らいぶらりぃ
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国立パリ管弦楽団

●日 時2001年11月7日(水)19時開演
●会 場神戸文化ホール・大ホール
●出 演ジョルジュ・プレートル指揮国立パリ管弦楽団
●曲 目ブラームス/交響曲第4番ホ短調
ラヴェル/ラ・ヴァルス
     「ダフニスとクロエ」第2組曲
(アンコール)
オッフェンバック/ホフマンの舟唄
ビゼー/「カルメン」序曲
オッフェンバック/「天国と地獄」序曲

 フランスの名門、パリ管が神戸へやってきました。しかも、珍しく関西ではここだけの公演。これは行かないわけにはいきません。早々とチケットも手に入れて、待ち焦がれていたのでした。

 さて、プログラムを見ると、ラヴェルの曲が2つと、ブラームスの4番が並んでいます。最初、この曲目を見た時、てっきり、ラヴェルを前半にやって、後半にブラームスをやるのだろう、と思ったのです。ところが… 実際に演奏が始まると、何と、いきなりブラームスから始まります。えっ? うっそぉ? と思う間もなく、ブラ4の第1楽章のあの美しい第1主題が歌われていきます。今回のメインはブラームスだろう、と勝手に思っていただけに、いきなり出鼻をくじかれたような思いでした。そして、そういう、演奏に集中できない状態であったからか、何か、オケの響きがあまりよく聴こえてこないんです。音はとっても奇麗なんです。弦楽器の音色なんて、これ以上ないくらいにとても優しい響きで、ふわっと音楽全体を包み込むようです。ですが、それが、いまひとつ、感動をもってこちらへ飛んでこない、何かじれったいような感じがするのです。自分自身の気持ちもあるのでしょうし、それにもう1つ、ホールの音響というのもあるのでは、と思うのです。そりゃ、この文化ホールはこの辺りではなかなかにいいホールなのですが、それでもシンフォニーホールやらサントリーホールやらと比べてしまうと、全然お粗末な音響なんですよね。オケの皆さんも、確かにリハーサルはしてるんでしょうけれど、それは客のいない状態でのホール。客が大勢入った状態でのホールとは、この時に初めて合せるわけですから、互いにどこかなじまないのがあるのも当然のこと、なのかもしれません。ブラームスを楽しみに来ただけに、う〜む、と思いながら聴いていると、3楽章の辺りから段々と音が響いてくるようになりましたね。音がホールに馴染むようになったのか、私の耳が慣れたのかは分かりませんが、どうやら、音が響くように演奏自体も変わったのでは、という気もします。ギアをチェンジした、といったところでしょうか。ノリノリな感じで3楽章を盛り上げて、そして休みなく、一気に終楽章へ突入です。割とアップテンポ気味に、小気味よくパッサカリアを奏でていきます。よく「アインザッツがそろわない」と評されることが多いそうなんですが、確かに、縦のラインがあまりぱしっとそろいませんね。縦にそろうというよりは、横に流れていくというふうで、そういう演奏が或はフランス的なのかもしれません。やや荒削りな感じの、何か若々しさにあふれた演奏で、一味違ったブラームスを堪能できたのでした。

 そして、後半、最初期待していなかったラヴェルです。これが演奏が始まった途端、自分の耳を疑ってしまいます。実に透明感のある、まるで空気と同調するかのような極めて自然なピュアな美しい音が響いてくるのです。それはまさに「夜明け」の空気そのもので、次第に光がふわぁっと満ちてくる様子がありありと表現されていきます。やがて、それは盛り上がり、「ダフニスとクロエ」の喜びを優しく歌い上げていきます。この音楽は何?と思ってしまいます。それほど、前半のブラームスとは全然違うのです。極めて自然に、まるで息をするかのように演奏がふわぁっと流れていき、その自然の流れの抑揚がそのままに音楽になっている、変に音楽を作ろうというのでなく、本当に自然に音楽が流れていくのです。その流麗さといったら、もうこれ以上のものはないというくらいです。「無言歌」でも神秘的な雰囲気をたっぷりに、実に密やかな感じで歌っていき、そして最後の「全員の踊り」で極めて熱狂的な踊りが展開されていきます。この部分にしても、音の流れはとっても滑らかで、コテコテに作っている、というのでは決してないのです。何と言うか、人間の感情の流れそのものをそのままに音にしているかのようで、人の喜びの感情をそのままに音にしているのです。そして、それは人間の生理のリズムというものを極めてよく捉えた音楽になっているように思うのです。喜びの感情というものは生理的にはどういうリズムなのか、その時の呼吸はどういうものなのか、そいういことを、特に意識しなくても、普通に息をするように音として表現できてしまっているのですね。そういう、全員のまさに”息”があった演奏はそのままダイレクトに私達の感情にも伝わってきて、私達の心を底から揺さぶるから、本当に心底、興奮、感動できるんですね。その凄さというのは、これ以上陳腐な言葉を並べても表現のしようがありません。そして、ラヴェルのこの曲って、こんなにも美しく素敵な凄い曲だったんだ、ということを改めて思い知らされたのでした。

 「ダフニスとクロエ」ですっかりリズムに乗った彼等は、次の「ラ・ヴァルス」でもそのパワーを炸裂させます。冒頭の低弦の響きからして、何か他の演奏とは違うものを感じることができます。やがて、盛り上がり、華やかな音の流れの中で、何か官能的な、或いは破滅的な感じというものが実に見事に混然としながらも表現されていきます。何とも言いようのない、この雰囲気、一見、華麗な雰囲気に包まれてはいるものの、実は破滅への道を歩んでいるに過ぎないという、この曲の持っているテーマというものを根本的なところからえぐり出すような演奏なのですね。極めて滑らかに音が流れていきながら、その演奏は曲の真髄というものを適確に表現しています。知らず知らずのうちに、私達もその演奏にぐいぐいと引きずり込まれていくようで、その魔力たるや、すごいものです。めくるめくきらびやかな音の渦の中で、団員さん達と一緒に私達もはじけてしまいそう、何かそんな感じすらする演奏なのでした。ぱぁっと最後の和音が鳴るや否や、一斉に大きな拍手が沸き起こったのは言うまでもありません。ホール中が感動の渦に包まれた一瞬でありました。

 いやはや、さすがなものです。やはりお国もののラヴェルともなると、本領を発揮できるというものなのでしょうね。そして、間違いなく、今日の演奏会のメインは、ブラームスではなくて、ラヴェルだったんだ、と改めて思うのでした。こんなにもすごいラヴェルは、他では聴けないことでしょう、きっと。そして、そのラヴェルが終わった後も聴衆の熱狂はやまず、また団員さん達も何か物足りなさそうな感じで、アンコールが始まります。「ホフマンの舟歌」でちょっとしっとりとさせた後、その後が大変。「カルメン」で一気にその思いが爆発したかと思いきや、そこで加速された感情はもう止まりません。え?と思う間もなく、3曲目の「天国と地獄」へ。こんなにも多くのアンコールがあるとは思いもしなかっただけに、また喜びもひとしおです。アンコールまできれいにフランスもので固めたのが憎いなと思いながら、存分に楽しめた演奏会なのでした。恐るべし、パリ管さまさま、なのでした。