らいぶらりぃ
PrevNextto the Index

日本テレマン協会特別演奏会

●日 時2001年10月7日(日)15時開演
●会 場いずみホール
●曲 目バッハ/マタイ受難曲
●出 演ソプラノ:マリア・ルス・アルヴァレス
アルト:中村勢津子
福音史家:畑儀文
テノール:中塚昌昭
イエス:小玉晃
バス:中川創一
チェンバロ:中野振一郎
オルガン:堀江光一
延原武春指揮コレギウム・ムジクム・テレマン&バロック・コア・テレマン
四条畷学園少年少女合唱団

 先週の「テオドーラ」に次いで、テレマン協会の演奏会です。今日はバッハの「マタイ」という超大作。ヘンデルの「テオド−ラ」と同様のこんな大作を続け様に取り上げるということ自体、大変なことだと思うのです。それを見事にしてのけた、ほんと、素晴らしいことだと思います。

 さて、私が「マタイ」を聴くのは、随分と久しぶりなような気がします。全曲通して聴くのは、4年前のサイトウキネン以来じゃないかしらん… あの時は、現地の野外のスクリーンを通して演奏を聴いていたのですが、モニタ越しであってもごっつい感動したのを覚えています。だから、いけないことだとは思うのですが、今日の公演でも、ついつい、その時の演奏と比べてしまうんです。で、つい、物足りなく思ってしまったことから書きますね。一番は、オケ、特に管楽器にちょっと精細さを欠くように感じました。先週の「テオドーラ」では余り気にならなかったのですが、音がややずれるのですね。弦と管とで音が合わなかったり、入りの音がぶれたり、ん?というところは結構、ありました。また、特に後半、最後の方になると演奏者もお疲れになるのでしょうけれど、オーボエ・ダ・モーレなど、木管の音がえらくぶれて聴こえたのは、ちょっと気になりました。一緒に歌っていたソリストも歌いづらかったのではないかしら。もっといい音を出すこともできるでしょうに、ちょっと残念です。

 また、ソリスト陣では、陣容は先週の「テオドーラ」の時とあまり変わりばえしないのですが、ちょっとだけ物足りなさを感じてしまいます。特にアルトが余り響いてこないのが気になります。声量がないとかいうのでなく、響き自体が結構、細いのですね、中村さんの声って。個人的には、この「マタイ」のアルト・ソロには特に太い豊かな響きを期待してしまうので、そういう私の好みから言うと、ちょっと物足りなく感じてしまうんです。39番のアリアなんか、もっと豊かな響きでたっぷりと歌ってほしい、贅沢なのかもしれませんが、そう思ってしまうのです…

 と言いましても、全体的にはなかなか素敵な演奏だったと思うのです。一番印象的なのは、やはり福音史家の畑さんでしょう。先週の「テオドーラ」にも出演してはりましたが、その時はどちらかと言うと、余り出番の多くない役柄。ところが、今日は最初から最後まで出ずっぱりの大役です。このために、先週は控えていたのかと思わせるような感じで、これがとてもドラマティックなまでに、イエスの物語を語っているのです。特に後半、イエスが遂には処刑されてしまうという、受難曲中最大のクライマックスに至る部分など、実に熱っぽく語っており、その緊迫感がたまらないです。そして、61番に至り、イエスの死に直面しての絶望感、これ以上ないというくらいの悲壮感が漂っており、こちらも涙なしでは聴けないです。極めて雄弁な福音史家であったと言えるでしょう。

 また、イエスの小玉さんもどっしりとした貫録を見せています。それはまさに堂々とした宗教家たるにふさわしいもの。ただ、この「マタイ」という作品の中では、イエスは割と人間的な面も多く見せていると思うのです。最期の時に神に対して呼びかけるシーンなんか、まさに人間としてのイエスそのものではないか、とも思うのですが、そういうところでもあまりにも毅然した感じでいると、ちょっと場面に合わないかなという気もするのです。「ヨハネ」ならまだしも、この曲では、余りにも尊大な感じばかりではないと思うんですね。そういう耳で聴くと、小玉さんのバリトンは超然とした感じすぎたようにも聴こえます。でも、前半での弟子達に語るシーンなどでは、指導者としての威厳がたっぷりで、素敵だと思いました。

 先週も出演した組では、あとはアルヴァレスさんと中川さん。アルヴァレスさんは、やはり先週の「テオドーラ」の方がよかったですね。主役でしたし。今日の「マタイ」では、どうも、あまりぱっとしないような印象がします。中川さんのバスは相変わらず、凛々しいですね。ピラトの役に回る時は、やけにさわやかすぎるピラトだとは思いましたけど…(^^;

 それにしても、一番いいなと思うのは、合唱です。テレマンの合唱はこの1か月の間に3回も聴きましたけど、ほんと、しっかりした力を持っていますね。パートのバランスもいいですし、響きもなかなかなもの。個々の実力というものも相当なものなのでしょう。とても安定していて、ほんと、安心して聴くことができます。だからこそ、この「マタイ」のような超大作であっても、最後までくたばってしまうようなことなく、歌い切ることができるわけです。そして、ハーモニーも大切にしているようで、いくつもあるコラールの何とも美しいこと! このコラールこそが、この曲の命だと思うんです。どんなに劇的な歌よりも、縦のラインをそろえたハーモニーでしっとりと聴かせるコラールの方が、宗教作曲家としてのバッハの性格をよく表わしているんじゃないかしらん。このコラールをきちんと丁寧に歌い上げていく合唱団に対しては、ほんと好感が持てます。その美しい響きには、うっとりと聴きほれてしまうほどで、特に一番最後のコラールなどは、涙なしでは聴けないほどのものです。素敵な演奏でした。

 …と、合唱と男声陣の活躍が特に印象的な「マタイ」でした。そして、改めて「バッハ」はいいなぁと思うのでした。それにしても、先週に続いて、今日もまた長かった…(^^;