らいぶらりぃ
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神戸大学混声合唱団アポロン第39回定期演奏会

●日 時2001年12月15日(土)18時開演
●会 場いたみホール
●出演&曲 目I.荻久保和明/混声合唱のための組曲「復活」
 指揮:武田次郎/ピアノ:沼田苑子
II.カナダの合唱曲
 シェイファー/A Garden of Bells
 ソマーズ編/She's Like The Swallow
 チャットマン/Due North
 客演指揮:松原千振
III.鈴木輝昭/混声合唱とピアノのための「大地はまだ」
 指揮:小川貴充/ピアノ:西村早加

 今年もまた後輩達の演奏会に出かけてきました。今年は、私達が大学4回生として最後のステージに立ったのが、第29回の演奏会。あれからちょうど10年なのですね。思えば、年をとったものです。

 さて、今回の目玉は何と言うても第2部のカナダの合唱曲でしょう。客演の松原さんというと、どうしてもフィンランドとか北欧というイメージがするのですが、それが、カナダです。選曲からしてやられた、という感じです。最初は「鐘の庭」という曲。世界各国のいろんな鐘が一同に集まってきているという風景を描いた曲のようです。歌詞というものはなくて、様々な鐘の”音”を奏者達は発していきます。その”音”の重なり合いがこの曲の面白みなのですね。団員達は、パートの関係なく、ステージ上いっぱいにばらばらとごちゃまぜになって立っています。そして、あちらこちらから、様々な”音”が出てきて形成される不思議な音空間、たまらないですね。個人的にはこういう曲(いわゆる”現代曲”っぽいやつ)って好きなので、ほぉ、と楽しく聴くことができました。所々、オリエンタルな、或はエスニックな響きになるような部分もあって、ほんと、これは面白い曲です。歌う側にしてみれば、大変なのかもしれませんが。続いての「彼女はつばめのよう」はカナダの民謡を合唱用にアレンジしたものなのだそうです。どこか哀愁を帯びたメロディーが歌われていく中、音が様々に重なり、これは美しいハーモニーを作り出しています。カナダの曲なんて普段、耳にしませんが、こんなに美しい曲もあるのですね。素敵な曲です。

 そして、「北の国」。これは文句なしに楽しい曲です。これにも歌詞らしいものはなくて、”音”のみで歌われていきます。5つの曲から成る曲ですが、森の情景を描写しているようです。1曲目は堂々とした感じで、そびえる山を表わしているよう。2曲目は深い森の中に樹木がそびえ立つような様を表わしているよう。3曲目は何と、キツツキが木をつついている様を表わしています。解説を読まなくてもすぐに分かってしまうほどの明解さ。思わずクスリと笑ってしまったのは私だけではないでしょう。4曲目は今度はツグミです。うっすらと霧の立ち込めるような寒い空気の中、木の上に立って鳴いている様が、これもまたリアルに描かれています。ツグミの声は口笛で表わしているのでしょうか。どこか神秘的な感じにも聴こえる曲です。そして5曲目。最後は何と、蚊です。何故に蚊なの?とも思うのですが、ぶんぶんと飛び回る蚊の様が描かれています。それはちょうど、キングズシンガーなどがリムスキー=コルサコフの「熊蜂の飛行」をスキャット唱法で歌うのと同じような感じです。「Zzzz...」と続く蚊の飛行。最後は、団員の1人が前に出てきて、止まった蚊をぱん!と手で叩くというシーンで終ります。文句なしに楽しい曲なのでした。

 他の学生指揮による演奏はどうであったかと言うと、最初の「復活」は、第一ステージだから、まだ声が出ていないということもあるのでしょうけれど、いまひとつ声が飛んできていませんでした。それに、これ、「復活」でしょう。作曲者の荻久保さんご自身が、今回の演奏会のプログラムに寄せたメッセージの中にも、「数年前のあの出来事を経た君達の”復活”を僕は是非聴きたい」と書いていらっしゃるのに、本来、この曲にこめられるであろう”想い”というものが、伝わってこなくて、感動を与えてくれないのです。それは、詩の最後の部分、「さらば 灰色のうた 瓦礫のまちよ ぼくは いま よみがえる」というところ、こここそが、私達には一番、ぐっとくるところでしょう。それが、何の感動もなしでさらりと終ってしまったのです。私の個人的な思い入れが強すぎるのかもしれませんが、ちょっと…なのでした。

 一方、最後の「大地はまだ」は、ドラマティックに盛り上がる派手な曲ではなく、どちらかというと、淡々と流れていくような感じの曲ですね。最後ともなると、声もしっかり出てくるようになって、なかなかよくまとまった演奏だったと思います。派手さはないけれど、ほんと、音楽本来の流れというものを重視したような、自然な音の抑揚と、日本語の持つ響きの美しさとがうまくまとめられています。何とも温かみのある演奏でした。

 個人的に一番感激したのは、実はプログラムの方ではなくて、アンコールだったりします。幕閉めの曲が、何と、新実さんの「聞こえる」だったのです。これ、何を隠そう、10年前に私達もアンコールで歌った曲なのですね。ピアノの前奏が始まるや、その嬉しさに、おぉ!と声をあげそうになってしまいました。いやぁ、懐かしい曲を演奏してくれて、実に心が和みました。いい演奏会でした。

 来年はいよいよ40回の演奏会。どんなことをしてくれるのか、今から楽しみです。