らいぶらりぃ
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日本テレマン協会第142回定期演奏会

●日 時2001年9月30日(日)15時開演
●会 場いずみホール
●演 目ヘンデル/オラトリオ「テオド−ラ」
●出 演テオド−ラ:マリア・ルス・アルヴァレス
アイリ−ン:渡邊由美子
セプティアミス:畑儀文
ディティマス:青木洋也
ヴァレンス:中川創一
延原武春指揮コレギウム・ムジクム・テレマン
バロック・コア・テレアン

 今月の頭に行われたNECのマイタウンコンサ−ト、この時のアンケ−トに応えたところ、抽選により、今日の演奏会の招待券をいただくことができました。思ってもみなかったことに、これはラッキ−とばかりに、行ってきました。

 さて、この「テオド−ラ」は、今回が本邦初演であります。ヘンデルの書いたオラトリオというと、どうしても「メサイア」や「天地創造」、「四季」などを思い出してしまいますが、この「テオド−ラ」もなかなかどうして、それらに負けないくらいの傑作ではないかと思います。話の筋は、次のようなもの。ロ−マ帝国の時代、アンティオケという国にテオド−ラというキリスト教徒の娘がいた、ロ−マ帝国の命を受けた、アンティオケの総督ヴァレンスは領地内のキリスト教を弾圧しようと、彼女らを捕えた、が、ロ−マの司令官ディティマスは、彼女を慕い、自分もキリスト教に改宗していた、そして、彼は彼女を救うべく、彼女のいる牢へ向い、そこで彼女の身代りになろうとする、しかし、そのことは発覚し、ディティマスには死刑の判決が降りようとしている、そこへ、テオド−ラも彼を救うべく戻ってきて、2人の生死を超えた愛が成就する… 言うてみれば、キリスト教の受難を描いたもので、ある意味ではバッハの受難曲にも相当するもの、なのかもしれません。物語りが進行していく途中に、キリスト教の教義を説くかのような合唱が入り、より宗教性を高めています。そして、割と淡々とした感じで曲は進んでいくのですが、そういう厳かな合唱を狭みながら、ソリスト逹によるやりとりはまさに緊迫感のあるもの。淡々としながらもドラマティックでもあり、実に面白く、また完成度の高い曲であると感じました。

 さて、その演奏ですが、ソリスト達もまた一流の人ばかりで、実に聴き応えがあります。一番は、テオドーラのアルヴァレスさん。そのすぅっと澄んだ声がとっても素敵です。清楚で純粋な女性であるテオドーラそのものと言うてもいいでしょう。最後の方で、彼女がヴァレンスとやり合うところなど、緊迫感の中にその純潔無垢さが感じ取れて、聴いていてもうっとりとしまいます。さながら、ジャンヌ・ダルクを見るかのような、その凛とした美しさに聴きほれてしまいます。そして、その彼女に想いを寄せるディティマス、カウンターの青木さんの声がまたいいですね。久しぶりに彼の声も聴いたように思うのですが、その美声にますます磨きかかってきたような気がします。すぅっとした響きが、ヴァレンスの権力に決して負けることのない、その一途な想いをよく表しています。このテオドーラとディディマスの2人が愛を語るところは本当に素敵ですね。2人ともほんとに魅力的な声ですし、説得力があります。そして、その澄んだ響きからは、大きな人間愛、というようなものすら感じとることができます。そう、この大きな愛こそが、ヘンデルが表現しようとしたものなのでしょう。単なる男女の愛にとどまらず、まさにキリスト教の言う、隣人を愛す、敵すらも愛す、そうした愛を語っているのですね。そして、それを理解しやすいように、テオドーラとディディマスの恋物語というのを取り上げているのでは、そんなふうにも思ってしまいます。なるほど、バロック期の傑作と言うにふさわしい作品というわけです。

 他にも、悪役(?)ヴァレンスの中川さんの声もまた、お固い役人、或いは自らの権力を強固にしようとする武将というようなイメージにぴったり。バスの響きにもますます厚みが増してこられたような感じで、いいなと思います。セプティアミスの畑さんは、余り出番が多くなかったですかね… 割と重要な役だと思ったのは、アイリーンの渡邊さん。キリスト教徒の代表、みたいな役柄なのですね。迫害されているキリスト教の側からの主張などを歌っているのです。その声は、派手な響きこそありませんが、切々と神に対する思いを訴えているようで、実に説得力のあるものでした。

 ところで、合唱の方はというと、実はこれが、異教徒(つまりローマ側)の合唱とキリスト教の合唱の2つに分かれているのです。合唱団は最初は私服で舞台に立っているのですが、途中で舞台袖に退場し、そして再び出てきた時には白黒の舞台衣装に着替えているのです。最初は、え?と思ったのですが、これにより、異教徒とキリスト教とを区別しているのですね。私服の時は異教徒であり、舞台衣装の時はキリスト教であるというわけです。演出的にはこれが一番、目立つもので分かりやすかったのですが、これ、なかなかよかったと思います。そういう区別がなくて、だらだらと(?)歌われていると、何のことやら分からないようになってしまうかもしれませんし。演奏の方もバランスのとれた、美しいものでした。

 曲の内容を分かりやすいように、という点では、今回の演奏会にはもう1つ、大きな特徴があります。それは、幕間に、講談士の旭堂南左衛門さんによる講談が入るというものです。そう、講談で物語りの内容を説明していこうということなのです。バロック音楽と講談とのミックスというような感じで、なかなか面白いものです。旭堂さんの名調子によって、このローマ帝国時代のお話が語られていくのは、これだけ聴いていても楽しいですね。演奏を引き立てる、見事な立て役者であったと言えましょう。

 15時に開演して、休憩を含みながら、終わったのは18時30分過ぎ。何とも長丁場で、さすがに聴く方も疲れましたが、それでも、聴いてよかったと思える、充実した内容の演奏でありました。見事に成功を収めた、本邦初演であったと言えるでしょう。