさんがそのHP上でプレゼントの募集をしていました。それに私も、ものは試しとばかりに応募してみたのですが、運良く、当選してしまったのですね。それが、この演奏会なのです。バルトーク弦楽四重奏団、名前のとおり、ハンガリーのカルテットで、バルトークの演奏にかけては右に出る者はいない、というばかりの地位を築き上げているカルテットです。彼らの演奏を、今回、間近に(しかも招待で)聴くことができたのは、ほんと、ラッキーなことでした。

 1曲目のモーツァルトから、彼らの演奏はたっぷりと聴かせてくれます。この明朗な感じの曲を、彼らは、実に軽やかに、エレガントに弾いているのです。ハンガリーのカルテットと言うても、(こういう言い方は失礼かもしれませんが)決して土臭いということはなく、実に洗練された、ヨーロッパの香りたっぷりの演奏なのです。各楽器それぞれが自らの役割を十分に果たしながら、互いに見つめ合ったりして、それはそれは和気あいあいとした、いい雰囲気に包まれています。特に印象的なのは、セカンドのハルギタイさん。メンバー同士の意志疎通をするためにか、それぞれのメンバーに頻繁に目配せをしていて、更には会場の客席に向かっても愛敬をふりまいているのです。その人柄の良さというものがしのばれて、それだけでもとっても優しい空気に包まれる思いがします。そして、その優しさの中、彼らの表情の豊かなこと。モーツァルトのこの曲も、基本的には明るい曲調ですが、それでも所々、モーツァルト特有の哀しみを帯びたメロディが出てきたり、瞬間的に短調の和音が鳴ったりするところがありますよね。そういう部分でも、ぱっと瞬時に表情を変えてしまうのは、さすがです。そうした豊かな表情もあって、決して、飽きさせるような演奏ではなく、これがモーツァルトの時代の世界だぞと私達を優しく誘ってくれているようで、とっても心地良い演奏なのでした。

 2曲めはバルトーク。彼らの得意とする曲なのでしょう。冒頭から、緊張感たっぷりの演奏を聴かせてくれます。彼らの演奏に対する集中力というものは極めて凄いもので、その緊張感の中に、私達もぐいぐいと引き込まれていってしまいます。とっても演奏がアグレッシブで、ぴぃんと張り詰めた空気が会場を支配していくのは、なかなかの快感でもあります。1楽章は力強いながらもどこか神秘性を秘めたような曲。2楽章はそれを引き継ぎながらも、軽快な感じで進んでいきます。そして、3楽章。ここがこの曲全体の中心であり、もっとも重要な部分であるのですが、ここの美しさと言ったら! 前の楽章とは違い、内へ内へと追い込んで行くような内省的で神秘的な曲調なのですが、これがたまらなく美しいのです。ヴァイオリンが高く高く天へと登り詰めていくのに対し、チェロがそれを支えるように地にどっかりと据えるように響く、この上下に音空間が広がるかのような響きは、まさに感動もんです。内省的、と書きましたが、内へ向かうということは、内なる宇宙という広大な空間へ向かうということなのだ、ということを、彼らの演奏は如実に語っているかのようでもあります。素晴らしいもんです。そして、4楽章は、ピツィカートで奏される曲。2楽章以上に軽快さはあるのですが、が、前の楽章を引きずっているのか、どこか哀愁を帯びても聴こえます。そして、5楽章。狂喜なばかりにリズムが炸裂して、強烈なフィナーレを築いていきます。涼しい顔をしながら、チェロのメズーさんの刻むリズムがすさまじいです。そのリズムの上に、全ての楽器がけたましいまでに鳴り響きます。それは、とても弦楽器だけの演奏とは思えないほど。時には打楽器、時には管楽器が鳴っているかのような錯覚を与えてくれます。何度かの総休止を経ながら、曲は一気にラストへ。息をつかせる間もないほどの、圧倒的で感動的な演奏でした。いやぁ、こんなにも集中した室内楽を聴くというのも、そうそうないもんです。素晴らしかった。

 最後はベートーヴェンの「ラズモフスキー」の2番。ベートーヴェンの室内楽作品を代表する曲の1つですね。これもまた、彼らはたっぷりと聴かせてくれます。いきなり始まる和音の響きからして、彼らの曲に対する意欲というものがうかがえます。一番印象的なのは、2楽章。アダージョのゆったりとしたテンポに乗せて、それぞれの楽器が全くの対等に旋律を奏でていきます。とっても充実した中身のある、豊かな音楽がそこに作られていくのが、聴いていてはっきりと分かります。弦楽器だけの演奏で、ここまでも芳醇な味わいのある音楽ができるのだ、ということを見せつけてくれるのです。こんなにも美しい音楽を、生で聴くことができるなんて、何と幸せなのだろうと改めて思うのでした。

 こんなにも素敵な演奏会に、招待で行かせていただいて、本当に幸せだと思います。ホールさんには、本当に感謝したいと思います。ありがとうございました。