らいぶらりぃ
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第18回フェスティバル名曲コンサート

●日 時2001年6月10日(日)14時開演
●会 場フェスティバルホール
●出 演本名徹次指揮大阪シンフォニカー交響楽団
ピアノ:奈良田朋子
ソプラノ:六車智香
アルト:田中友輝子
テノール:山本裕之
バリトン:田中勉
大阪シンフォニカー合唱団/和泉混声合唱団
●曲 目ベートーヴェン/ピアノソナタ第14番「月光」
モーツァルト/ディヴェルティメントK.136
ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調Op.125「合唱」

 シンフォニカー響の名曲コンサート、今回は、「第九」。「第九」は12月に演奏されるものという、日本人的感覚からすると、何か季節外れなような気もしますが、でも、こういう名曲こそ、年中いつでも演奏されるべきものとも言えるでしょう。

 さて、今回の「第九」の演奏の前には、会場全員そろっての黙祷の時間がありました。言うまでもなく、大阪池田市で起きた、大教大付属小学校での悲惨な事件の犠牲者に捧げるものであります。こういう凄惨な事件が起きるからこそ、この「第九」に歌われているような生命の尊さ、人間愛の大事さというものが改めて問われるのでしょうね。2度とこんな事件が起きないことを祈りながら、大いなる愛に満ちた演奏を聴くのでした。

 …と言いたいところなのですが、音楽的には今回の演奏、どうなのでしょう。本名さんの「第九」って、むっちゃ速いですね。1楽章からして、テンポが速くて、ひたすらにずんずん、と前へ進んで行くという感じで、4楽章の「歓喜」へ向けての苦しみ、葛藤といったものを感じることはできません。あっという間に2楽章に入り、これもまたかなりの急速展開。勢いだけで怒濤のごとく終ってしまうと、美しい祈りのはずの3楽章。しかし、ここでもゆったりとたっぷりとテーマ(及びその変奏)を歌わせることはなく、きわめて淡々と無感動のままに終ってしまいます。肝心の4楽章にしても、何をそんなに急ぐのかというくらいのテンポで、オーケストラで高らかに歓喜のテーマを歌いあげることも不十分のままに、声楽陣の登場。ソリスト達にとっても、このテンポってかなり速いのでしょうね。朗々と歌いたいのであろうところを、オケがそそくさと進んでいってしまうから、引きずられるように、たっぷりと歌えずにいるのです。テノールの山本さんなんか、明らかにそう。テノール・ソロのマーチだって、もっとゆっくりしてもいいんじゃないかしらん。以後、2重フーガもわけの分からないうちに終ってしまい、あっという間に終結部。最後のコーダの直前のリタルダンドだって、もっとタメてもいいのではないか、そこから一気にアッチェルして感動のフィナーレを迎えるというのが普通なんじゃないのか、と思うのですが、そういうのもなし。何か中途半端に盛り上がって、感動を得ることもなく、さらっと終ってしまった、そんな感じがします。これも1つの解釈、なのかもしれません。でも、それにしても余りにも感動がないのではないかしらん。やはり、歌わせるべきところはしっかりと歌わせないと。音楽がそれでは成り立っていかないと思うのです。テンポのせいか、オーケストラ全体も、引きずられるように聴こえたのですが、本来のシンフォニカーなら、もっと熱い、感動的な演奏ができるはず。それができていないのは、明らかに指揮者のせいなのではないか、そんなふうに思えてならないのです。くどいようですが、こんな「第九」ってないと思う、のでありました。

 前半には、モーツァルトのディヴェルティメントがありましたが、こちらはまだ、聴けるものでした。でも、一番最初の「月光」には、どんな意味があったのでしょう。いきなりピアノ・ソロを聴いても、これから「第九」だと思うと、とってもちぐはぐな感じがしてなりません。一体、何を考えてこういう選曲をされたのでしょう? ちょっと理解に苦しんでしまいます。奈良田さんの演奏も、やや力み過ぎ(特に3楽章)な感じもして、ちょっと…なのでした。

 今回に限ったことなのでしょうが、いつも作られているパンフレットも何故かなくて、演奏と運営と両方にちょっと不満足な感が残る演奏会になってしまいました。次回はこんなことのないよう、期待したいと思います。