らいぶらりぃ
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CHISA & MINO Concert

●日 時2001年9月25日(火)19時開演
●会 場神戸新聞松方ホール
●出 演ヴァイオリン:高嶋ちさ子
ピアノ:加羽沢美濃
●曲 目バッハ/G線上のアリア
エルガー/愛の挨拶
ロドリーゴ/アランフェス協奏曲より
加羽沢美濃編/TSUNAMI
〜高嶋ちさ子のヴァイオリン講座〜
サラサーテ/カルメン幻想曲
加羽沢美濃/赤い鹿の石
      やさしい風
      哀しみのアリオーソ
ナポリ民謡/カタリ・カタリ
〜加羽沢美濃のリクエスト・コーナー〜
 明日があるさ/星に願いを/ひまわり/シューベルトのセレナーデ
 剣の舞/My Heart Will Go On
マスネ/タイスの瞑想曲
サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン
(アンコール)
加羽沢美濃/憧れの神戸ありがとう(即興)
猫踏んじゃった(連弾)
モンティ/チャールダシュ

 TV等のメディアでもお馴染みの顔になっている、高嶋ちさ子さんと加羽沢美濃さん。このお2人がデュオを組むようになられたのは、4年程前のこと。その時から、ずっと、いつか聴いてみたいと思いながらもなかなか聴きに行く機会に恵まれませんでした。それが、この度、松方ホールにやって来るというので、今度こそ、と気合入れて、ようやくに聴くことができました。…結論から言ってしまうと、むっちゃくちゃ楽しかったです。(^^)v

 何が楽しいのか、それはもう、お2人のトークに尽きるでしょう。TVの「踊る!さんま御殿」で、あの明石家さんまさん(個人的には余り好きじゃないのですが…)を相手に、決してヒケをとらないような”喋り”を披露している、ちさ子さん、その印象のままに、ぺらぺらと実に滑らかに口が動きますね。それに対して、美濃さんは、どこかおっとりとしたような感じ。もちろん、彼女とて、あの黛俊郎氏亡き後の「新題名のない音楽会」の司会を見事に務め上げた人、ただ黙ってるだけじゃないのですが、でも、2人が並ぶと、自然と、ちさ子さんが突っ込み役で、美濃さんがボケ役、というふうになってしまうのですね。その漫才のような、息の合ったトークは、聞いていてとても楽しいですし、それがまた、クラシック嫌いな人にも受け入れやすいようなカジュアルな雰囲気を作り出しているのですね。会場中、大ウケしながら、和やかな空気に満ちていました。

 と言うて、おしゃべりだけが良かったというのではなく、お2人の演奏自体もまた、素晴らしいものです。独特の優しい雰囲気を持つ美濃さんのピアノの上に乗って、ちさ子さんのヴァイオリンが、実にクリアで伸びやかな音を響かせていきます。そう、トークでの印象がそのまま、演奏の方にも反映していると言うてもいいでしょう。ほわっとした雰囲気の美濃さんのピアノは、はっきりと自己主張をするちさ子さんの音色を際立たせるように、しなやかに響いていきますし、ちさ子さんのヴァイオリンもそれを十分に感じ取りながら、美濃さんのピアノも更に前面に引き出してくるかのように、ぐいぐいと演奏を引っ張っていく、そんなふうに聴こえます。「G線上のアリア」なんかが特にそう。美濃さんのピアノは、かなり独自にアレンジしたふうに弾いていきます。どこかジャズ風な感じもするのですが、その上で、かっちりしたクラシカルな譜面どおりのメロディを、ちさ子さんのヴァイオリンが奏でていくのです。それはお互いの音楽をうまく融合させていくかのようで、クラシカルな音楽とポピュラー系の音楽とがまさに一体となったような、そんな演奏でした。

 ちさ子さんのヴァイオリンだけに関して言うと、先にも書いたように、ほんと、ハリのあるしっかりした音色をたっぷりと響かせてくれますね。また、技術も相当なもので、「カルメンファンタジー」にしても、「ツィゴイネルワイゼン」にしても、実に見事に弾きこなしています。強弱のダイナミクスの幅も広く、表情も実に豊か。それでいてパワフルで、豪快なまでに弾きあげる様は、ほんと、格好いいものです。惚れ惚れとしてしまいますね。そして、そのちさ子さんの独壇場となったのが、第1部の「ヴァイオリン講座」のコーナー。ちさ子さんが、ヴァイオリンという楽器についていろいろと語るというもので、楽器の聴き(弾き)比べなどもしてくれました。彼女の持っているン千万円のヴァイオリンと、通販などで売られているン万円のヴァイオリン、この2つを弾いてみて、その音だけを聴いて、どちらがどっちかを当ててみよう、というもの。会場のお客さんは目を閉じて、その音に集中して、そして回答。う〜ん、最初の方がいい響きしてたから、こっちがちさ子さんの楽器かな?と思ってると、それが正解。おぉ、当たったぁ。でも、会場では、後に弾いた方の音が良かったという人が大勢。ちさ子さんも、え?って感じでした。そこへ、美濃さんが、「お客さんはこっちの方が好きだって言ってますよ」って、値段により楽器の音が違うのだということを言わんとしているちさ子さんに、珍しく突っ込んでいます。「値段によって音が違おうと言うても、でも、やっぱり人の好みの問題だから…」と主張する美濃さんに、ちさ子もやられた、って感じ。楽しいやりとりでした。

 一方、美濃さんのピアノはと言うと、これも先に書いたとおり、かなり独特の雰囲気を持っています。とても優しい空気を漂わせているのですね。そのふわっとした感じの空気が、音楽を温かく包み込み、聴く人の心を和ませてくれます。彼女オリジナルの作品もいくつか紹介されましたが、中でも良かったのは「赤い鹿の石」。これ、「楽園」というアルバムの中に収録されたものなのですね。実は、これの楽譜を持っていたりします。(^^; まだちゃんと弾いたわけではないのですが、この曲もなかなか素敵な作品ですね。同じテーマで、優しく歌う部分から、次第に盛り上がっていく様は、実にお洒落でいいです。どこか、西村由紀江さんの音楽にも通じるものがあるかのように感じます。でも、西村さんの場合は、割と低音をずん、と響かせる曲が多いのに対し、美濃さんの音楽は、ほんとに、ふわっとした感じなのですね。その空気が彼女の人柄を反映しているかのようで、素敵でした。そして、彼女の独壇場となったのが、第2部の「リクエスト・コーナー」。お客さんからのリクエストに応えて、あげられた曲をつなげて演奏していくというのです。…ピアニスターのHIROSHIさんと同じようなことをしてはる、って感じもしますが、でも、彼女の場合、明らかに違うのは、それぞれの曲を、全く自分のモノとして、必ずしも原曲に忠実に再現するというのではなく、オリジナルなテイストに仕上げていくのですね。HIROSHIさんは、割と原曲のイメージを大事にして、曲をつなげていきますが、美濃さんは、旋律だけ借りて、自分の音楽としてつなげていく、という感じです。だから、「剣の舞」なんて曲がリクエストにあがっても、その部分だけ、あの強烈な曲調になるというのでなく、原曲とは全く違う、極めて静かなものとして演奏しているのですね。ある意味ではこれの方がすごいと思うんです。それだけ多くの曲を知らないと、できないのは当然のことですが、それらを完全に自分のモノとして消化していないと、こんなオリジナルなふうに仕上げることはできないでしょう。いやはや、すごいものです。ちさ子さんも言うてはりましたが、ほんと、美濃さんって”天才”なのですね…

 楽しいままに演奏会はあっという間に終ってしまいました。終演後、例によってのサイン会で、お2人のサインをいただいたのは言うまでもありません。(^^)v でも、ちさ子さんが、ほんまにバンテリンを使っているのかどうかは不明、なのでした…(^^;