らいぶらりぃ
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朝比奈隆メモリアルコンサート〜永遠の朝比奈隆

●日 時2002年7月21日(日)15時30分開演
●会 場神戸国際会館こくさいホール
●出 演朝比奈千足/岩城宏之/外山雄三指揮朝比奈隆メモリアルオーケストラ
ソプラノ:井岡潤子
アルト:荒田祐子
テノール:林誠
バリトン:田中勉
ピアノ:伊藤恵
●曲 目【第1部】明日への讃歌〜歌い継がれる「第九」
ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調より 第4楽章
【第2部】巨匠の休日〜巨匠が愛した小品と想い出の協奏曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番変ホ長調「皇帝」より 第1楽章
リャードフ/「8つのロシア民謡」より エレジー
グラナドス/「ゴエスカス」より 間奏曲
マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲
チャイコフスキー/スラヴ行進曲
【第3部】よみがえる朝比奈サウンド!〜巨匠の映像出演とオーケストラの共演
ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調より 終楽章

 日本が誇る、いや世界中で誰もが認めていた巨匠、朝比奈隆さんが亡くなられてから早くも半年以上が経ちました。その朝比奈さんを偲んで、朝比奈さんのお誕生月の7月に、朝比奈さんが愛した神戸で、しかも生前には名誉館長をされていた国際会館で、朝比奈さんを祈念する演奏会を、というのが今回の演奏会の趣旨のようです。

 さて、演奏会は3部構成になっています。第1部は朝比奈さんが最期に指揮をするはずだった「第九」の4楽章。第2部は朝比奈さんがよく取り上げていた小品の数々。第3部は朝比奈さんが永遠の課題としていたベートーヴェンの名曲、7番交響曲を、何と朝比奈さんの映像を一緒に見ながら聴くというもの。なかなか面白そう、と思っていたのですが、一つ、気になるのはオーケストラです。”朝比奈隆メモリアルオーケストラ”と命名された今回のオーケストラは、大阪フィルハーモニー交響楽団とそのOB、新日本フィルハーモニー交響楽団、京都大学交響楽団に神戸フィルハーモニックの皆さんから成る混成のオーケストラなのですね。ただ、見た感じでは、第1部と第3部ではそういうアマチュア(京都大響や神戸フィルはそうでしょう)が中心という感じの混成オーケストラで、第2部は大フィルを中心にしたプロのオーケストラ、という分担で演奏していたようです。ところが、これがその演奏に違いがありすぎて、その力の差が歴然としてしまっていたんです。そりゃ、プロとアマとを一緒にして両者を比較すること自体、意味のないことなのかもしれません。が、最初の「第九」は正直、がっかりしてしまいました。”「明日への讃歌」〜受け継がれる「第九」”というタイトルが空しくなってしまうほど、しまりのない演奏だったんです。朝比奈さんの「第九」は、私は生で聴いたことはありませんけど、でもこんな演奏じゃなかったはずです。緊張感に欠けた音、ホルンのなんかの音も外れてるし、その他管楽器の入りの音もぶれてるし、盛り上がり方も緊迫感がなく、何だかな…と思って聴いていました。指揮の千足さんもそれなりに気合は入っていたんでしょうけれども、かえってそれが空回りしているような感じがします。合唱の方への指示とかがほとんどないのも気になりましたし。(私が合唱団員だったら、この指揮では歌いたくないと思うでしょうね…/これで歌えてしまう大フィル合唱団もまた、別の意味ですごいもんです。)第1部を聴く限りでは、不満の残る演奏でした。

 ところが、第2部はプロ中心のオーケストラ。指揮も外山さんと岩城さんが登場です。こちらの演奏の何とも引き締まっていること。伊藤さんとの「皇帝」は、さすが朝比奈さんと何度もこの曲を競演しているだけのことはあって、実に見事なものです。伊藤さんも、朝比奈さんとこの曲をやった時は、いつもいろいろなことを教えられてばかりいたというエピソードをお話しになって、どれだけ、朝比奈さんがこの曲を愛していたのかを伺い知ることができます。ちなみに、外山さんもあのヴィルヘルム・ケンプと、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全てを競演していらっしゃるのですね。今日もリハーサルで、外山さんからケンプはこうだった、というようなことをお聞きできて、とても有意義でした、と語る伊藤さんは、ほんとお人柄のいい方ですね。毎年のように、お正月に朝比奈さんが伊藤さんと「皇帝」をされていたのもうなずけます。また、グラナドスの「ゴエスカス」の間奏曲は、何と、朝比奈さんが編曲をした譜を使っての演奏でした。作曲家としての外山さんも、このアレンジを非常に高く評価しているようで、朝比奈さん直筆の書き込みのあるスコアを使っての演奏、外山さんの指揮は、その朝比奈さんの音楽を忠実に再現しようというもので、実に堂々としたものでした。演奏後、そのスコアに向かって礼をする外山さんの姿がとても印象的でした。一方の岩城さんは、かつて、震災後にシンフォニーホールでチャリティ演奏会をした際に、リハーサルで朝比奈さんがスラヴ舞曲を降ったのを見て、思わず朝比奈さんに向かって、指揮がうまくなった、と声をかけた、というエピソードを披露してくれました。司会の響敏也さんも間に入って、あの時はその後にかけてもいろいろとやりとりがあったようで、なかなか面白いお話でありました。でも、岩城さんご自身は、スラヴ舞曲を振るのは実は生まれてからまだ2度目なんだそうですね。え?って感じですが、でも、実際の演奏は実に堂々たるもの。それはまさに朝比奈サウンドというのはこういうものをいうのだろうというくらいなもので、圧倒的な迫力をもって、会場中に響き渡っていました。見事なものです。やはり、朝比奈さんのメモリアルというからには、これくらいの演奏はしてほしいものですね。

 第3部は舞台の天井からスクリーンが降りてきて、そこに在りし日の朝比奈さんの映像が映し出されるという趣向。指揮をしていらっしゃるのは、今回と同様、ベト7のようですが、実際の演奏はその映像と合せて、というのではないのですね。途中には朝比奈さんが灘区のご自宅の近所を歩いている映像なんかも織り込まれていて、映像だけで見ていたい気分です。演奏は第1部と同じ混成オーケストラ。せっかくの7番シンフォニーの終楽章なのに、リズミックでダイナミックというには物足りない演奏、そのことはもういいでしょう。でも、ひとつ面白いと思ったのは、何と、ティンパニを岩城さんが叩いていたのです。こういう遊び心がいいですよね、岩城さんらしくって。どうせなら、千足さんも指揮じゃなくって、クラリネットで参加して、指揮は外山さんがする、なんてふうにしてもよかったのに。んでもって、オケも1・3部のオケと2部のオケと一緒にしてほんまの大合同オーケストラとして演奏すれば、より盛り上がったんじゃないかしらん。演奏の出来とかいうことを度外視してしまえば、より大勢で演奏する方がより祭典的な意味合いも強くなるでしょうし、いいのではないでしょうか。(何か投げやりな感じ…)

 追悼演奏会という割りには、何か演奏の出来もいまひとつ、イベント的な意味合いでもいまひとつ、というのが正直な感想です。どうせやるのなら、もっと締まったものをしてほしいものです。今月末のは大フィルが特別演奏会として、朝比奈さんの追悼演奏会をするようですが、やはりこういう方がほんまの追悼になるのでしょうね。後は、この年末に再び神戸で開かれる追悼演奏会も、中途半端で終わらないように期待したいと思います。