らいぶらりぃ
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児玉桃ピアノリサイタル

●日 時2001年6月23日(土)14時開演
●会 場同志社女子大学頌啓館ホール
●出 演ピアノ:児玉桃
●曲 目ドビュッシー/子供の領分
       スケッチ帳より
       仮面
       版画
       喜びの島
ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」

 児玉桃さんのリサイタルに久しぶりに出かけてきました。この2日にいずみホールで聴いたコンチェルトに次いで、今回はソロのリサイタルです。いやぁ、この前も感じたのですが、桃さん、格段と力をつけてきていらっしゃいますね。そのことが、ソロの演奏ゆえに、よりはっきりと分かります。

 前半はドビュッシー。普段からパリに住んでいらっしゃるから、馴染みの作曲家ということになるのでしょうか。すっかり自分のモノにしてはりますね。印象的なのは、「版画」。モノトーンのしっとりとした色あいの演奏、と言うよりは、色彩豊かな浮世絵のような華やかさが感じられる演奏です。でも、その華やかさも決して嫌みではなくて、まるで今日の雨天に合せるかのように、とても落ち着いた色あいにおさまっているのです。「雨の庭」などまさにそう。そのまま、外の風景をそっくり描写しているかのような演奏です。それに、桃さんのピアノ、1つ1つの音を丁寧に扱っていくのは、前からそうなのですが、その1つ1つの音にそれぞれ意味あいを込めて弾いているようなのですね。ご自分でもそれを確認されるようにしながら、思いを込めて弾いてはる、そのことがはっきりと分かります。その曲に対する思い入れというのは、どの曲でもそうで、例えば、「子供の領分」の「ゴリウォッグのケークウォーク」では、とっても楽しそうに、やや崩しながら弾いてはるのが、また印象的です。以前は、お嬢様っぽい雰囲気が強かったのですが、かなりこなれれてきたというか、ラフな雰囲気も出せるようになったのですね。何か、新鮮な感じもします。「喜びの島」でも、何か嬉しそうにしながら情感のこもった演奏を聴かせてくれて、ほんと、素敵なピアノを弾くようになられたものだ、と改めて感心してしまいます。

 後半は、ラヴェルをさらっとこれまた実に繊細にも情感たっぷりに歌い上げて、そして、メインの「展覧会の絵」です。かなり気合が入っているようで、最初の「プロムナード」は、やけにテンションの高い演奏です。こんなにもテンポの早い演奏は聴いたことがないってくらいなのですが、同時に彼女自身も、何か大きな喜びをもって弾いているような、そんな感じが伝わってきます。題目のとおり、昔の友人との再会、と言うより、懐かしの故郷、関西の地でこうして演奏ができるということの喜びを謳歌するかのようでもあります。そのテンションの高さにぐっと引き込まれていきます。が、次の「小人」で、そのハイ・テンションが祟ったのか、ちょっとミスタッチが。結構、大きなミスとも言えるもので、明らかに誰にでも分かるようなものでした。そんなにあせらなくても、と思っていると、やがて「古城」で落ち着きを取り戻し、何事もなかったかのように弾いていきます。その後も、「テュイルリー」や「ひな鳥のバレエ」でも、ややテンションを高めるような部分が出てきますが、何とかご自分を落ち着かせようとしているのが分かります。でも、そこでそうやって落ち着かせることによって、ハイ・テンションの中にもゆとりが生まれて、曲の味わいを出しているようにも聴こえます。一方で、「カタコンブ」などは、ほんとにどぉん、と重くのしかかるような雰囲気たっぷりです。そこから「ニワトリの足の上の小屋」へがらりと雰囲気を一転させる、変わり身の早さ。そこから一気にクライマックスである「キエフの大門」へ。堂々としながら、渾身のパワーを込めて、この大門を描いていくのは、まさに感動もんです。そのすらっとした容姿からは想像できないほど、非常にボリュームのある音量が響き渡り、圧倒的なパワーの中、曲は終るのでした。

 …いやぁ、まさに桃さんのパワー全開の感動的な演奏でした。そして、しとやかさの上に、こうしたパワフルさをも合せ持つようになられたことを、とても喜ばしくも思います。まさに、脂が乗ってきた、と言えるでしょう。そのエネルギッシュさをこれからもずっと大事にしていってほしいなと思います。彼女の魅力を改めて存分に味わうことのできた演奏会でした。…それにしても、京田辺の同志社は遠かった…(^^;