らいぶらりぃ
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神戸学院大学グリーンフェスティバルVol.189

長谷川陽子チェロリサイタル

●日 時2002年11月16日(土)15時開演
●会 場神戸学院大学メモリアルホール
●出 演チェロ:長谷川陽子
ピアノ:野平一郎
●曲 目マレ/5つの古いフランス舞曲
プーランク/チェロとピアノのためのソナタ
ドビュッシー/チェロとピアノのためのソナタニ短調
フランク/チェロとピアノのためのソナタイ長調

 1年ぶりに長谷川陽子さんが神戸学院へやってきました。今回からは彼女の選んだ様々なチェロ・ソナタを連続して5回に渡って演奏するという企画がスタートであります。初回の今回はフランスものがテーマです。ベテランの野平さんとのコンビで、フランスものを存分に聴かせてくれました。

 最初はマレの作品。これ、とっても歌謡的な感じのする曲ですね。マレってルネサンス期の作曲家だというので、もっと和声進行の美しさを聴かせる曲かと思っていたのですが、ちょっと意外な感じもします。どこか懐かしい雰囲気たっぷりに、朗々とメロディーを歌っていくのですね。陽子さんのチェロがその曲の魅力を十二分に引き出していて、伸びやかな音色の歌いに、ほぉと聴き入るのでした。

 次はプーランク。彼独特の音世界というのが、聴いてすぐに分かります。ドラマティックというよりは、むしろ淡々とした感じで曲は進んでいきます。が、彼ならではの機知に富んだ楽想が満ちていて、とても楽しいです。こういうのをフランス流のウィットとでも言うのでしょうね。どこかよそよそしさを漂わせながら、けれど瞬間的に、にこっと笑いかけてきて人を幸せにしてくれるような、そんな感じがぷんぷんとします。1〜3楽章の終り方なんて、とってもお茶目。何か、はにかみやさん、って感じもしますね。けれど一方で、2楽章の美しさと言ったら! どこか宗教曲のような雰囲気さえ感じさせながら、祈りの気持ちがぐぅっと高まっていって、それがどんどんと天に昇っていくような感じなんです。実に奇麗な曲です。終楽章の終り方がちょっと唐突な感じもするのですが、それもプーランクっぽいですね。(「グロリア」なんかもそうですし。)でも、とっても素敵な曲で、陽子さんの演奏でこの曲を聴けたのは幸せなことなのかもしれません。

 ドビュッシーのソナタは、実は陽子さんが学生の時に受けたコンクールの課題曲だったんだそうです。でも、この曲、なかなか味わい深い名曲ですね。陽子さんの演奏も、そんな思い入れの込められた実に深い渋味のある演奏でした。陽子さんのチェロの音色がひときわ美しく冴え渡っていたような、そんな気がします。

 最後はフランク。この曲はもともとはヴァイオリンの曲なのですね。この原曲は昨年の春に、同じくこの神戸学院で白石さんの演奏で聴いたところです。しかし、ヴァイオリンがチェロになることで、曲全体が、それでなくてもただでさえ重厚なのに、より一層、重厚で濃密な感じになるのですね。これはなかなかすごいものです。ましてや、陽子さんのチェロです。曲全体をしっかりと捉えていて、実に丁寧かつ叙情たっぷりに歌い上げていくので、更に曲が味わい深いものになっているのです。何度も繰りかえされる循環主題をはじめ、多くの美しいメロディが交錯するこの曲、こんなにも聴き応え十分な演奏というのはそうそう聴けないのではないでしょうか。昨年の白石さんの時以上に、何か深い感動を覚えたような気がします。印象的なのは終楽章とか、どんどんと感情が昂ぶっていくようなところ。もう、これでもかというばかりに音がどんどんと前へと飛んできて、ぐいぐいとその引力に私達も引きつけられていくような、そんな感じなのですね。実に素晴らしい演奏でした。

 来年はどんな曲を聴かせてくれるのか、また楽しみな企画に、期待は膨らむのでした。