らいぶらりぃ
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関西学生混声合唱連盟第33回定期演奏会

●日 時2002年6月3日(月)18時開演
●会 場フェスティバルホール
●出演&曲目I.神戸大学混声合唱団アポロン
 ヴォーン・ウィリアムズ/ミサ曲ハ短調より
 指揮:武田次郎
II.関西大学混声合唱団ひびき
 高田三郎/混声合唱組曲「この地上」
 指揮:高井満/ピアノ:坂田佳央理
III.関西学院大学混声合唱団エゴラド
 新実徳英/混声合唱曲集「海のデヴェルティメント」より
 指揮:玉井新平/ピアノ上野順子
IV.大阪大学混声合唱団
 吉岡弘行/混声合唱組曲「十ぴきのねずみ」
 指揮:別段匡信
V.立命館大学混声合唱団メディックス
 高嶋みどり/混声合唱組曲「かみさまへのてがみ」より
 指揮:大前孝文/ピアノ:平林知子
VI.同志社学生混声合唱団C.C.D.
 ブスト/O Magnum mysterium
     Ave maris stella
     Axuri beltza
 指揮:伊東章将
VII.合同演奏
 三善晃/混声合唱曲集「木とともに 人とともに」
 指揮:斉田好男/ピアノ:細見真理子

 33回目を迎えた関混連の定期、今回は29回に続いて、斉田さんが合同の指揮に登場です。ちょっとサイクルが早いのでは?という気もするのですが、まぁ、私にとっても恩師の指揮が見られるというのは嬉しいことです。

 その合同合唱は、三善晃さんの「木とともに 人とともに」。詩が谷川俊太郎さんですから、つい、「ぼく」や「あなた」のような大曲のイメージがあったのですが、聴いてみると、実にシンプルな感じの曲ですね。もちろん、そうは言うても三善作品ですから、当然のようにややこしそうな変拍子などもたくさんあるのでしょうね。聴いた感じには、言葉の自然な抑揚に沿っているから、そういうことは分からないのですけれども。で、この言葉というものをとにかく前面に出してこようとしているのが、その演奏からはっきりと分かります。学生達も斉田さんの指揮に従って、とにかく声を前へ飛ばそうとしています。そこに込められたものは、何なのか、それは終曲に出てくる、”今を生きる”ということへの問いかけと彼らなりの答えなのでしょう。生きているということはどういうことなのか、谷川さんの詩には様々な言葉でその問いに対する答えが提示されていきます。それら一つ一つの言葉の意味合いというものを考える時、自ずと”生きる”ことへの自分なりの答が導き出されていくのでしょう。学生達もそれを真剣に考えてそれなりの答を出して歌っているのでしょうね。その明るい表情と歌声からは、生きることの楽しさのようなものすら感じられるようで、なかなか素敵な演奏であったと思います。三善さんが今回のプログラム・パンフレットに寄せた言葉が印象的です。「地球上の人が平和と共成と祈って迎えた21世紀の初めの年に、その祈りを打ち砕く試練が訪れ、いま人は共に祈ることを忘れたかのように見える。しかし、1年半前にみんなが祈ったことは間違いではなかった。祈ることを止めてはいけない。」…そういう祈りの精神がいっぱいに感じることのできた演奏でした。

 でも、実はそれを更にもっと強く感じることができたのは、アンコールの曲だったりします。曲名はちょっと不明なのですが、明らかに宗教音楽という感じの曲ですね。学生達も舞台いっぱいにひろがってパートもばらばらになって、両手を胸の前に組んでお祈りをするポーズで歌っているのです。これ、明らかに昨年の9月11日の事件に対する鎮魂歌或いは平和への祈りの歌であり、こういう音楽こそ、実は斉田さんが本当にやりたかったことなのかな、とも思います。(プログラム・パンフレットに斉田さんは「大人数を生かす他の曲も考えたが」と書いていらっしゃいますが、その意味というのは、こういうことなのかな、と。)6団それぞれから1人ずつ出てきたソプラノ・ソロによるゾリがあったり、ダブル・コーラス風になったり、実に感動的な曲でした。今を平和に生きることへの祈りの思いというのがホール中いっぱいに満ちあふれていたような気がします。

 一方、各団の単独の演奏の方はどうであったのかと言いますと、全体にどこも声量が少なく、物足りない演奏であったという感じがします。歌っている表情もいまひとつさえないところが多く、聴いていて楽しくないということが多かったように思います。関大ひびきの「この地上」にしても、高田三郎作品のメッセージ性と伝えるにはほど遠く、阪混の「十ぴきのねずみ」にしても、言葉遊び歌としての面白みが全くなく、う〜む、という感じです。関学エゴラドの「海のディヴェルティメント」や 立命メディックスの「かみさまへのてがみ」は、割と表情も素敵で好感は持てますが、いまひとつ音楽の内容に踏み込めてないような感じ。同志社C.C.D.のブストは、なかなか綺麗にまとめており、いい演奏のように思いましたが、やはり内容的にはいま一つですかね。ただ、偶然なのかもしれませんが、合同合唱と同様に谷川俊太郎さんの詩をテキストにした曲が2つあったことは、演奏会全体の構成から見たら、なかなか良かったのでは、と思います。

 さて、肝心の我が後輩である神大アポロンは言いますと、これもまたちょっと… ダブル・コーラスの曲ですが、人数が少ないのが何とも痛いかなという感じですね。各パート4〜5人くらいという編成で、個々の実力がしっかりしたものであればそれでも構わないのでしょうが、そういうわけでもないから、全体に弱々しい感じに聴こえてしまいます。ベースも聴こえてこないし、女声のピッチもやや低めのようで、音程も安定しないような感じ。ラテン語の発音も実に薄っ平なもので、聴き苦しいものです。かつては宗教曲と言えばアポロン、というふうに宗教曲を歌わせればそこそこの演奏していただけに、今回の演奏は実に残念でなりませんね。何とか、12月の定期までにはちゃんと形になるように仕上げてほしいものです。

 3年後には、京都で「世界合唱シンポジウム」が開かれるということで、何やら盛り上がりつつような合唱界ですが、その一翼を担う学生合唱がこのような低迷ぶり(と言っていいのでしょう、たぶん)で一体、どうなるのか、とその将来を不安に感じてなりません。