らいぶらりぃ
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第195回神戸学院大学GreenFestival

仲道郁代ピアノリサイタル

●日 時2003年6月14日(土)15時開演
●会 場神戸学院大学メモリアルホール
●出 演ピアノ:仲道郁代
●曲 目ベートーヴェン/ピアノソナタ第14番嬰ハ短調Op.27-2
シューマン/幻想小曲集Op.12
シューベルト/即興曲変ホ長調D.899-2
リスト/愛の夢第3番変イ長調
    メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」
ショパン/ワルツ第6番変ニ長調Op.64-1
     ワルツ第7番嬰ハ短調Op.64-2
     ポロネーズ第6番変イ長調Op.53「英雄」
(アンコール)
ショパン/ノクターン第20番遺作
     バラード第1番
エルガー/愛の挨拶

 今季のGreenFestival、5月末の岩井美子さんのリサイタルにも来たかったのですが(応募ハガキは当選してたのです)、どうしても外せない用事が入ってしまったため、泣く泣く断念したのですね。だから、今回は仲道さんということもあり、雨が降ろうが何しようがという思いで行ってきました。

 最初は「月光」。そう言えば、前にここでベートーヴェンのソナタ全曲連続演奏をしてはった時にも聴いたことがあったっけ、と思いながら聴いてました。1楽章は割と速めなテンポで、情緒たっぷりに、とてもロマン的に弾いてはります。2楽章もソフトなタッチで子守唄のような感じ。3楽章で打って変わって力強いタッチで、ぐいぐいと音楽を引っ張っていきます。こういう引きわけをごく自然な形でできるのが仲道さんの素敵なところですよね。優しさと力強さとを兼ね備えていて、巧みに弾き分けていく、仲道節のベートーヴェンはこれだ!という演奏でした。彼女自身も、現在はさいたま芸術劇場の方で同様のベートーヴェンの全曲演奏に取り組んではり、また、レコーディングの方も手掛けられているとか。ベートーヴェンに対する思い入れもひときわなのでありましょう。最初から、かなり気合の入った演奏だったのでした。

 シューマンやシューベルトはいかにもロマン派という感じの情緒あふれる曲ですね。特にシューベルトの即興曲など優しさに満ち満ちていて、とても愛情あふれる演奏でした。そして、リスト。「愛の夢」はともかく、「メフィスト・ワルツ」の何とも壮絶なこと。体中のパワーをピアノに叩きつけるかのような激しさをもって、このメフィストに挑んでいくのですね。超絶的な技巧もさることながら、まるで悪魔が跳躍しているかのような独特の世界がありますよね、この曲って。それを体当たりで敢然と表現しつくしていこうという姿勢が見えて、これはとても感動もんです。私、この曲って、かつて高校生(だったか中学生だったか)の頃にNHKのTVで放送していた、中村紘子さんのピアノ講座で初めて聴いたのですが、その時に、何てすごい曲なんだと心底ぶるっとするような感動を覚えたのです。今回の仲道さんの演奏はその時の感動を思い出させるほどの、いやそれ以上の感動を味わわせてくれます。このメフィストが聴けただけでも、今回の演奏会は大いに価値があるというものです。

 でも、仲道さんはこれだけじゃ終わりません。最後のショパンはほとんどアンコール的な感じで聴いていたんです。ワルツの6番にしても7番にしても、割と楽な感じで弾いてはりましたし。でも、「英雄」はさすがなものです。これだけ弾いてきたんだから、さぞやお疲れもあるだろうと思うのですね。だけど、そういったことを全く感じさせない正確で力強いタッチで「英雄」を弾きあげていくのです。すごいものです。そして、ほんまのアンコール、「戦場のピアニスト」に因んで、ということでノクターンが弾かれます。しっとりとした感傷にひたり、これで終わりかと思いきや、「『戦場のピアニスト』ついでに、クライマックスのシーンで弾かれるバラード1番を弾いてもいいでしょうか?」。って、もちろんいいに決まっているじゃないですか、それよりもアンコールにこんな大曲を持ってくるか、普通?と疑問に思うのと同時に、弾く側の体力はもつんかいな、ってこっちが心配してしまいます。でも、全然疲れていないかのように、アンコールとは思えないほどの十分な気合で弾いてはるのですね。いやいや、すごいものです。最後の最後はエルガーでチャーミングに終わり、私達の気持ちもすっかり和ませられるのでした。

 それにしても、今回の仲道さんはいつも以上に熱がこもっていたように思います。気分ものっていたのかもしれませんね。バラ1のアンコールはごっつい印象深いものでした。ところで、ここでお知らせです。来年からは、何と、ベートーヴェンのピアノコンチェルトを全て演奏するというシリーズが始まるのだとか。それも5曲のコンチェルトに加えて、ボン時代のベートーヴェンが書いたというコンチェルトに、ベートーヴェン自身が編曲したというヴァイオリンコンチェルトのピアノ版も合せて、合計7曲。これを3回に分けて演奏するのだそうです。オケはドイツ音楽の巨匠、ゲルハルト・ボッセ指揮の神戸市室内合奏団。初回は2004年7月10日。今から楽しみです。(応募ハガキが当たりますように。)