らいぶらりぃ | |||||
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●日 時 | 2002年7月6日(土)14時開演 |
●会 場 | 神戸文化ホール・大ホール |
●出 演 | ピアノ:清水和音 |
●曲 目 | ベートーヴェン/ピアノソナタ第31番変イ長調 |
ピアノソナタ第32番ハ長調 | |
ドビュッシー/映像第1集 | |
ラヴェル/夜のガスパール | |
(アンコール) | |
ブラームス/インテルメッツォ | |
ショパン/英雄ポロネーズ |
実力派ピアニストの清水さんのリサイタルに行ってきました。彼の演奏は初めて聴いたのですが、噂のとおり、とても素敵な演奏でした。何が素敵と言うて、音の扱いがとても丁寧なのですね。どの1つの音をも決して疎かにしない、実に緻密に音楽を組み立てているという、丁寧で繊細な感じがするのです。前半のベートーヴェンは晩年の作品ですが、これらの、いわばベートーヴェンがピアノ音楽の境地に至ったところの作品を、実に丁寧かつダイナミックに演奏しています。プロフィール等には、「完璧なまでの高い技巧と美しい弱音」とかと書かれていますが、それは確かにそうです。弱音の扱いはさすがなものです。けれど、もっと印象的なのは、弱音がそうだからこそ言えるのでしょうが、強音にかける集中力のすさまじさです。ここぞというとことで、ぐっと集中力を高めてその音に力をこめているのです。32番、33番どちらにしても力強いフーガ或いは変奏がありますが、それらがまさにそうなのです。力強いテーマをずんずんと響かせるその様は、実に迫力に満ちています。かと思えば、穏徐楽章などでは繊細さをもってじっくりと歌い上げていくのです。この表現力の豊かさはほんとすごいものです。特に32番の最後、変奏が重なっていき盛り上がった後に訪れる平安な雰囲気の部分、ここの何と美しいこと! メリハリのついた、なんて簡単な言葉では済まされない、まさにベートーヴェンの真髄がそこに表れていたような気がします。そして、清水さんの演奏は、何というか、音楽自体に余裕というかゆとりのようなものが感じられるのですね。確かに音楽に集中しているのでしょうけれど、それが自分の持っているもの全てを一心不乱に注ぎ込むというのではなく、どこかに冷静に自分の音楽を聴いている部分があるうような、そういうものを感じるのです。ベートーヴェンのこのような曲なんて、大抵は全集中力を注ぎ込んでこそできるものかと思うのですが、そういうふうに感じさせないのはさすがです。
後半は打って変わって印象派の作品。またがらりとピアノの音色が変わります。ドビュッシーは、ほんまに美しい映像を見るかのような、色彩感のある美しい音色なんです。ふわぁっと優しく音が会場を包み込むようで、私達自身がその映像の中に取り込まれているかのような感じさえします。そして、ラヴェル、ただでさえ音の魔術師とも呼ばれる彼の曲を、色彩感豊富な清水さんのピアノが奏でていくのです。これはもう素晴らしいものです。個性的な曲が3曲並びますが、それぞれ、その曲独自の世界というものを十二分に表現しきっているようです。「水の精」の華麗さ、「絞首台」のおどろおどろしさ、そして「スカルボ」での恐怖或いは神秘といったものが、存分に歌われていきます。その盛り上がりも効果的なもので、どんどんと気分が高揚していくのを止めることができないほどです。すごいものです。
ピアノの魅力というものをたっぷりと満喫することができたのですが、更にアンコールでも静かなブラームスの後に、何と「英雄ポロネーズ」です。こんなん、普通でしたらプログラムの中で演奏するような曲でしょう。これを実に軽々とアンコールで扱ってしまうあたり、超人的なまでの技術力と音楽性とにほれぼれとしてしまうのでした。満ち足りた演奏会でした。