らいぶらりぃ
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バーミンガム市交響楽団

●日 時2002年9月23日(祝・月)15時開演
●会 場アルカイックホール
●出 演サカリ・オラモ指揮バーミンガム市交響楽団
ピアノ:ダン・タイ・ソン
●曲 目ワーグナー/歌劇「さまよえるオランダ人」序曲
ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲Op.43
チャイコフスキー/交響曲第4番へ短調Op.36
(アンコール)
シベリウス/交響詩「フィンランディア」

 前回の1998年の来日時には、ラトルさんの指揮でマーラーの7番を存分に聴かせて、私達を感動と興奮に巻き込んでくれたバーミンガム市響の皆さん。あの時の感動はまだ記憶に新しいところですが、それから4年。音楽監督はラトルさんからフィンランド出身の期待の新鋭、オラモさんに代わられたのですね。そして既に各地での評判も上々だとか。そんなコンビが4年ぶりにやってくるというのです。しかも、ピアノソロには、私達夫婦の憧れ(?)、ダン・タイ・ソンさんです。発売と同時にチケットは当然のようにGETしたのでした。

 さて、最初の曲はワーグナーであります。4年前にラトルさんの指揮での演奏をシンフォニーホールで聴いた時のことを思い出しながら聴いていましたが、その艶やかな音色は今でも健在ですね。どこか渋い風味を出しながらも、非常に艶っぽい音色で弦が鳴り渡ります。そして、それが大きな波のうねりのように響いてくるのですね。嵐の波に翻弄されるオランダ人の船、運命の波間に漂うオランダ人達といった、この曲の世界を非常にくっきりと描いているようです。その大きな音のうねりは次第に会場中をその中に引きずりこんでいき、私達に最初の感動を与えてくれるのでした。加えるなら、有名な船乗り達の歌のメロディを奏でる管楽器の響きがまたとてもクリアなもので、弦のうねりの上で非常に引き立っていたのも印象的でした。オラモさんの指揮というのは、とても大きくて分かりやすいものですね。そこから繰り出されるのは非常におおらかな感じの音楽であり、オケ全体の響きというものをより効果的に演出しようかというような指揮ぶりと言ってもいいでしょう。ドラマティックというのとはちょっと違うようですが、しかし何か心にくっきりと残る演奏でありました。

 それは、さらに次のラフマニノフでも言えることです。弦の音色がとにかく滑らかに流れていて、とても美しいのですね。そこに、ダン・タイ・ソンさんのピアノが敢然としたパワーをもって乗ってきます。ダン・タイ・ソンさんのピアノを聴くのも久しぶりです。どうしてもいつもショパン等のしっとりとした演奏というイメージがあるのですが、今回はそれとは違う、パワーというものが感じさせられます。音をぐっとためて一気に鍵盤にたたきつけるような感じ、その緊張感あふれる演奏はまさに迫力たっぷりです。まるで、オケと競い合うかのような緊迫感に満ちた演奏に、私達も引きずり込まれます。が、中間部に入ると、雰囲気はがらりと変わります。いつものソンさんのような、非常に繊細でしっとりとした叙情性あふれる音色が流れてきます。そう、これよこれ、と待っていましたとばかりにこの美しいメロディーに聴きほれます。その歌いっぷりには、思わず涙してしまうほど、魅力的な演奏、このソンさんのピアノを受けて入ってくる弦がまた極上のもので、まるでむせび泣くかのようなその音色に、私達の涙もさらに増えて、感情も高みに達してしまいます。はぁ、とため息が出てしまいそうなくらいに何か切ない気持ちになってしまいますな。この雰囲気が終ると、曲は一気に最後へ。再び、まさに”競”奏曲と言うにふさわしい見事な演奏のうちに、終るのでした。途中、テンポが微妙にずれているのでは?と思わせるような箇所もいくつかあったのではありますが、それでも実に見事な演奏でした。これほど素敵なラフマニノフもなかなか聴けるものではありません。その素晴らしい演奏を、ピアノのほとんとすぐ前、最前列から2列目という絶好の場所で、しっかりと間近にダン・タイ・ソンさんの指づかいを拝見しながら聴くことができたのは、本当に何にも代え難い貴重な体験でありました。

 後半はチャイコの4番。私がこの曲を初めて聴いたのは、ショルティ指揮のシカゴ響のCD。その鮮烈な印象は拭い難いもので、どうしてもあの強烈な演奏のイメージを忘れることができないのです。そういう感覚で聴いてしまうと、今日のオラモさん指揮のバーミンガム市響の演奏は、ややおとなしめのように感じてしまいます。とは言うても、ダイナミックさはさすがなものです。強烈な激しさで聴かせるというのではなく、弱音を際立たせることで、ダイナミクスの幅を広げているのでしょうか。そうすることで、単なるイケイケのやかましさとは違う、内にパワーを秘めたようなそういう充実した力というものを感じさせてくれるような気がします。この曲中で重要な役割を果たしている金管のファンファーレのメロディ、これなども非常にどっしりとしたもので、いぶし銀のような輝かしさをもって響いてくるのです。そう、この”いぶし銀”こそ、前回の来日時の演奏を聴いた時に私が使った言葉でした。ぶ厚い音の層を重厚に響かせながら、実に渋い音楽作りをする、それがこのオーケストラだと言えましょう。今回のチャイコでもそれをはっきりと意識させられました。素敵な演奏でした。

 最後のアンコールは、オラモさんらしく(?)、「フィンランディア」。オケ自体は確かにイギリスなんですけどね、どうしてもオラモさんだからフィンランドものも聴きたいなって思ってたんですけど、その期待に応えてくれました。実に堂々とした「フィンランディア」は、さすがフィンランド出身ならでは、と思います。讃歌のメロディのテンポがやや速くて、もうちょっとたっぷり歌い回してもいいのでは、とも思ったのですが、本場フィンランドのオケの演奏を聴くかのような、気合十分の聴かせてくれる演奏でした。

 その素晴らしい演奏の余韻を楽しむように、終演後、楽屋口まで出向いていって、しっかりとオラモさんのサインを頂いて帰ってきたのでありました。気さくな兄ちゃんといった印象のオラモさんに、しまった、フィンランド語で挨拶すればよかったぁ、と後悔したことは内緒です…