らいぶらりぃ
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ベルギ−国立管弦楽団

●日 時2003年2月7日(金)19時開演
●会 場フェスティバルホール
●出 演ミッコ・フランク指揮ベルギ−国立管弦楽団
ピアノ:ジャン・イヴ・ティボ−デ
●曲 目ラウタヴァ−ラ/カントゥス・ア−クティクスOp.61
グリ−グ/ピアノ協奏曲イ短調
ベルリオ−ズ/幻想交響曲
(アンコ−ル)
ショパン/華麗なる大ワルツ
シベリウス/悲しきワルツ
ブラ−ムス/ハンガリ−舞曲第5番

 今回のベルギ−国立管弦楽団の公演は、私にとっては3つの魅力があります。それは、1.初来日である 2.好きな国であるフィンランドの出身のミッコ・フランクが指揮をする 3.フィンランドを代表する作曲家、ラウタヴァ−ラの曲を演奏する というもの。楽みいっぱいという感じで、行ってきました。

 さて、最初はラウタヴァ−ラ。私にとってはいきなりメイン・ディッシュのようなものです。この「カントゥス・ア−クティクス」、生演奏で聴くのは2回目です。前に聴いたのは京都コンサートホールで井上道義さんの指揮による京響の演奏です。あの時は初めて生で聴くということで、それだけで興奮していたような覚えがあります。が、今回は2度目です。ちょっとは冷静に…聴けませんでした。(^^; やはりほろりとしていまいます。フルート2本が静かに波の動きを表すかのようにうねっていきます。やがて、それに導かれるようにして、鳥達の鳴き声が入ってきます。この鳥達の鳴き声、舞台上にアンプ装置一式を設置して、そこでオーディオ操作をしているのですね。同じ舞台の上にアンプがあるせいか、鳥達の鳴き声と楽器の音とが見事に一体となっているのです。特に木管と鳴き声とがかぶる部分など、どこまでが楽器の音で、どこからが鳥の声なのか分らないってなくらいです。そして、弦楽器が入ってきます。低弦が存在感のある響きをたっぷりとさせていて、やがて、ヴァイオリン等もすぅっと透明感のある音色を響かせます。流行りのヒ−リング、単にそう言うだけでは済まされない、まさに自然の中に私達が実際にいるかのような、そんな感じにさせてくれる音空間がまさにそこに出現したような感じがします。朝靄の立ちこめる湖の畔で、多くの渡り鳥達が鳴いている、空気は冷やりとしていて、対岸には欝蒼と茂る森が広がっている、何か、そんな大自然の真っ只中にいるような、そんな錯覚を覚えてしまいます。或はこれがフィンランドの風景なんでしょうか。これだけでもう、感激してしまいます。2楽章は、鳥達の声に乗って、弦がどこか切なげな感じにメロディを歌っていきます。哀愁を帯びたその音色は、鳥達が何かを訴えかけてくるかのようで、切々と心にしみ入ってきます。弦の透き通るような音色が、とても美しいです。そして、3楽章は旅立ち。やはり鳥達の鳴き声から始まりますが、今度は楽器が次第に多く加わってきて、じわじわっと盛り上がってきます。木管も鳥達と一体となって、一斉に鳴いているようです。打楽器も加わって、やがて壮大なクライマックスを迎えるのです。何と雄大な旅立ちのシ−ンなんでしょう。鳥達が一斉にはばたいて、新しい土地へと向っていくような、そんなシ−ンが思い起されます。いや、それだけでは物足りない、むしろ、かつて、ディズニ−の「ファンタジア2000」で見た、「ロ−マの松」の曲をバックにして、鯨の大群が何故か海から空へと飛び立ち、荘重な音楽に合せて遥かな彼方へと向っていく、あの壮大なシ−ンこそ、このラウタヴァ−ラの曲にもふさわしいシ−ンなのではないかとさえ思えるのです。そう思っただけで、もう感動は更に深まります。何と素晴しい音楽、そして演奏なのでしょう。やはり作曲家と同じフィンランド出身のフランクさんの指揮なればこその演奏なのでしょう。フランクさんはまだまだお若いのに、既に貫禄たっぷりといった感じで、なかなかいい指揮ぶりを見せてくれます。自国の曲に対する理解ももちろん深いのでしょうが、まさに自分の呼吸に合わせるかのように、ごく自然な流れで音楽を作り上げていくのですね。オケは確かにベルギ−のオケなんですが、フランクさんの手にかかることによって、すっかりフィンランドの風に化しているような感じがします。これは最初からとても完成度の高い演奏を聴かせてくれたものです。すっかり魅了されてしまいました。

 2曲目はグリ−グのコンチェルト。ピアノのティボ−デさんは、4年前にリヨン管の演奏を聴いた時にも共演していました。その時にも感じたのですが、彼のピアノって、とっても華やかなのですね。”ピアノ界の貴公子”と言われるだけのことはあります。冒頭の和音からして、華麗な響きがしてきます。でも、オケの方はどっちかといいうと、やや地味めなんですよね。だから、音がうまく合うのやろかと思ったのですが、それはすぐに杞憂にすぎないことが判明します。ティボ−デさんのピアノが華麗にテ−マを歌っていくのを、オケがしっとりと支えていて、それがちょうどうまい具合に一体となっているのです。ピアノが変に浮いてしまうということも決してなく、互いに寄り添いながら進んでいくのですね。ぱっと聴いた感じでは相反するようなのですが、それでいて実はちゃんと一体化している、何か不思議な魅力があります。フランクさんの指揮はややゆっくりめな感じで曲を組み立てているようですが、その中をティボ−デさんのピアノが軽やかに美しく歌っていく、こんなグリ−グもあるんだぁ、と思います。どっちかというと、グリ−グの曲って、北欧という印象のせいか、やや暗い感じもするでしょう。ですが、今日の演奏はそうではなく、やや明るめの感じがします。それにしても、1楽章最後のカデンツァといい、2楽章のテ−マの歌いあげといい、ティボ−デさんのピアノは相変わらず素敵でした。そして、演奏の後のアンコ−ルでは何と、ショパンの1番ワルツを弾いてくれたのです。これがまた、まるで子犬のワルツを聴いているかのような軽やかさ!とってもなめらかで、軽快で、優雅なんです。割と独特のフレ−ジングなんかも印象的で、こんなに素敵な演奏は聴いたことがないってくらいです。いやはや、ティボ−デさんのピアノにすっかり聴きほれたのでした。

 最後はベルリオ−ズ。”フランス音楽はこのオ−ケストラと民族的に近い”とフランクさんはプログラム・パンフレットの中のインタビュ−記事で言うてはりますが、う〜ん、どちらかというとやや荒削りな感じがします。どこか洗練されていないフランス音楽って感じでしょうか。いや、これが良くないということではなく、むしろ、上品で都会的なフランスって感じではない、田舎のフランスといった感じのところが、この曲の世界をうまく表しているように思うのです。この曲の主人公である若者の純粋な喜びと狂気といったものが、どこかごつごつとした感じの演奏で、より効果的に表現されているような気がするのです。でも、3楽章のオ−ボエなど、とっても美しい音色を聴かせてもくれましたし、こっそりと繊細さも隠れているようでもあり、なかなか魅力的な演奏です。終楽章の鐘の音がやたらと大きかったのは、ちょっと興覚めでしたけど(っていうか、全体的に太鼓系の音が大きかったような…)、純朴な感じの演奏には好感が持てます。

 アンコ−ルには、これまたフィンランドもののシベリウスが登場。私にとってはとっても素敵な選曲です。これをまた、実にしっとりとした感じで演奏してくれて、それだけで満足です。最後のブラ−ムスはもう、完全にノリノリでしたけど。

 総じて見れば、このオ−ケストラって、ま、何でもできるんだなと思います。今回の来日ツア−の他の公演では、チャイ5も演奏してたようですけど、これなんかもぶ厚い音の層で存分に聴かせてくれるのでしょうね。ミッコ・フランクさんという、まだ23歳だというのに立派な貫禄と豊かな音楽性を持った指揮者を迎えて、更に新しい音楽を開拓していくことでしょう。次の来日公演の時には、また新しい境地を切り開いているのでしょうね。楽しみなことです。