らいぶらりぃ
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ミュージカル「カルメン」

●日 時2001年10月20日(土)12時開演
●会 場梅田コマ劇場
●演 目ミュージカル「カルメン」
●出 演カルメン:大地真央
ホセ:錦織一清
エスカミリオ:石井一孝
ミカエラ:鈴木ほのか
ダンカイロ:宮川浩
スニガ:藤堂新二
レメンダード:福井貴一
メルセデス:麻生かほ里
フラスキータ:小笠原みち子
パスティア:近藤洋介
ラ・ロリョーナ:江波杏子
演出:吉川徹

 オペラの「カルメン」はこれまでにも何度となく見てきましたけど、ミュージカルというのは初めてです。大地真央さんの演じるカルメンというものにも興味を覚えて、これは、と行ってきました。

 さて、大地さんというと、元宝塚で、いろんな舞台やTVドラマ等にも出演している実力派女優さんですね。私個人的には、昔のNHKの時代劇「武蔵坊弁慶」で、木曽義仲の妻たる巴御前を演じていたのが妙に印象に残っているのですが(一体、いつの話なんだ…)、どうも、そういう、どっちかというと元気で快活な女性、というイメージがありますよね。で、カルメンなんかはその最たるもの。自由奔放で、情熱的に生き抜こうという、男勝りの気性のカルメンの役柄は、ある意味では巴御前にも通じるもの。だからというわけでもないのですが、大地さんのカルメンは、まさにぴったりとハまっていました。大地さんの堂々とした声や大胆な演技等、まさにカルメンそのもの、というふうで、まさに適役と言えるでしょう。また。ミュージカルだからと言っても、アリアは原曲のままにしっかりと歌っているのですね。「ハバネラ」や「セキディーリア」、「カスタネットの歌」(ミュージカル・ナンバー名は「小さな踊り」)等々、聴いたことのあるカルメンのアリアも、実に朗々と大地さんは歌い上げていきます。この辺の歌唱力はさすが、元宝塚なわけです。

 これに対するホセには、元少年隊の錦織さん。…正直なところ、大地さんのカルメンに対しては、ちょっと合わないんじゃない、と思ってしまいます。何と言うか、演技はまぁ、いいにしても、歌唱の方が、ちょっと…なんです。「花の歌」にしても、まぁ、いいのですが、でも何か…なんですね。声にハリはあるのでしょうけれど、何か、すぅっとこちらへ飛んでこない、大地さんとの二重唱ともなれば、大地さんの声に完全に圧倒されてしまって、聴こえてこない、という感じなのですね。まぁ、ホセという弱々しい役柄の性格をそれで表わしていたのかもしれませんが。それよりは、まだ、エスカミリオの石井さんの声の方が、堂々としていいですね。この夏には、佐渡裕さん指揮の「キャンディード」で主役もされたいうだけのことはあります。嫌味なくらいまでに、ふてぶてしい闘牛士という感じをよく出していました。

 そのような3人が交錯していき、ドラマが進んでいくのは、オペラと一緒ですが、それでも、いろいろとオペラとは違う点というのもありました。大きいのは、幕の編成で、ミュージカルは2幕からなっています。即ち、オペラで言う第1幕と第2幕が第1幕、オペラの第3幕と第4幕が第2幕なのです。単純にくっつけただけだと結構な長さになってしまうのですが、そうでなくて、その中でいろいろと省略している部分もあり、それで適当な長さにしているようでした。以下、いくつか、思いつくままに書いてみます。

・第1幕冒頭、序曲が終わると、オペラでは広場に人々が集まり、可愛らしい少年合唱が始まるのですが、この部分がカットされています。即ち、子供達は登場しないんです。結構、好きな場面でもあったので、ちょっと残念…
・オペラでは、ホセが衛兵交替で後から登場してくるという場面も描かれていますが、この部分もカット。見ようによっては、ホセが最初からこの煙草工場のところにいたようなふうにも取れてしまいます。
・序曲が終わってから、割とすぐにもうカルメンが登場してきます。え、もう?というくらいな早さでした。
・カルメンとマヌエリータとの喧嘩が、オペラでは工場の外に飛び出してきて行われていますが、ミュージカルでは工場の中。場面がここで、工場の中へと変わるのですが、この方がむしろ自然な感じもします。(いちいち外へ飛び出してこなくてもいいだろうに…)
・ホセを誘惑して、まんまと逃げおおせたカルメン。その逃亡の途中に、エスカミリオと出会うというシーンが追加されていました。オペラで言うたら、ちょうど1幕と2幕の繋ぎみたいな感じですね。
・独房の中のホセというシーンも追加されていました。1人、ミカエラへの手紙を書きながら、想いを歌うというシーンでした。
・オペラでいう第2幕は、ほぼ同じ。ですが、最後、スニガがパスティアの店に戻ってきて、カルメンを口説こうとするシーンで、ホセが現れ、争うのは一緒なのですが、そこで、決闘になってしまい、最後には、ホセが何と、スニガを殺してしまうんですね。何も殺さなくても、と思ってしまいます。その後で全員で歌われる「自由の大地」も、こういう場面には何か違うんじゃないか、という気もしてしまいます…
・第2幕の前半、オペラで言う第3幕は大幅に変わっています。山の中のシーンで、例のカルタ占いが終わったところで、竜騎兵がジプシーの一行に対して銃撃を加えてくるのです。その銃撃戦の中、ダンカイロやラメンダードなど、主な面々が次々と死んでしまいます。そんなに殺さなくても…とまた思ってしまいます。また、この銃撃戦の中、ホセも怪我をしてしまうというのも新しいシーンです。
・オペラでは、ミカエラがジプシー達のいる山へ登ってくるところで、あの「何を恐れることがありましょう」が歌われるのですが、ミュージカルでは、何と、ミカエラがホセの母親を病床に見舞っているシーンで、ホセを連れ戻してくると決心するところで、このアリアが歌われます。このシーン自体も新たに追加されたシーンですね。
・その後、ホセはグラナダのとある屋敷で、カルメンにより看病されている、というシーンになります。この屋敷こそ、エスカミリオが彼女らのために用意したもので、そのことを知ったホセは、ここでエスカミリオに決闘を申し込む、ということになるのです。なるほど、オペラのように山の中へエスカミリオがわざわざやってくるというのも何か不自然な感じですが、こちらの方がまだ、すっきりとドラマが流れるような気もしますね。また、ミカレラもこの屋敷にホセを迎えにきます。そう、か弱いミカエラがどうしてあんな山の中なんかへ来れるの?というオペラでの疑問は、これで解決します。なるほど、そういうことだったのか…
・オペラでいう4幕の初め、セヴィリアの闘牛場の前で群集が騒いでいるところへ、カルメンとエスカミリオが登場するシーン、人々の後方にあった競技場のセットが2つに割れて、そこから何と、牛の頭のような車に乗っての登場です。うぅ、宝塚だ…(^^;

 ざっと見ると、こんな感じでしょうか。そして、もう1つ、忘れてはならないのが、オペラでは、オーケストラの低弦により、不気味な運命の旋律、この悲劇を暗示するような動機が、そこここで登場してきていたのですが、これに代わるものが、ミュージカルにもあります。それが、ラ・ロリョーナという役柄なのですね。ジプシーの占い婆さんといった感じで、印象的なフラメンコ・ギターと一緒に随所に登場してきては、これからの運命を語っていきます。このドラマ全体の語り部でもあり、カルメンとホセの先導師でもある、この役は、なかなかのポイントだったと思います。1幕でホセが独房にいる時に現れて、パンを差し入れたり、2幕前半のカルタ占いのシーンでも実際に占っているのが彼女だったり、また、一番最後の競技場の前のカルメンに逃げるように伝えるのも、オペラでのフラスキータ達ではなく、ラ・ロリョーナなのです。結構、ちょこちょこと出てきては、何かしら思わせぶりなことを言うていくのです。江波さんは、その大事な役どころをよく押さえて、味な演技を見せてくれていました。歌が1つもなかったのが、残念な気もしますが…

 全体的に、オペラよりもずっと人間臭さみたいなものが前面に押し出されて、より真実味のあるドラマに仕上がっていて、なかなか素敵な舞台だったと思います。オペラだけでなくて、こういうのも見るのもいいものです。「カルメン」については、あとはフラメンコ版を見れば完璧、ですかね…