らいぶらりぃ
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神戸市演奏協会第159回公演

神戸市室内合奏団定期演奏会

●日 時2001年6月15日(金)19時開演
●会 場神戸文化ホール・中ホール
●出 演ゲルハルト・ボッセ指揮神戸市室内合奏団
ピアノ:石田多紀乃
トランペット:ディヴィッド・ヘルツォーグ
●曲 目パッヘルベル/カノン
ヘンデル/12の合奏協奏曲第5番二長調Op.6-5
バーバー/弦楽のためのアダージョ
モーツァルト/ピアノ協奏曲第12番イ長調K.414(385p)
ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1番ハ短調Op.35

 今回の神戸室内の定期は、なかなか多岐に渡る選曲で、楽しむことができました。前半は弦楽の響きを堪能し、後半はピアノとの協奏を楽しむ、というわけです。

 その前半では、特にヘンデルが印象的です。神戸室内は相変わらずの素直で伸びやかな響きを保ちつつ、緻密に練り上げられたアンサンブルを作り上げているのです。ヘンデルのこの実に明朗な曲も、彼らの手にかかると、更にその曲自体の魅力を増して聴こえるというものです。非常に透明感のある響きからは、まさに天上の音楽とも言える雰囲気が作り上げられて、聴く者の心をうっとりとさせてくれます。華やかさと明るさにあふれた素敵な演奏でした。

 が、そのすぐ後のバーバーもまた捨てがたいものです。さっきまでのあの明るさはどこへ行ったの?というくらいに、切り替えはすばやく、バーバーのシリアスな世界を、これまたたっぷりと作り上げているのです。小人数の編成であるにも関らず、なかなかボリュームたっぷりに聴かせてくれています。密やかにじわりじわりと段々とクライマックスへと向かって感情が高まっていくのは、まさに感動もんです。ここまでするのかというくらいにたっぷりと盛り上げてくれて、ほんと、お涙ちょうだいもんですね。たまりませんな。

 さて、後半になると、ピアノの石田さんの登場です。モーツァルトの明るく可憐な音楽を…と思いきや、これが必ずしもそういう雰囲気でないのに、ちょっと失望感を覚えます。何というか、彼女の弾くピアノって、全然楽しく聴こえないのです。こんなモーツァルトなんてありなの?というくらいに、面白みも明るさもなく、つまらなそうに弾いているのですね。いくらボッセさんの指揮がオケの方を明るく盛り上げようとしても、それは全くの無駄。彼女のピアノが入ると、音楽自体がとてもつまらないものに聴こえてしまうのです。う〜ん、どうして、こんなふうに弾くのだろう、調子でも悪いのかしらん、と思ってしまいます。2楽章のゆったりとした情感あふれる部分でも、同様です。全然、情感というものが感じられず、ただ単に弾いているだけ、そんな感じがしてなりません。一体、どうしたのでしょうね…

 が、最後のショスタコになると、彼女のピアノは俄然、冴えてきます。この力強さに満ちた曲を、彼女のピアノはトランペットに負けじとばかりにぐいぐいと弾いていきます。そうか、或いは、モーツァルトはこのためにある程度セーブしていたのではないか、と勘ぐってしまいます。ま、それはそれでいいのかもしれませんが、でも、ショスタコにこれだけの力を入れるのなら、モーツァルトにももうちょっと力を入れてもらってもいいのではないか、と思ってしまいます。1楽章や4楽章の力強さに満ちた部分では、彼女の渾身のパワーが音楽にもみなぎるかのようで、かなりの迫力をもって、こちらへもぐいぐいと迫ってくるものがあります。この緊張感はなかなかたまらないものです。ただ、2楽章とかで、やや力が抜ける部分になると、さっきのモーツァルトで聴いたような音が蘇ってきてしまいます。何と言うか、音のボリュームというものがあまりないのですね、基本的に彼女のピアノって。1楽章とかではかなりの気合をもって、がんがんと響かせてはいましたが、それ以外の部分になると、どうにも、ボリュームが下がってしまう。タッチ自体もあまり深いほどでもなく、軽く流してしまっているような感じ。だから、聴く側にすると、何かテンションが下がってしまって聴こえてしまうのですね。中の2つの楽章は、ちょっといまいち、という感じも強かったのですが、それでも、1楽章及び4楽章での凄さはなかなかのものでもありました。何か、中途半端な感じもしないでもないのですが、ちょっとは満足ができたかに思います。

 アンコールでは、モーツァルトの2楽章をもう1回、演奏してくれました。ボッセさん曰く、このゆっくりとした静かな曲を、あの池田市で起きた悲惨な事件の犠牲者の子供達に捧げたい、と。ボッセさんの情の深さがたっぷりと表れていた演奏でした。(もっとも、ピアノは相変わらず、本番の時と同様、感動のないものでしたが…)演奏が終わっても、しばらくはじっと手を降ろさないでいるボッセさん、その思い入れの深さに、こちらも一緒に、彼等の冥福を祈らずにはいられません。素敵な演奏会でした…