らいぶらりぃ
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ウィーン・オペレッタ劇場/サウンド・オブ・ミュージック

●日 時2002年6月30日(日)17時開演
●会 場神戸国際会館こくさいホール
●演 目 ロジャース/サウンド・オブ・ミュージック
●出 演マリア・ライナー:メラニー・ホリディ
フォン・トラップ大佐:ハインツ・ヘルベルク
修道院長オベリン:シルヴィア・アモルト
執事フランツ:ロベルト・パウル
家政婦シュミット:エリザベート・ロイドル
長女ルーズル:グロリア・ヴィント
郵便配達夫ロルフ:ゲラルド・ライター
男爵夫人エルザ:モニカ・ヘルヴィック
興行師マックス:クルト・リーデラー
ナチスの士官ツェーラー:アロイス・ヴァルヒスホーファー
長男フリードリヒ:ラインハルト・ガブリエル/フィリップ・クバチェック
次男クルト:ロリン・ヴェイ
次女ルイーズ:ヨハンナ・ベルキ
三女ブリギッテ:アナ・マリア・ブルキツ
四女マルタ:キンガ・シュライヒャー/シリン・メラニ・ミラニー
五女グレーテル:ライアン・メーデル
ホルスト・ヴィッヒ指揮ウィーン・オペレッタ劇場管弦楽団&合唱団
演出:ハインツ・ヘルベルク

 不朽の名作と言われるミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」、これをブロードウェイじゃなくて、ウィーンのオペレッタ劇場が上演、しかもマリアにはあのメラニー・ホリディさんということで、これはとっても面白そうと思い、W杯決勝戦のキックオフが気になりながらも、行ってきました。

 ところで、「サウンド・オブ・ミュージック」と言えば、まっさきに思い浮かべるのは、ジュリー・アンドリュース主演の映画。美しいアルプスの自然をカメラがしっかりと捉え、そこを舞台に、美しい歌が響き渡るというあの映画は、私も子供の頃に見て、感動した覚えがあります。この映画とついつい比較しながら、今回の舞台も見ていました。まぁ、流れとしてはそんなに大きく違うようなところはないのですけれど、細かな部分では、やはりちょっと違うなと思う部分があります。例えば「ドレミの歌」、映画ではマリアが子供達を野原に連れ出して、そこで教えて聴かせるようになっていたと思うのですが、今回の舞台では、マリアがトラップ家にやってきて互いの自己紹介が終わった後に、打ち解けるためにマリアが子供達と一緒に歌う、というふうになっているのです。このミュージカル・ナンバー中、一番有名なこの曲が、始まってすぐに聴けてしまうというのには、ちょっと驚きました。また、その前のシーンですが、マリアがトラップ一家にやってくる時に歌う「I have Confidence」、映画ではアンドリュースさんが実に伸びやかに歌っているのですが、この舞台では歌われませんでした。聴いてるだけでむっちゃ元気になれるこの曲が聴けなかったのは、ちょっと残念な気もします。

 まぁ、そんな違いはありますが、前半はおおむね映画と同じような流れで舞台は進みます。が、後半は結構、端折っていたような感じがします。これは仕方のないことなのでしょうね。時間もそうあるわけでもないですし。そのことはいいのですが、でも、全体を通じて気になったことが一つ。それは、舞台の転換の際、幕をいちいち降ろしてその向こうでどかどかと転換作業をやっていたということです。まぁ確かに映画を見ていても、結構、ころころと場面が変わりますよね。あれと同じことを舞台の上でもしようというのは、最初から無理な話です。なるべく場面の転換が少なくなるようにしようとはしているのでしょうけれど(それが流れを端折ることにも通じるのでしょう)、その舞台転換の度に幕が降りてきて、場繋ぎ的にオーケストラがミュージカル・ナンバーを繰り返すというのって、何か安直なような気がしてしまいます。話の流れというのが、幕が降りてしまうことで、何かぶち切れになってしまうようで、あまりいいとは思えないのです。特に後半のマリアとトラップ大佐との結婚式のシーン、ここなどその前後で幕が降りてしまうので、完全にここだけ浮いてしまっているような印象もします。ま、これで逆に結婚式のところを浮かび上がらせようとしているのかもしれませんが、でもやっぱり流れとしてはどうなんでしょう… 何とも仕方のないことなのかもしれませんね。

 さて、お目当てのメラニー・ホリディさんのマリアはどうだったかと言うと、これはもう、さすがに彼女ならではの明るさを存分に発揮した、素晴らしい出来だったと思います。ホリディさんと言うと、どうも、ウィンナ・オペレッタ、例えば「メリー・ウィドウ」のハンナなんかのイメージが強くて、マリアの役にも向いているような向いてないような、という感じが最初はしたのですが、実際、舞台を見てみると、実に見事に役をこなしてはるのです。聴かせどころはいくつもありますが、まずは最初の「Sound of Music」、映画では、ホルンの美しい音色に導かれて序奏が始まり、そこから一気に盛り上がり、さぁっと画面にアルプスの美しい山々が広がり、その中にたたずむマリアが朗々とこの曲を歌い出すのですが、今回の舞台では、その美しい序奏もなく(これがちょっと残念…)、すぐに歌が始まります。え?と思ってる間にホリディさんのマリアは、このテーマ曲をたっぷりと歌い上げていきます。ややテンポが速めなようにも感じたのですが、まぁ、こんなもんなんでしょうね。そして、「ドレミの歌」は先にも書いたように、トラップ家に着いてすぐの場面の歌われます。子供達とのかけ合いもしながら、舞台の上を元気に歩き回り、本当に楽しげに明るく歌っていく姿はとっても素敵です。その後の「My Favorites」も素敵です。子供達への愛情たっぷりという感じの優しさいっぱいの歌唱です。明るさだけでない、心からの優しさというものが、どの歌にも満ちていて、それがホリディさんのマリアを慈しみに満ちた女性として浮かび上がらせているようなんですね。いやぁ、素敵なもんです。

 一方のトラップ大佐は、今回の演出も手掛けているヘルベルクさん。このオペレッタ劇場の監督も務められ、演出や指揮も手掛けられるというまさにマルチな活動をされている方ですね。その彼の演ずるトラップ大佐は、実に堂々としたものです。声自体にもかなりハリがあって、そのばりばりとしたバリトン声はとても素敵なものです。声量もたっぷりで、ほんと貫禄がありますね。マリアと2人で歌う「Something Good」など、ホリディさんとのデュオで実に美しいもの。ややヘルベルクさんの方が声量が大きいからか、ちょっとバランスを欠くようにも感じますが、それはご愛敬ということで。そして、一番の活躍は、何と言うても子供達でしょう。ウィーンの名門少年合唱団等のメンバーという触れ込みでしたが、そのとおり、美しい合唱を聴かせてくれます。発声なども実に素直な感じで、純情な子供達というイメージにぴったりという感じですね。「So Long,Farewell」など、とても可愛らしいものです。長女のルーズルのヴィントさんにはソロというかロルフとのデュオ、「I'm going on seventeen」がありますが、これも素直な伸びやかな声を聴かせてくれて、素敵でした。

 でも、個人的に一番好きなのは、実は修道院長さんだったりします。「Climb the Every Mountain」、これを朗々と歌い上げるこの役が一番、お気に入りなのですね。この曲をたっぷりとオケと一緒になって十分なまでに盛り上げて歌われるだけで、もうじぃんと感動してまうんですね。アモルトさんの歌唱は、そんな私の期待どおり、実に見事なものでした。第1部及び第2部それぞれのラストで、高らかに歌われるのですが、アモルトさんの歌は、どこか繊細な感じを漂わせながらも実に堂々としたものです。英語の発音がやや苦手なようにも聴こえ、それがためにか、ややアップテンポな感じで、前へ前へとずんずんと進んでいくように感じられるのですが、仕方ないですかね。もっとためて歌われてもいいかなという欲はありますが、でもその迫力ある歌唱はさすがなものです。

 英語の発音に関して言えば、確かに皆さん、どこか不自然な感じもしないでもないのですが、でも、全般的にとても奇麗に発音していたと思います。今回の舞台では、英語は歌の部分だけで、他の台詞の部分は全てドイツ語だったのですね。これがまた新鮮な感じに聴けました。彼らにとっては母国語になるのでしょう、とても奇麗なドイツ語で、言葉として聴き取りやすかったように思います。(って、ドイツ語が完全に聴き取れたわけじゃないですけど。)でも、このミュージカルのもとになった、現実のお話では、実際、登場人物達は皆さん、ドイツ語で会話をしていたのでしょう、そう考えると、この方が現実味を帯びた感じに聴けるのかなとも思います。(言いたくないけど、「Heil,Hitler!」なんてやっぱりドイツ語ですしね。)

 とまぁ、細かなところではう〜んと考えてしまうこともあったのですが、でもやっぱり素敵な舞台であったことに違いはありません。オペレッタ劇場ならではの素晴らしいミュージカルだったと思います。