らいぶらりぃ
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児玉桃ピアノコンサート

●日 時2002年10月26日(土)14時開演
●会 場いずみホール
●出 演ピアノ:児玉桃
●曲 目ドビュッシー/ベルガマスク組曲
       子供の領分
ショパン/ポロネーズ第7番変イ長調Op.61
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」

 先日、ダイ・タイ・ソンさんのリサイタルを聴きにいずみホールへやってきた時、ふと1枚のチラシが目にとまりました。…何と、児玉桃さんのリサイタルがあるというじゃありませんか。それもすぐ10日後に。これはしまったぁ、と思いながら速攻で何とかチケットGETすることに成功、わくわくと期待しながら出かけてきました。

 さて、1年ぶりの桃さんであります。昨年、はるばる京田辺の同志社まで出向いていったことが思い出されますが、今回のプログラムもその時と似たような感じですね。ドビュッシーにムソルグスキーというのは前回も同じでした。が、今回、このいずみホールという器で聴く桃さんのピアノは、また格段と美しく響いてきます。ドビュッシーなど、音の粒がとても細かくて、とてもきらきらとした感じがします。きらきらと言うても、まばゆく光り輝くというのではなくて、何と言うのでしょう、とてもしっとりと落ち着いた感じの輝きなのですね。特に「プレリュード」などはまるで薄霧が立ち込めるような雰囲気すらするようでしたし、「月の光」にいたっては、まさに靄のかかったようなぼんやりとした月明かりを描写しているかのよう。きらびやかと言うのではなくて、まるで水墨画を見るかのような落ち着いたモノトーンの世界が展開するのです。けれど、単なるモノトーンではなくて、その中に非常に細やかな音の表情が隠されていて、それがきらきらとした印象につながっているのですね。以前にも書いたことですが、さすがにパリ在住ということはあります。これこそがほんまの印象派の音楽だというものをたっぷりと聴かせてくれるのでした。「子供の領分」は前にも聴いた曲ですね。とても優しい音色で歌い上げているようで、それはまさに子供に対する愛情あふれる演奏だったと言うてよいでしょう。

 後半は昨年に続いての「展覧会の絵」。あのきゃしゃな体のどこにこんなパワーが隠されているのだろうと思わせるほど、力強い音が響いてきます。プロムナードはやや速め?という感じでしたが、それこそまさに旧友に再会した喜び=生まれた街、大阪で演奏をする喜びに満ちたもの。実に生き生きとした演奏です。それが、「小人」で一転、気合十分なまでに緊迫館をもったピアノの音が私達を圧倒します。間合いの取り方も細かに気にしながら、堂々と音楽を組み立てていこうという彼女の熱意が感じられます。そして「古城」、あのテーマを右手が実に切々と哀愁をこめて歌い上げていきます。このしっとりさがたまりません。女性ならではの繊細さがたっぷりと出ていました。そして、その後の「ひなどりのバレエ」や「サミュエル・ゴールデンベルク」等、なかなかに賑やかな感じの曲が並びますが、これらも実に生き生きとした感じで弾いていきます。躍動感があり、精彩に富んでいますね。いいものです。賑々しく曲が続いていき、あっという間に最後の「キエフの大門」までたどり着いてしまいます。どっしりと堂々と構えた演奏は、まさに貫禄のあるもので、大門を見事に描写していると言うてよいでしょう。力強くも生命感にあふれた、とても素敵な演奏でした。

 こういう言い方はどうかとも思うのですが、舞台上の彼女を拝見していると、以前にも増してぐっと大人の魅力が出てきたような感じがするのです。それに合せてか、音楽の方も一段と艶やかな大人の魅力というものを蓄えるようになってきたのでは、そんなことを思うのです。また次の機会にもぜひ聴きに来たいものです。