らいぶらりぃ
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武蔵野音楽大学管弦楽団演奏会

●日 時2001年9月10日(月)18時30分開演
●会 場神戸新聞松方ホール
●出 演カールマン・ベルケシュ指揮武蔵野音楽大学管弦楽団
ピアノ:石川和男
●曲 目ロッシーニ/歌劇「ウィリアム・テル」序曲
グリーグ/ピアノ協奏曲イ短調Op.16
ブラームス/交響曲第4番ホ短調Op.98
(アンコール)
ブラームス/ハンガリー舞曲第5番

 普段、なかなか滅多に聴けないであろう、武蔵野音大のオーケストラを聴いてきました。天下に名高い(?)武蔵野音大の学生の中から選抜されたメンバーによって構成されているという、このオーケストラ、なかなかいい演奏を聴かせてくれます。一般に学生オケと言えば、練習時間をたっぷりと取れるから、よく組み上げられた音楽を聴かせてくれるという印象があります。が、このオケはそれに加えて、音大の学生です。音楽を専門に勉強している人達ばかりなのだから、これでいい音楽が聴けないわけがないというものです。それにも1つ言うと、東京の大学であるということから、音楽が東京弁なんですね。音楽に関西弁も東京弁もないとは思うのですが、それでも、やはり普段の練習時の会話が関西弁又は東京弁というだけで、何か、そういうニュアンスの違いというものが音楽の表現にも出てくるというものです。プロのオケでもそう感じるのだから、学生オケでもそうです。どこかお洒落な感じの演奏に聴こえるのでした。

 何が良いというて、音が見事なまでに一つにまとめ上げられていて、それがとってもクリアな響きをしているのですね。特に弦の響きなど最高なものです。「ウィリアム・テル」の冒頭部の低弦の響きだけで、もう、何かぞくっとくるものがあります。それが、ブラームスになるともう大変。ただでさえ渋いこの曲を、ぶ厚いサウンドで、ずんずんと響かせて聴かせてくれるのです。ヴァイオリンのプルト数が多いということもあるのでしょうけれど、非常に重厚な音をたっぷりと聴かせてくれます。それは、このブラームスのシンフォニーの魅力を余すところなく表現しきっていると言うてもいいでしょう。お洒落でしなやかな感じの1楽章、どこか寂しさを感じさせながらもドラマティックに盛り上がる2楽章、軽快に、しかし決して力むことなく弾む3楽章、内に情熱が込められた4楽章、どれをとっても、素晴らしいものです。それに、ベルケシュさんの音楽の作り方も実に緻密です。細かな部分までもいちいち指示を出しながら、細やかな表現のニュアンスというものをはっきりと出しているのです。3楽章なんか特にそうです。若いメンバーだと、どうしても勢いだけでわぁっと盛り上げてしまいがちですが、決してそういうことはせずに、きちんとセーブしながら、ごく自然な感じに音楽を盛り上げていきます。そう、自然なのですね。変に作ったような部分がない、それがこの演奏のいいところでしょう。1楽章や2楽章などでも、ごく自然に曲を歌わせていて、それが、この曲の根底にある、ブラームス本来の甘美なまでのロマンティシズムというものを見事に表現しているようです。いやぁ、久しぶりに素晴らしいブラームスを聴いたような気がします。

 ところで、今回のソリストは、これもまた学内からオーディションにより選ばれた人なんですね。石川さんの弾くグリーグは… 男性らしい力強さはあります。が、それがやや音の粒が荒いように聴こえてきて、グリーグの持っている北欧らしい繊細さというものをやや欠いているように聴こえてしまいます。特に高音部など、音がきんきんと鳴っていて、もうちょっとクリアに響かせるようにしても、と思ってしまいます。それでも、さすがオーディションで選ばれるだけのことはあります。これだけの大曲を、見事に力強く演奏しきっていました。そして、さらに研鑚を積まれれば、もっと素晴らしいピアニストになられるのでは、と思います。今後にも期待、です。

 それにしても、素敵な演奏会でした。毎年、なんてのは無理でしょうが、2〜3年に1度くらいの頻度で、神戸にも来たらいいのに、と思ってしまうのでした。