らいぶらりぃ | |||||
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●日 時 | 2002年6月15日(土)18時開演 |
●会 場 | 神戸新聞松方ホール |
●出 演 | ピアノ:原田英代 |
●曲 目 | グリーグ/叙情小曲集Op.54 |
リスト/ダンテを読んで | |
ラフマニノフ/幻想小曲集Op.3 | |
プロコフィエフ/ソナタ第2番イ短調Op.14 |
実力派のピアニストとして知られる原田英代さんのリサイタルに行ってきました。いやぁ、そのダイナミックな演奏には圧倒されっぱなしでした。何がすごいと言うて、その表現力や音量の豊かさはもう、聴く者の心をぐっと捉えて話さないだけの迫力を持っているのですね。最初のグリーグからしてそうです。どちらかと言うと”動”的である2曲目の「ノルウェーの農民の行進曲」や3曲目の「小人の行進」は実にパンチのきいたリズムをくっきりと鳴らし、ぐいぐいと音楽を前へ引っ張っていきます。と思うと、1曲目の「羊飼いの少年」や4曲目の「ノクターン」など”静”的な曲では繊細なまでに音をたっぷりと丁寧に扱いながら、その情景を歌い上げていくのです。グリーグの曲ですから、叙情性に富んでいるのはそうなのですが、その曲自体の魅力を更に彼女の演奏はさらに引き立てて、これ以上の演奏はないというくらいまでの美しさを現出させているのです。すごいものです。
でも彼女の凄さはこれだけじゃ終わりません。次のリストになって、それは爆発します。この「ダンテを読んで」という大曲、彼女はまた大胆なまでにも力強く演奏しています。冒頭の強烈な和音からして、そこに込める意気込みというのがまざまざと伝わってくるようです。そして地獄の描写シーンでは全く息をつかせないほどの迫力です。次から次へとまるで炎が襲いかかってくるかのような凄まじさに圧倒されます。が、中間部ではがらりと変えて、うっとりとするほどの美しさを存分に表現しています。そして一気にラストへ向かい、気分をこれでもかというくらいなまでに高揚させてくれる… 実に見事な、見事すぎるくらいの演奏でした。あの小柄な体のどこにこんなパワーがあるのだろうと思うのですが、実にエネルギッシュでダイナミックな彼女の演奏には、ほんと、息を飲むほどの凄みがあります。それは、男性ピアニストでもここまでできる人っているんだろうか、と思うくらいのものです。彼女ならではの素晴らしいリストでした。
後半はロシアもの。最初は彼女のお得意のラフマニノフ。これらの小品もまた実に様々な表情に満ちたものですね。彼女の奏でる実にクリアな音がこれらの曲の魅力をくっきりと表現していきます。「エレジー」や「メロディー」など割と静かめな曲でも、そのメロディラインはむしろfなくらいにはっきりと出していて、そこまでしなくても、と思わないこともないのですが、しかし、それが逆に曲の表情をはっきりとさせて、非常にメリハリのある演奏になっているのです。「道化師」などはまさに様々な表情がくるくると変わる曲ですが、これなどほんとに見事なものです。おどけるだけじゃなくて、そこにある哀しみのようなものまで、道化師の生き様というものをまざまざと見せつけてくれたような気がします。
最後はプロコフィエフ。プロコのピアノソナタってほとんど聴いたことがなかったのですが、ヴァイオリンソナタと同様に非常に内容の濃い曲ですね。怒濤のように感情が流れていく第1楽章に、さらに野性的な2楽章、哀愁を帯びた美しい3楽章に、そして勢いを増して突進していく4楽章と、あっという間に曲が進んでいきます。音楽的に割とコンパクトにぎゅっとまとまっているような感じのする曲ですが、その密度の濃さをそのままに、原田さんのあふれるような想いがそこに注ぎ込まれているようで、1楽章での旋律の交錯や4楽章での盛り上がりなど、とっても聴き応えのあるものです。プロコ独特の美しさも、3楽章ではたっぷりと聴かせてくれて、シリアスさとロマンティックさとが混ざったような感じのプロコの世界を存分に堪能させてくれました。いやぁ、素敵な演奏でした。
アンコールにはショパンのマズルカ(何番か忘れた…)やワルツ(6番)、それにシューベルトとスクリャービンと4曲も披露。彼女自身も非常にノリノリで私達を楽しませてくれて、和やかな感じながらも、内容の濃い演奏会でした。