らいぶらりぃ | |||||
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●日 時 | 2003年3月15日(土)19時開演 |
●会 場 | 神戸文化ホール・中ホール |
●出 演 | ヴァイオリン:久保田巧 |
ピアノ:ヴァディム・サハロフ | |
●曲 目 | ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第3番変ホ長調Op.12-3 |
フェイギン/ショスタコーヴィチ作曲バレエ「黄金時代」、「ボルト」、 「明るい小川村」にもとづくヴァイオリンとピアノのための 8曲の自由なトランスクリプション | |
第1曲:思いがけない出会い(黄金時代) | |
第2曲:踊り子ディーヴァ(黄金時代) | |
第3曲:ポルカ(黄金時代) | |
第4曲:ダンス(ボルト) | |
第5曲:バレエ・シーン(黄金時代) | |
第6曲:ワルツ(明るい小川村) | |
第7曲:ロマンス(明るい小川村) | |
第8曲:会場めぐり(黄金時代) | |
ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第9番イ長調Op.47「クロイツェル」 | |
(アンコール) | |
クライスラー/ベートーヴェンの主題によるロンディーノ |
久保田さんとサハロフさんによるこのシリ−ズも遂に最終回となってしまいました。2年半に渡って全5回のこのシリ−ズ、あっという間でしたね。最終回の最初は3番ソナタであります。この曲ってあまり演奏される機会が多くないようですが、それはこの曲が難曲であるからだとか。確かに聴いてみた感じ、難しそうだなと思います。特にピアノが大変そう。古典派らしく、1楽章なんかはヴァイオリンよりもピアノが主役なのですね。だからピアノ単独のソナタとしてもいいくらいに、ピアノがとっても技巧的に書かれているのです。これを完全に弾きこなすのって、そりゃ大変なものでしょう。その上でヴァイオリンとのバランスも考えていかないというのですから、ピアニストはそうそう弾きたがらないのでしょうね。でも、そこはサハロフさん、さすがなものです。久保田さんのヴァイオリンをしっかりと受け入れながらも、どっかりと構えて実に堂々とした演奏で聴かせてくれます。けれど、これが3楽章になると、ピアノに代わってヴァイオリンが主役になります。ロマン派っぽい雰囲気も漂させながら、ヴァイオリンが朗々と歌いあげていきます。これはもう久保田さんならではの美しさですね。ピアノとの掛け合いもこの2人ならではの緊迫感に満ちていて、聴き応えがあります。でも、2楽章はもっと素敵なんです。とっても静かな感じの曲ですが、情緒溢れる主題を切々と歌いあげられたら、もうたまらないです。この3番ソナタって聴いたことがなかったんですが、こんなに美しい曲というのはあるものなのだな、ということを改めて思い知らされました。
フェイギンの曲というのは、つまりはショスタコーヴィチのバレエ曲から題材を取り、アレンジしたものなのだそうです。だから、音楽自体はとってもショスタコぶっています。と言うか、ショスタコーヴィチの曲そのものと言うてもいいのでしょう。どこか狂ったような(という表現でいいのだろうか…?)調子のヴァイオリンの音色がたまりません。実に様々な音色を次から次へと繰り出してきながら、ヴァイオリンは強烈な印象のテーマを歌い上げていきます。それに加えて、ピアノが更に強烈なインパクトを持ったリズムをがんがんと刻んでいく、この音の世界はとっても…素敵。特に印象的なのは「ポルカ」や「ダンス」に「バレエ・シーン」。曲のタイトルからしたら、何か明るい感じの楽しそうなイメージがしますが、しかし実際は、とってもグロテスクで不気味な感じたっぷりの曲なのです。それは、まるで悪魔か何かに憑かれたかのような雰囲気で、聴く者に息をつく間を与えません。久保田さんとサハロフさんの演奏ですから、それが更に増幅されて私達を圧倒してきます。きんきんと鳴るような高音もたくさん出てくるのですが、これも久保田さんならではのクリアな音が冴え渡り、聴き応えはたっぷりです。こんなにも胸の苦しくなるような音楽はそうそうないでしょう。だからこそ、「明るい小川村」からの「ワルツ」など、もの哀しさに満ちてはいるのげすが、割とまともな(?)感じで、ほっとします。「ロマンス」もそうですね。最後は「会場めぐり」で再び勢いがついて、その勢いのまま終わります。
シリーズ全体を通じての最後を飾るのは、やはり「クロイツェル」。これは2年半前の初回の時にも演奏しているのですね。シリーズの最初と最後にこの大曲を持ってきて、その間の成長を聴いてほしいとのことですが、確かにより成熟したような感じはします。初回の時はやや荒削りな感じもしながら、初回ということからくる緊張感というものがみなぎっていたように思うのです。でも、今回の演奏では、どこか余裕があるようで、もちろん、緊迫感は変わりませんが、それでもゆとりを感じさせる堂々とした雰囲気が漂っていたように思うのです。丁々発止の掛け合いもまた、初回の時と同様、素晴らしいものです。でも、十分に熟れた味わいというものがそこにあったように思うのです。これこそがこの2人の歩んでこられた道の境地なのかもしれませんね。疾風怒濤の時代を生き抜いたベートーヴェンの音楽の持つ迫力と魅力とを、完全に自分達のものとされて自分達の音楽を見事に表現しているお姿がそこにあったと思うのです。久保田さんご自身、最後に「この2年半の企画は私にとりましても大変重要な意義のあるものでした」というようなことを仰っていましたが、その通り、実に充実したシリーズだった思います。
こんなに充実した素敵な企画が終わってしまったのは、何か悲しい気もします。ぜひ、次にもこのような企画をしてほしいものです。公立の文化ホールでの企画だからこそ、また意義があったような気もするのですね。とかくハコだけで中身がないと言われがちな公立のホールですが、少しでも市民の関心を集めるようなこのような企画をするということも或いは大切なことなのではないでしょうか。だからこそ、次回に期待したいと思うのでした…