らいぶらりぃ
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白石加代子「白物語」シリーズ神戸第九夜

●日 時2001年7月23日(月)19時開演
●会 場神戸アートヴィレッジセンター
●出 演白石加代子
●演 目宮部みゆき/「小袖の手」
浅田次郎/「うらぼんえ」

 普段は演劇とかの舞台ものってあまり見に行かないのですけれど、友人夫婦に誘われて、初めて白石加代子さんの「百物語」を見てきました。白石さんがずっと(もう10年にもなるのですね)このシリーズをされているのは、前から知ってはいたのですが、なかなか見にくる機会に恵まれず、ようやくにして、見ることができたのでした。

 さて、「百物語」とは、江戸時代から伝わる怪談の数々、とまず思い起こされるのですが、ここで言う「百物語」はそれとはちょっと違います。明治・大正の時代から、今の現代作家の作品まで、様々なジャンルの中から選ばれた作品を取り上げているのですね。それも、必ずしも怖い話ばかりというのでなく、怖いというよりは不思議な、と言った方がいいような、そんな話を集めているのです。恐怖とか怨念とか憎しみとか、そういうものも、人間の本来的に持っているものであり、そこから派生してくるものは、実に様々な現象となって表れてくる、それが時には不思議な現象となってくるが、しかし、それらは根源的には人間の本質に由来するものである、というようなことがテーマなのでは、と思うのです。「恐怖は人間の本質。だけど人生は楽しまないと」と、白石さんご自身も仰っているようですが、まさに人間の本質とは何かということを問いかけてくるような、そんな内容なのです。

 演目は2つあって、最初は宮部みゆきさんの「小袖の手」というもの。舞台には、中央にちんまりと落語でもするかのような高座が設けられていて、そこに白石さんが登場してきます。「え〜、お笑いを一席」というわけではありませんが、そのお姿は、どこか落語家を連想させます。実際、話の方も、昔ながらの長屋を舞台としており、粋のいい江戸っ子弁がぽんぽんと飛び出してきます。八っつぁんの「てぇへんだ、てぇへんだァ、ご隠居」というようなのはありませんが(そりゃそうだ)、基本的には、おっ母さんが娘に自分の体験談を語って聞かせるという筋になっています。その語りの中で、ちょっと怖い話が出てくるのですね。でも、母親が娘に語っているものですから、あんまり恐怖を前面に出してくるような語りではないですね。白石さんの口調も、ほんと、愛情に満ちたもので、実際にそこに自分の娘がいるかのように、ほんと、なりきって語っているのです。そして、テンポよくぽんぽんと話を進めていくので、実に聞きやすいです。いつしか、ぐいぐいと話の中に引込まれていってしまう感じです。え、次はどうなるの?って感じで、どんどん次の展開を期待しながら、耳を傾けてしまうのですね。気が付いたら、あっという間に終わってしまったという気がします。話の内容まではここでは書きませんが、実に面白いものでした。

 2つめは、浅田次郎さんの「うらぼんえ」。ベストセラーの「鉄道員」に収録されている作品ですね。私は読んだことはなかったのですが、知らなくても十分に楽しめます。話は、お盆の日に亡くなった人の霊が現れてくるというもので、そこが、或いは”恐怖”という部分になるのかもしれません。でも、個人的には、”恐怖”というよりは、むしろ、温かい人情とか江戸っ子の粋さが溢れていて、実に心温まる作品だと思うのです。それに、多分、この話の内容と同じような体験を実際にしているというような女性もいるでしょうし(この話の主人公は女性なのです)、素直に感情移入ができてしまいそうな雰囲気を持っています。それに、白石さんの語りがまた、実に説得力があって、男ですら、主人公の女性の気持ちに同調してしまいます。時には笑いを誘いながら、軽妙に進められていく話は、聞いていてほんと、気持ちいいですね。終わった時には、何か清清しさのようなものを感じているのでした。

 でも、この白石さんの公演は、確かに一度、行くとハマりそうな感じですね。聞きやすいですし、難しくもないし、すっと感情移入できるし、何よりも、終わった時に、何かええ話を聞いたぁ、という満足感とか充実感を感じ、そして心が温かくなったような、そんな感じがするのですね。また今度も行こうかな、と思ってしまいます。実に素敵な公演でした。