らいぶらりぃ
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JointConcert 銀河の序

●日 時2001年6月29日(金)19時開演
●会 場アルカイックホール
●出演&曲目I.神戸女子大学コーラス部
 松下耕/女声合唱のための5つの童話
 指揮:岩本多恵
II.神戸大学混声合唱団エルデ
 Gyorgy Orban作品集
 指揮:水本貴士
III.神戸大学混声合唱団アポロン
 荻久保和明/混声合唱のための組曲「復活」より
 指揮:武田次郎
 ピアノ:沼田苑子
IV.合同演奏
 千原英喜/混声合唱とピアノのための「銀河の序」
 指揮:斉田好男
 ピアノ:細見真理子
(アンコール)
團伊玖磨/「筑後川」より 河口

 また後輩達の演奏会です。今月頭の関混連に次いで、今回は、2、3年に1度くらいの頻度で行っている、他団とのジョイント・コンサートであります。1か月の間に2回も大きな演奏会があると、大変でしょうなぁ。

 さて、今回のジョイントの相手は、神戸女子大学コーラス部と、同じ神大のエルデ。この3つの団に共通しているのは、斉田好男先生を、顧問或は技術顧問或は常任指揮者としていて、斉田先生の指導を受けているということ。言わば、斉田先生の門下生ばかりが集まった、ということですね。そして、その斉田軍団(?)が挑むのが、今回が初演となる、委嘱作品の「銀河の序」。「おらしょ」などでも知られた千原さんの作曲した曲です。そう言えば、斉田先生も、かつて、木下牧子の「邪宗門秘曲」をエルデで、荻久保和明の「How Old am I?」をアポロンで、それぞれ指揮をして初演をなさっているのですね。初演ものにもめっぽう、定評のある斉田先生が、その軍団を引きつれて、どういう演奏を聴かせてくれるのか、が今回の一番の聴きどころです。

 さて、この「銀河の序」、テキストは何と、松尾芭蕉です。芭蕉の書いたものを取り上げて、そこに、純日本的な音楽を付し、その世界をぐっと広げているのが、印象的です。1曲目は、「笈の小文」の一節です。それを、縦に音のそろったコラール風(?)に朗々と歌い上げていきます。「さればでござる…」と、何年か前の大河ドラマ「吉宗」で、江守徹さんが語っていた、近松門左衛門よろしく、何か歌舞伎の口上を言うかのような節まわしになっているのがお洒落(?)です。日本語の持つリズムを大事にしているようで、いわゆる変拍子になっているのでしょうか、個人的にはこういうの大好きです。朗々と歌っていく合唱に対して、凄いのはピアノです。あの口上にどうして、こんなピアノがつくの?っていうくらいに、激しいんです。鍵盤の隅から隅までを行ったり来たりの、非常に激情的な音楽を作っているのです。一見、合唱とピアノとが合ってないようにも感じてしまいます。が、このピアノが或は終曲へと結びついていく伏線になっているのではないか、とも言えます。表面上は朗々としていても、心のそこでは激情が流れている、ということを表わしているのではないか、と思えるのです。…もう少し後で、詳しく書いてみます。2曲めは、アカペラで歌われます。テキストは「奥の細道」の有名な冒頭部分。ヴォーカリーズで始まった後、「月日は百代の過客にして…」という例のくだりが、何か厳かな雰囲気で歌われていきます。途中、かなりの盛り上がりを見せますが、全体的には厳かな雰囲気が強いように思います。そして、ピアノが入ってきたかと思うと、すぐに3曲目。終曲です。これが「銀河の序」そのものです。ピアノが再び、激しいパッセージを弾いていきます。その上に低声部などを中心に、不気味な感じが展開していきます。それは、荒々しく波の打ち寄せる日本海を描写しているかのようです。そう、この曲の舞台は佐渡島。冷たい空気が吹きすさび、高い波が荒々しく押し寄せ、空にはどんよりと低い雲がたれこめている、そんな情景をありありと表現しているようで、実に力強い曲です。そして、…そう、1曲目からの激情というのは、実はここへつながってくるのではないか、と思うのです。この曲の全ては、この佐渡島の場面に結び付いてくる、そういうことを、或は始めから意識して、曲を作っていらっしゃるのではないか、と思えてしまうのです…(ほんまかどうか、知りませんが。)ふと、曲は荒々しい中に、はっとするような美しさを見せてくれます。それは、雲の切れ間から見える、きらきらと輝く星空、天をまたがる銀河を表わしているのでしょうか。その美しさは、ほんと、目をみはるものです。美しいメロディーがたっぷりと歌われます。が、すぐに荒々しさもよみがえってきて、地上、いや、海上の荒涼とした風景と、天上のきらめきとが一体となって、私達の目の前に現われます。最後に繰り返し歌われるのが、あの有名な俳句です。「あら海や 佐渡に横たふ あまの川」これが何度となく、力強くも美しく歌われるのは実に印象的です。そして、それは銀河全てを覆いつくすかのような壮大なクライマックスを築いて、終わりを迎えます。実に充実した曲でした。また、演奏の方も、斉田先生の棒は、この曲の持つ魅力を余すところなく引き出しており、また、フレーズ単位での歌い回しにも十分に注意を払っているのがうかがえます。合唱もそれによく食らいつき、また、斉田先生の歌い回しをよく理解して、見事に歌い上げていました。さすが、斉田軍団、怖るべし、といったところです。また、細見さんのピアノもいつものごとく、実に丁寧で、その上に、この曲特有の力強さを存分に出していました。曲も演奏も、ほぼ言うことなし、この、新しい音楽が世に生みだされる場に居合せることができたのは、本当に幸せなことでした。いやぁ、よかったぁ。

 ところで、合同演奏の前には、もちろん、各団の単独のステージがあります。印象的なのは、エルデの演奏です。オルバーンという作曲家の宗教曲を取り上げていたのですが、いいですね。曲もノリのよさで聴かせるという感じで、非常に聴きやすいですし、そこへきて、演奏の方も、エルデの皆さんが何かを伝えようという、はっきりとした意識を持って歌っているのが、こちらにちゃんと伝わってくるのです。これはなかなかの好演でした。他の団は…、触れないでおきます。(^^;

 久しぶりに学生達の”熱い”演奏を聴くことができて、ちょっと幸せ、なのでした。