らいぶらりぃ
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第33回KOBEフレッシュコンサート

●日 時2002年2月17日(日)14時開演
●会 場東灘区民センター・うはらホール
●出 演ソプラノ:老田裕子
 ピアノ:佐藤明子
オーボエ:大島弥州夫
 ピアノ:田中舞
●曲 目グリーグ/6つのドイツの歌Op.48
サン=サーンス/オーボエ・ソナタOp.166
ポンキエルリ/カプリッチョ
岡野貞一/ふるさと
デラックァ/ヴィラネル
ベルリーニ/歌劇「夢遊病の女」より 気もはればれと

 今回のフレッシュコンサートには、先の「ドン・ジョヴァンニ」で見事、ドンナ・アンナの役を果たされた老田さんが出演されるということで、行ってきました。

 いやぁ、老田さんの演奏、実に素敵でした。元々は歌曲を勉強されていたということもあってか、オペラとは違った素晴らしさを見せつけてくれました。声量が豊かであることはオペラでも証明済みですが、それよりも何よりも表情がとっても豊かなのですね。最初のグリーグにしても、6つの曲があるわけですが、決してそれらを同じようには歌わないのです。それぞれの曲で詩も違うし、個性も違うわけで、ちゃんとそれに見合うように歌い分けをしているのです。1曲目は「挨拶」で可愛らしい曲。コロラトゥーラというふうに、ころころと転がるような声で軽快に歌っていきます。が、2曲目の「いつの日か、わが思いよ」は、何とも暗い感じの曲。声もがらりと変わって、深い響きで、暗く、或は死へと向かうかのような怖さを持って歌っていくのです。おぉ、と思っていると、3曲目「世のならい」は恋を歌った歌。また明るい声が戻ってきて、愛らしい歌を歌い上げていきます。4曲目「秘密を守る夜うぐいす」もまたちょっと変わった、楽しげな感じの曲です。うぐいすの鳴き声なのか、訳詞で言う「ダンダラダイ!」という部分が可愛らしくて印象的です。5曲目「薔薇の季節に」はまた暗い曲。でも、さっきの2曲目とはまた違う雰囲気で、それほどシリアスでないようにも聴こえます。そう、先の2曲目は死へ向かうような暗さがあったのですが、この5曲目は或は失恋とか、はかない夢とか、そういう暗さなのですね。だから、老田さんも、ここははっきりと、さっきほどに深く怖く響かすのではなく、やや生気を持った感じに歌い分けているのです。微妙な差なのですが、こんな細かな歌い分けができるとは、感心です。そして、6曲目の「夢」。夢や希望、光に満ちた曲というイメージで、極めて明るく、くっきりと全曲中最大のクライマックスを盛り上げていきます。透明感のある声で、どんどん光が差し込んでくるかのような感じに声がふわぁっとごく自然にふくらんでくるのは、まさに感動ものです。いやぁ、素敵な演奏でした。

 そして、その素敵さは後半でも一緒です。後半のデラックァやベルリーニの曲はどちらかというと、コロラトゥーラ的な要素の強い曲。高音もぽんぽんと出てくるのですが、老田さんは何の苦もなくそれらの音を的確にたどっていきます。いや、それだけでなくて、実に軽々とした感じで、音を次へ次へと転がしていくのですね。特にベルリーニはオペラものもお得意ということもあって、貫禄たっぷり、余裕たっぷりという感じで、結婚直前という役割上の設定が、彼女ご自身の姿にも重なるかのように、ごく自然な感じで、幸せそうな雰囲気をたっぷりと出しているのが、素敵でした。これだけでもう、満足という感じです。

 一方、大島さんのオーボエも素敵ですね。サン=サーンスのソナタやポンキエルリの作品など、普段、滅多に聴かないような曲なのですが、これらも曲自身、とっても魅力的な味わいがあるのです。どちらにも共通して言えるのは、旋律がとても美しいということ。そして、その旋律美を更に引き立たせるかのように、大島さんのオーボエは実に情感たっぷりにゆったりと響いてくるのです。もともと、オーボエという楽器自体、人間の声に近いというころもあって、とても歌いやすい楽器だと思うのですが、彼のオーボエはまさにそう。伸びやかに歌っているのが、はっきりと分かって、とても好感の持てる演奏なのです。このフレッシュコンサートにオーボエが単独で出演するのは、実は今回が初めてらしいのですが、その初お目見えを飾るに相応しい、素敵な演奏でした。

 お2人の今後のご活躍を祈ると同時に、楽しみにしたいと思う気持ちでいっぱいなのでした…