らいぶらりぃ
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第7回音楽セミナ−「見て聴いてアジアの音楽」

日本の雅楽とインド音楽

●日 時2003年2月14日(金)18時30分開演
●会 場西宮市プレラホ−ル
●出 演タブラ−:クル・ブ−シャン・バ−ルガヴァ
ハ−ルモ−ニアム:藤井千尋
天理大学雅楽部
解説・進行:中川博志/佐藤浩司
●曲 目【第1部】インド音楽のリズム
 カハルワー・タール
 ダードラー・タール
 ルーパク・タール
 マッタ・タール
 ジャプ・タール
 エーク・タール
 ティーン・タール
【第2部】日本の雅楽〜林邑楽曲より
 (管弦)迦陵頻急
 (舞楽)胡飲酒
【第3部】雅楽とインドのリズムの協演
 (管弦)陪臚
 (舞楽)抜頭

 雅楽とインド音楽…一見、全く違うような感じのこの2種類の音楽を同時に楽しもうというこの企画、案内のダイレクト・メ−ルをいただいたので、ちょっと面白そう、と行ってきました。

 第1部はインド音楽です。と言うても、ほんまのインド音楽を演奏し出すと、たっぷり2時間はかかってしまうのだそうで、その触りだけということで、リズムの紹介に留められています。中川さんの解説で、バ−ルガヴァさんがタブラ−で様々なリズムのパタ−ンを聴かせてくれます。私も、インド音楽をこうして聴くのは初めてですので、とても興味深く聴くことができます。何でも、インド音楽のリズム(ターラ)というのは、最初の拍が大事なんだそうで、そこに強拍が来るのだそうです。そのことは、終わり=始まりとリズムがつながっていくということで、まさに輪廻の思想の表れでもあるのだそうです。日本のリズムというと、とかく、もみ手拍子という形で何でも2拍子になってしまいがちですが、インドのリズムというのは複雑でありながらも緻密に計算されたものなのだそうです。そんなリズムのインド音楽と日本の音楽との接点はというと、奈良時代の大仏開眼式典の時代に遡るのだそうです。そんな太古から縁のあったインド音楽のリズムを、今日はバールガヴァさんが実際にタブラーを演奏しながら聴かせてくれるのです。タブラーというのは、左のバーヤンと右のダーヤンという2つの太鼓がセットになった楽器。それぞれ、その真ん中と周りとで音色が違うのですね。それを叩き分けながら、豊かな音色のリズムが刻まれていきます。7種類のリズムパターンを演奏してくれましたが、それは2拍子、6拍子、7拍子、9拍子、10拍子、12拍子、16拍子というもので、いや、実際に拍を数えていると、段々としんどくなってきてしまいます。これで拍があっているの?と思ってしまうくらい、細かなリズムが複雑に刻まれていくのですね。何だかよく分からないけれども、実に複雑なものです。どうして、これで12拍子になるの?と思ってしまいます。中川さんが横で一緒に拍を数えているのについていくので精一杯です。それらのリズムパターンの紹介が終わると、今度は実際に、1曲、ソロの曲を演奏してくれました。藤井さんのハールモーニアムも加わりますが、このハールモーニアムはアコーディオンを横に寝かせたような楽器ですね。音色も近い感じがします。この楽器が割と単調なメロディーをひたすらに繰り返していきます。それに合わせて、バールガヴァさんのタブラーが16拍子のリズムを刻んでいきます。けれど、やはりよく分からない… ハールモーニアムのメロディを参考に何とかリズムのパターンを把握しようとしますが、やはり細かなリズムが実に複雑なのですね。ふと思ったのは、細かなところにとらわれないで、大きな単位でリズムを感じるようにしたらいいのかな、ということ。16拍子だったら、まずは16拍全体の流れを捉えるようにしてみたらいいのかな、ということです。16数えることを何度か繰り返して、ちょこっとだけ何となくリズムの感覚が分かりかけてきたかな…と思ったら、終ってしまいました。なかなか難しいものです。

 第2部は雅楽です。雅楽をこんなふうに聴くのって、とっても久しぶりなので、何かわくわくしてしまいます。以前はいずみホ−ルでやっている年に1回の雅楽の公演に行っていたものですが、これはどっちかというと武満作品とかの現代作品が取り上げられることが多かったのですね。(最近は全く行ってないので、知りませんが…)でも、今回の曲は古代から伝わるという音楽です。奈良とか平安の時代からの音楽、とっても雅びやかなものですね。第1部のインドのリズムと対比するために、割とリズム感のある曲を選んだんだそうです。最初は管弦の「迦陵頻急」。林邑八楽というインド系の音楽の1つなんだそうです。音合せの曲として「壱越調音取」を奏した後に「迦陵頻急」が始まります。極楽に棲むという迦陵頻伽の鳴き声を曲にしたということらしいですが、なかなか明るい軽快な感じの曲ですね。どこか古風な感じは確かにありますが、その雅びやかさが何かとってもたまらないです。インド系の音楽と言われてもよくは分らないのですが、割と単調なような感じでいて、それで結構、軽快な感じたっぷりなのが、インド系なのかなと勝手に思ったりします。続いての舞楽の「胡飲酒」は、要は酔っぱらいの踊りなのだとか。言われてみたら、舞人の動きはどこかユ−モラスなのかも。でも、雅楽でこういう舞いを見るのは初めてだったので、とっても新鮮な感じで見ることができました。

 第3部はいよいよ雅楽とインド音楽との合体です。この2つの全く違う音楽を同時に演奏することができるのだろうか、とちょっと不思議な感じもします。何でも、インドのリズムと雅楽のリズムとの違いというのは、例えば4拍子だったら、雅楽では4拍目から1拍目への間が長くなっていて、これが独特の間合いとなり、段々とこの間合いが短くなってきて、曲のテンポも速くなっていく、というのに対し、インドのリズムは全部きっちりと等分に分割されているものであり、テンポが変るということはない、のだそうです。これを合せようというのですから、かなり無謀な挑戦なのかもしれませんね。管弦の「陪臚」は、雅楽では早只拍子という2+4拍子。これをインドのリズムではダ−ドラ−・タ−ルという3+3の6拍子と捉えてリズムを刻んでいくのだそうです。ただ、そのまま合せたのでは段々とずれていってしまうからということで、タブラ−のバ−ルガヴァさんの側に解説の佐藤さんが座り、雅楽に合せたリズムを手で拍子をとりながら、彼に教えています。そりゃ、こうしないとずれてしまうのでしょうね。で、この曲、これも林邑八楽の1つなのだそうで、天平年間に伝わった音楽なのだとか。実際にタブラ−のリズムが入っても、あまり違和感を覚えません。タブラ−が細かなリズムを刻んでいくのですが、何と言うのでしょう、雅楽特有の間合いの中の空間の隙間を埋めていくようで、音楽がとっても密な感じになるような気がします。それは舞楽の「抜頭」でも同様です。こちらは雅楽では早夜多羅拍子という2+3拍子で、インドのリズムではジャプ・タ−ルという2+3+2+3という10拍子。この曲、何でも親の仇をうった子供の姿や、或は嫉妬に狂う女性の姿を描いたと言われる曲なのだそうで、見ていると確かにそういうふうにも聴こえてくるんです。ただ、雅楽だけだと、やはり間合いとかがあって、音がのびてしまい、どこか間ののびた感じになってしまうと思うのです。そこに、細かなリズムを刻んでいくタブラ−が入ることで、その間合いが埋められ、よりいっそう、曲の描写するものが明瞭になるような気がするのです。嫉妬とかの激しい心の動きをタブラ−がはっきりと表現しているようで、これはまさに雅楽とインド音楽とが見事に融合した音楽であったと言うことができるでしょう。バ−ルガヴァさんも慣れない間合いにリズムを合せるのも大変だったでしょうが、見事に両者の音楽は一体化していました。全く違うもの同士が結びついて、1つの新しい芸術が生れたような、そんな素晴しい演奏でした。

 こういう企画って、なかなか面白いものですね。今後もまた、何かやってくれることを期待したいものです。