らいぶらりぃ
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久保田巧&サハロフ
ベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ全曲シリーズ3

●日 時2001年10月27日(土)19時開演
●会 場神戸文化ホール・中ホール
●出 演ヴァイオリン:久保田巧
ピアノ:ヴァディム・サハロフ
●曲 目ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第6番イ長調Op.30-1
        ヴァイオリン・ソナタ第8番ト長調OP.30-3
シルヴェストロフ/ポストルディウム
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調Op.30-2

 久保田さんとサハロフさんのコンビによるベートーヴェン・チクルスも今回で3回目。いよいよ折り返し点です。今回は6番から8番までの演奏です。ちょうど、ベートーヴェン自身が作曲に意欲を燃やしている時期、”傑作の森”と呼ばれる時期へ至る過程にあたる時期の曲ですね。いずれも聴き応え十分でした。

 プログラムは前半に明るめの曲2つを持ってきています。が、6番と8番、簡単に明るめの曲とまとめてしまっていいのでしょうか。曲性は確かに明るいです。けど、6番の方は”モーツァルト的”と言われるというだけのことはあって、確かに軽快で雅びやかな雰囲気がします。それに対して、8番の方は、より哲学的な内容というものを内包した明るさに満ちているような気がするのです。プログラム・ノートで西巻正史氏は、「自然を謳歌するかのような」と書いていましたけど、私にはむしろ、「人生を謳歌するかのような」喜びに満ちた曲、というふうに聴こえます。それは特に3楽章での激しいリズムを聴いていると、人が歓喜に狂舞しているかのような、そんな感じがするからなのです。サハロフさんのピアノがそういうリズムをこれでもかというくらいなまでに、ダイナミックに刻んでいくから、より一層、そういう感じに聴こえてしまうということもあるのでしょうけれども。こうして聴いてみると、8番のソナタも何と素敵なんだろう、と改めてその魅力を見直してしまいます。

 と言うて、もちろん、6番の方も素敵な曲に違いはありません。特にこの2楽章の美しさと言うたら! ベートーヴェンがそれまでに書いた曲の中でも一番に美しいと言われるだけのことはあります。久保田さんのヴァイオリンがすぅっと高音を響かせていくと、その美しい音色が天上から降ってくるような、そんな感じがします。久保田さんのこのヴァイオリンの音色が、この曲の魅力を一層、増していることは事実でしょう。その余りの美しさに、思わずほろりと涙ぐんでしまうのでした。また、古典的な雰囲気と言うても、時折、ベートーヴェンらしいシリアスな面が顔を覗かせて、やはりベートーヴェンの曲なのだなということを感じさせます。

 後半はちょっとシリアスな感じの曲です。7番、この名曲をまた、久保田さんとサハロフさんのコンビは、実に見事に演奏してのけています。前半のような明るさとは一変して、極度なまでの緊張感というものをぴんと張り詰めて、極めて正確に演奏していくのです。休止の後にヴァイオリンとピアノとが同時に鳴るような部分でも、その息はぴたりと合い、そこに漂う緊張感といったら、これ以上ないというくらいのものです。互いに自分の呼吸をしながら、相手の呼吸に対しても並々ならぬ注意を払っており、その2つの呼吸が完全に一体となり、まさに完全無欠な音楽を創りあげているというてもいいでしょう。1楽章や4楽章での、この緊迫感は、ほんと、会場を圧倒するくらいのもので、お2人の至芸というものを見せつけられたような気がします。素晴らしい演奏でした。

 さて、もう1つ、このシリーズの毎回のお楽しみが、あまり知らないようなロシア等の作曲家の作品。今回は、ウクライナの作曲家、シルヴェストロフさんの曲です。サハロフさんとも親しくしているという彼の作品、何か、とっても素敵な曲のように感じました。どこか懐かしいような旋律、それでいて哀しみのようなものも感じ取れ、聴いているだけで、とっても切なくなってきてしまいます。言わば、最近流行りのヒーリング系の音楽と言うてもいいのかもしれません。時折出てくる不思議な和音がとても効果的で、ほんと、秋の日に聴くにふさわしい曲だと思います。

 このシリーズもあと2回、来年もまた絶対に行こうと思うのでした。