らいぶらりぃ
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第183回神戸学院大学GreenFestival

仲道郁代&小林美恵 ソロとデュオの午後

●日 時2002年6月22日(土)15時開演
●会 場神戸学院大学メモリアルホール
●出 演ピアノ:仲道郁代
ヴァイオリン:小林美恵
●曲 目バッハ/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番ハ長調BWV.1005
モーツァルト/ピアノソナタイ短調K.310
仲道郁代/ヴァイオリンとピアノのためのポエムOp.1
ショパン/バラード第1番ト短調Op.23
     夜想曲第20番嬰ハ短調遺作
シューマン/ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第2番イ短調Op.121

 今回の仲道さんと小林さんとのデュオコンサートでの一番の見所は、何と言うても、仲道さんご自身が作曲をされたという作品でしょう。今回が日本初演だそうです。どんな曲かと楽しみにしていたのですが、実際、聴いてみて思ったのは、「ポエム」というタイトルと仲道さんのキャラクターから想像されるイメージとは違っていた、ということです。あの優しいお人柄の仲道さんが書いた「ポエム」だから、きっと優しげな感じだろう、と勝手に想像していたのですが、そういうイメージに惑わされてはいけませんね。ぱっと聴いた感じでは、前衛的とも言える作風になっているのです。どこかシリアスな感じながら、とても不思議な音空間を築き上げていくのです。ヴァイオリンがはっきりとしたメロディを奏でるというのでなく、ピチカートで音をぽろろん、と鳴らすと、ピアノもじゃららん、と鳴るという、どこか不思議な音の風景、幻想的とも言える「詩」的な世界が確かにそこにはあるのですが、これを仲道さんが15歳の時に作られたというのですから、驚きです。仲道さんは、子供の頃の習作だから、と仰っしゃっていましたが、なかなかどうして、実に聴き応えのある曲です。何でも、4度の音進行形と2度の進行とを組み合せたりとか、技巧的にもいろいろと盛り込まれた曲らしいのですが、完成度は高いと言えるでしょう。彼女のどこにこんな曲を作りだす才能が潜んでいたのだろうと、ただただ感心するばかりです。3分間の小曲ではありますが、ぎゅっと内容の詰まった作品でした。もっと演奏される機会が増えるといいですね。

 後半ではシューマンの大曲を取り上げていましたが、こちらの演奏もなかなかのものでした。この雄大で力強い曲を、小林さんのヴァイオリンと仲道さんのピアノとは実に雄弁に語りあげています。力強さという点では、小林さんのヴァイオリンはどちらかと言うと、やや線の細い印象もあるのですが、その繊細さを押し破るかのような熱演が光っています。冒頭の強烈な音からして、その意欲がはっきりと伝わってきますし、後はもう、怒濤のように情熱はほとばしります。シューマンの尋常ならぬまでのロマン性というものがよく出ていたのではないでしょうか。特に3楽章は力強さだけでない、叙情性あふれる彼の音楽を、見事に歌い上げていて素敵でした。

 小林さんのヴァイオリンは実は初めて聴いたのですが、先にも書いたように、やや線の細い印象がするのですが、その繊細な感じが素敵ですね。バッハでも1つ1つの音を丁寧に扱いながら緻密に音楽を組み立てているようで、密度の濃い演奏でした。また、仲道さんのピアノもいつものとおり、柔らかさと力強さとがバランスよく盛り込まれていて、素敵な演奏を聴かせてくれます。モーツァルトなど、とても上品な中に悲劇的な情感をたっぷりと込めているようで、まさにモーツァルトの「悲愴」(と勝手に私は呼んでいる)にふさわし演奏でした。ただ、後半のショパンはやや力みすぎたのか、バラードでは急ぎすぎたようなところもあったりして、ちょっと集中力を欠いたかに聴こえる部分もあり、残念でした。

 それにしても、お2人ともとても気さくで優しい方ですね。恒例の質問コーナーでのお話を聞いていて、そのご性格の良さに改めて惚れてしまいます。実に和やかなひとときを過ごせたのでした。