らいぶらりぃ
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日本テレマン協会第146回定期演奏会

●日 時2002年5月11日(土)18時開演
●会 場神戸新聞松方ホール
●出 演延原武春指揮コレギウム・ムジクム・テレマン&バロック・コア・テレマン
ソプラノ:中村朋子
コントラ・アルト:渡邊由美子
カウンターテナー:青木洋也/上杉清仁
テノール:畑儀文
バス:中川創一/渋谷英明
チェンバロ:中野振一郎
オルガン:堀江光一
講談:旭堂南華
●曲 目ヘンデル/オラトリオ「メサイア」

 テレマン協会がまた新しいシリーズを始めます。”「メサイア」異版10年連続演奏会”、様々な版の存在する「メサイア」を、1年ごとにそれぞれの版を演奏していこうというもの。何とも壮大なプロジェクトですな。今日はその1回目。初演時に使われた「ダブリン版」です。「メサイア」の初演って、ロンドンじゃなくてダブリンだったのですね…(知らなかった)

 ところで、私が普段聴く「メサイア」のCD(実際はダビングしたテープ)は、もはや定番とも言える、ショルティ指揮の演奏によるもの。これがどの版を使っているのかは知らないのですが(おいおい)、今日の演奏は明らかにそれとは違いますね。今日の演奏スタイルは弦楽を主にして、管楽器はオーボエとファゴットが1本ずつ、それにトランペットが2本というもの。原典版には管楽器はないのではないか、という説もあるようですが、ここはテレマン協会流の解釈で、「One of strings」として管楽器も加えたのだそうです。そういう編成であることもあって、演奏もとってもシックな感じがします。聴き慣れているショルティのは、ショルティ自身が割と派手な演奏スタイルであることもあってか、とっても絢爛豪華な印象が強いのですね。が、今日の演奏は絢爛豪華というよりは、むしろ”わびさび”の世界ですな。(ちょっと言い過ぎ。)最初のシンフォニアからして、明らかにこれはバロック期の音そのものでは、というような古風な響きがしてくるのです。軽快な感じで、しかし盛り上がりすぎたりすることはなく、淡々と音楽が進んでいく様はなかなかいいものです。やはり、弦楽器ばかりになると、全体に落ち着いた感じになりますね。そして、この方が当時の響きには近いのであろうと思います。

 そして、第1部の「Glory to God in the highest」の辺りから更に、その違いというものがくっきりとしてくるような気がします。特にこの「Glory…」では、2F席の最前列の部分に2本のラッパがバンダとして登場、神の栄光をたたえるかのように高らかに、その輝かしい音色を響かせてきます。これは強烈なインパクトをもって私達の耳に聴こえてきたのですが、まるでこのラッパがきっかけになるようにして、更に全体に古風な雰囲気が強くなってきたような気がするのです。それは、普通だったら、こういう盛り上がるところではうんと盛り上げてこれでもかというくらいに聴かせてくれるのでしょうけれども、今日の演奏はそういう部分であるからこそ、余計に派手すぎないように注意しながら、むしろ、内へと盛り上がっていくようにしているのでは、というところから来るのでしょう。もう1つ、はっきりと分かるのは、同じく1部の「Rejoice greatly, O daughter of Zion」。ショルティの盤では、本当に明るくころころと転がるようにソプラノがこのアリアを歌っていくのですが、今日の場合は、どこかその喜びをあまりに表に出すのを遠慮するように、むしろ内なる喜びをかみしめるような感じで歌っているのです。そういう奥ゆかしさみたいなものが、音楽全体をより味わい深いものにしているように思うのです。第2部、第3部ともそうです。「ハレルヤ」にしたって、決して派手すぎず、小気味いい感じに歌っていくのですね。好感の持てる演奏です。

 やはり、弦楽器ばかりの編成になると、全体に音の流れが非常に滑らかになるという感じはしますね。それが、この心地良い演奏へと結び付いているのでしょう。そして、特にいいなと思ったのは、スラー或はレガートの部分と、スタッカート或はマルカートの部分との対比です。この対比が実に効果的なのですね。流れる部分と弾む部分とがくっきりと対比させられているから、曲にもメリハリがついて、非常に聴きやすい演奏になっているのですね。これは、まぁ、さすがにバロックを専門としているテレマンならではのことなのでしょう。素敵な演奏でした。

 ところで、今回も演奏の合間には講談がついていました。旭堂南華さんの講談は、ヘンデルがこの「メサイア」を初演するまでに至る物語を、面白く語っていて、楽しいものでした。この講談つきというスタイルもテレマンならではのものとして定着してきていますが、なかなかいいと思います。私達も講談なんて普段、滅多に耳にしないから、たまにこういう機会に講談なんかも聴けると、何か得した気分にもなりますしね。和洋両方の古典芸術に触れる、またとない機会ですな。次回はどんなお話になるのだろう、とまた楽しみなのでした。