らいぶらりぃ
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ドラケンスバーグ少年合唱団

●日 時2002年7月18日(木)19時開演
●会 場神戸文化ホール・大ホール
●出 演クリスチャン・モーリッツ・アシュリー・ボータ指揮ドラケンスバーグ少年合唱団
ピアノ:マリア・マグダーレ・デ・ビア
    ジュディス・ファン・デル・ヴェストフイツェン
●曲 目ラッター/グロリア
モリコーネ/映画「ミッション」より 川
オルフ/おお、運命の女神よ
さくら
ソントンガ/ンコシ・シケレリ・アフリカ
メンデルスゾーン/わたしは主を待ち望みます
モーツァルト/ハレルヤ
オルフ/カトゥリ・カルミナ(抜粋)
翼を下さい
フリードマン/ロック・アラウンド・ザ・クロック
「ライオン・キング」メドレー
「天使にラブソングを」メドレー
イスラエル民謡/ハヴァ・ナギラ
フランス民謡/サン・ミル・シャンソン
上を向いて歩こう
アフリカ音楽探検
 モロケニ
 シヴェラ
 クーズィー・フランガーン
 アカディンダ・アンド・ドラムズ
 アマビヤシキレ
 ジケレ・マウェニ
 ンツィカナズ・ベル
 ナイト・サウンド・フロム・ザ・アフリカン・ヴェルト
 トーラ・トーラ
 ガムブート・ダンス
 モロ・モロ
 バイェザ

 ドラケンスバーグ少年合唱団、私が初めてこの合唱団の演奏を聴いたのは、5年前、出張で仙台へ行った際、ちょうど彼らが仙台で公演することを知り、いそいそとホテルから出かけて、当日券を求めて会場の中に入っていった日のこと。あの時の鮮烈なまでの印象はまざまざと残っていて、いつかまた聴きたいとずっと思っていたのです。昨年にも彼らは来日していますが、その時は会場が大阪で、何故か(夏休み中の)平日の昼間。んなもん行けるわけないやんかぁ、と泣く泣くあきらめたのでした。ところが、今年は神戸で、しかもしっかりと夜の公演。再び、彼らに会える、期待に胸をふくらませて出かけてきました。

 さて、普通に少年合唱と言うと、ボーイソプラノばかりの合唱というイメージがありますが、彼らの演奏スタイルは違います。変声期を過ぎた子らもメンバーに入っていて、彼らが低声部を受け持つことで、しっかりとした混声4部の編成を取ることができるのです。これが素晴らしいんです。極めて澄んだ美しいソプラノと、どっしりとした低声とのバランスの良さ、そこから紡ぎ出されるハーモニーの見事さ、宗教曲なんかでもこのハーモニーの美しさが曲の持ち味を十分に引き出しているに間違いはありません。特に「カルミナ・ブラーナ」からの抜粋、あのカルミナですよ、大人達が大勢寄って歌うような曲を、彼ら子供達だけで堂々と演奏しているのには、驚きました。これだけでも彼らの実力の程がよく分かるというものです。そして、その実力というのは、個々の実力が高レベルにあるということでもあります。彼らは、ソロを順番に受け持って歌っていましたが、その何とも美しいこと。どの子もしっかりとした発声で、マイクアンプを通してではありますが、その美声をたっぷりと響かせています。特にモーツァルトの「ハレルヤ」のソロはもう最高なものです。目を閉じて聴いてると、女の子が歌っているのかと思うくらいのピュアな響きなのです。思わず、じぃ〜んときてしまいました。そして、更に言うなら、その技量の素晴らしさだけでなくて、彼らの歌っている時の表情が素敵なんです。ほんとに心から音楽を楽しんでいるという笑みに満ちているのです。音楽に合せて体を揺らしたり、にこにこと喜んでソロを歌いに前へ出てきたり、緊張はしているんでしょうけれども、それを表に出さず、笑みを絶やさない、これはほんと、大人でもなかなかできないことでしょう。彼らが本当に楽しそうに歌っているから、こちらも何だか楽しい気分になってくるのでした。特に印象的なのは、「ンコシ・シケレリ・アフリカ」、その1部が南アフリカの国歌に編み込まれているというこの曲を歌う時の彼らの表情と言うたら! まさに音楽を楽しんでいる、この歌を歌う喜びに満ちているというようで、実に素敵なものです。音楽の喜び、このごく当り前のことを改めて私達に教えてくれたような気がします。

 さて、前半は様々な小曲を並べていますが、一番の聴きどころは「ライオン・キング」メドレーでしょう。ディズニーの名作としても知られるこの作品、その世界にはまさに野生の動物達が息づいているわけです。それは非常にアフリカ的、と言うても差し支えないでしょう。それを南アフリカの彼らが歌う、こんな素敵なことはないでしょう。まるでシンバ達がほんまにそこにいるかのような、実にリアルな感じの歌唱なのです。野生味あふれるリズムに心に響く美しいメロディ、これこそがほんまの「ライオン・キング」だと言わんばかりの魅力たっぷりの演奏で、その素晴らしさは、エルトン・ジョンもびっくりなものだとも言えるでしょう。その素晴らしさに、思わずほろりと涙してしまうのでした。

 その次の「天使にラブソングを」メドレーも、実にノリノリで楽しさ満点な演奏です。どこかジャズっぽい要素もある曲を、彼らがスィングしながら歌うのは、実に気持ちのいいものです。単に情感豊かな、というのを越えて、まさにソウルフルという言葉がふさわしいような彼らの歌唱は、ほんと見事すぎます。ゴスペルという音楽が非常に魅力的である、その由縁を彼らの中に垣間見たような気もするのでした。

 他にも、「ロック・アラウンド・ザ・クロック」では男声のパワーというものを感じさせてくれましたし、また、日本人向けのサービス、「翼を下さい」は、まるで4人組の”サーカス”の皆さんの歌をそのままに再現するかのような4重唱で、とっても美しかったし、もう本当に楽しい演奏ばかりでした。

 後半はお待ちかねのアフリカ音楽です。やはり一番印象的なのは、前回同様、「テュラテュラ」(プログラムには”トーラ・トーラ”と記されていましたが…)でしょう。この優しく美しい子守歌、会場をやや暗くして、夕闇の中、子供を寝かせつけるというシチュエーションをかもし出して、印象深く歌い上げていきます。そしてその中には、広大な自然の広がる大地の上で、非常にゆったりと時が流れていく、そんなことをも感じ取ることができます。そして、悠久の時の流れるアフリカ、その自然の大きさというものをまざまざと感じさせるのは、また、他の曲がとてもダンスフルなものであるからかもしれません。こういう言い方は或は失礼なのかもしれませんが、非常に土着的な色合いの強い舞曲を歌い踊ることは、ずっと昔から行われていることでしょう。それらの中には人間が自然と一体となって生活をしていた頃のパワーというものがあふれていると思うのです。そのパワフルでダンスフルな舞曲を、彼らは実に生き生きと再現していくのですね。「ガムブート・ダンス」や「モロ・モロ」、「バイェザ」など、本当に魂が踊るというような感じで、実に迫力たっぷりなものです。そして、それは私達もまた、どこかに忘れてきたような懐かしさみたいなものを感じさせるもので、つまりは人間の動物的な本能と言ってもいいものがその根源にあるのでは、と思うのです。だからこそ、そこに極めて自然な人間の姿が投影され、それを育んできた大自然のパワーというものをも感じることができるのですね。…何かごちゃごちゃと書いてしまいましたが、とにかく、彼らのネイティヴなアフリカン・ミュージック&ダンスは実に感動的で素晴らしいものでありました。アフリカの息遣いというものを間近に感じることのできた、貴重なひとときだったのでした。

 その感動あふれる興奮の中、彼らの踊りは最高潮に達して、圧倒的なパワー全開で演奏会は終わったのでした。割れるような拍手の嵐、中には立って、彼らと一緒にアンコールのダンスを踊るおばちゃん達もいたりして、まさに舞台と会場が一体となって、1つの巨大な興奮の中に包み込まれているのでした。いやぁ、実に楽しく、興奮した演奏会でした。