らいぶらりぃ
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音楽の未来への旅シリーズ'97

第2日<合唱篇>〜柴田南雄「人間について」

●日 時1997年7月27日(日)14時開演
●会 場いずみホール
●出 演指揮・演出:田中信昭
副指揮:西岡茂樹
特別編成による柴田南雄「人間について」合唱団
 新しい合唱音楽研究会/合唱団「うたおに」/豊中混声合唱団
 混声合唱団ローレル・エコー/ヴォア・セレステ
 関西大学グリークラブ/大阪・相原市少年少女合唱団/多治見少年少女合唱団
テノール:森一夫
バス:村本和修
石笛:上杉紅童
篠笛:藤井恭恵
尺八:関一郎
舞台監督:中村真理
照明:古賀満平
●曲 目柴田南雄/「人間について」(構成=柴田純子)
第1部 歌垣
 第1章 「常陸国風土記」より
 第2章 a「ホザシ」
     b「うるはしと」
     c「むかつをに」
     d「もの思はず」
     e「つくはねの」
 第3章 a 雅歌 第2章10〜13
     b 雅歌 第2章16〜17
     c 雅歌 第7章11〜17
     d 雅歌 結びのうた
第2部 生の種々相〜コラージュ〜
 「布瑠部由良由良」/「風」/「春たつと」/「三重五章」/
 「深山祖谷山」/「北越戯譜」/「なにわ歳時記」/「萬歳流し」/
 「追分節考」/「念仏踊り」/「わが出雲・はかた」/「歌物語」
<レクイエム>
 「無限曠野」より「大白道」
 「北越戯譜」より「大の坂」
 「ゆく河の流れは絶えずして」
第3部 人間と死
 プロローグ 「人生の短さについて」
 第1章 A 「マルテの手記」より
     B 「青森挽歌」より
     C 「ソレアの唄」
 第2章 IA「Dies irae」
     IB「父の死を悼む歌」
      IIA声明と「理趣経」
      IIB「梁塵秘抄口伝集巻第十」より
 第3章 「幽冥礼讃」より


 昨年2月に亡くなった柴田南雄の遺作というべき、「人間について」の、2回目の 演奏会です。(1回目は、昨年のサントリー音楽財団のコンサート)

 曲は、3つの部に分かれています。最初は「歌垣」。第1章は、山(富士山及び筑 波山)と、祖神とのやりとりを、男声と女声とのかけ合いで表わしています。男声の ごっつい太い響きがいいですね。バスがこんだけ響くのって、最近、あまり聴かない から…(^^;)

 そして、聴きどころ(見どころ)は、第2章。「ホザシ」から始まる、歌垣の本体 の部分ですね。女声がぱらぱらと男声の前へ出て行き、恋の歌を歌い始めると、男声 もそれに応えて、前に出て来て歌い出し、はい、これでひとつカップルの出来上り。 そうこうしているうちに、舞台の上、カップルだらけになって、あちこちから恋の歌 が聴こえてきます。歌ってる人たちの表情がまた、とっても幸せそうな感じだから、 また、何とも…(*^^*)

 第3章は、旧約聖書の雅歌。これはきちんとした(?)ハーモニーの曲。女声も声 にハリあって、なかなかよかったのですが、男声の響きのよさに、今日は感心しまし た。先に書いたように、バスはよく響いてきますし、テナーがまた、きれいに上から かぶせてくる声で、とっても聴きやすかったです。田中先生の指導のおかげ、なんで しょうか。(もともと、それだけの力を皆さん、持ってはったんかもしれませんが …)今日のメンバーの中に、知り合いがいて、彼に聞いたら、一人一人、歌わされ た、とか言うてましたもんね。やっぱり、それだけ練習されているのですね。

 全体を通じての一番の聴きどころ(見どころ)は、第2部でしょう。第1部の「歌 垣」と第3部の「人間と死」は、それぞれ、独立した作品として演奏されることもあ るのですが、第2部の「生の種々相」は、3曲まとめて「人間について」として演奏 される時だけ、指揮者が、柴田作品の中から取り上げる曲を決めて、構成される、コ ラージュなのです。今回は15の作品を取り上げていたようです。

 最初はステージにひとつの合唱団があがってきて、「布瑠部由良由良」を歌い始 め、その途中から、舞台上手寄りにもうひとつ、合唱団が。「風」歌い出します。う 〜ん、この曲はいつ聴いても耳になじみやすいきれいな作品ですよね。で、また途中 で、最初の合唱団がハケて、別の合唱団が入ってきます。歌い出すのは、「春たつ と」。この曲も好きな曲のひとつなので、嬉しくなってきますね。「三重五章」、 「深山祖谷山」と、同じように進んで来て、そして、いきなりわぁぁっと出て来る子 供たち。舞台いっぱいに、一部は客席の方にも降りてきて、羽根付きやけまり、かご めかごめなどをして、一気に雰囲気はどこかの幼稚園か何かのよう。それまで歌って いた大人たちも、一緒になって、遊んでるし、何か楽しそう。そして、場を盛り上げ るように登場してくるのが、「萬歳流し」の2人組。「あ、そんだそんだ」(で、 あってたっけ?)っていうかけ声を、男声陣が一緒になって言ったり、子供たちが、 抱えてはる小鼓をぽぉん!と横から叩いたりして、ほんとにすっかり、打ち解けて、 お祭り気分ですね。やがて、萬歳さんが舞台から客席へ降りて行き、他の人たちも客 席へ。一気に会場いっぱいが歌声に包まれていきます。あちらこちらからいろんな歌 が聴こえてきます。おぉ、「追分節考」が後ろの方から聴こえてくるぅ! 舞台上で は、田中先生が、出ました!、番号付きのうちわの舞い、じゃない、指揮。会場中を しっかと見ながら、次から次へと、うちわで指示を出してはります。聴く側にしてみ ると、次は何?てなもんで、何やらよう分からんままにも、曲は進んでいくのでし た。やがて、「念仏踊」の辺りから、集束してくるような感じになって、そして、舞 台にはまたひとつの男声合唱団(関大グリーかしら)。「無限曠野」が始まります。 続いて、その横から今度は少年少女合唱団(多治見の合唱団かしら)が入ってきて、 「北越戯譜」。この辺は、もう最後の方で、「レクイエム」と作曲者が指示している 部分なのですね。男声が上手下手から入ってきて、「ゆく河の流れは絶えずして」。 力強い部分が終わると、男声はまた客席へ。女声も続いて行き、先程からずっと客席 の間を回っていた女声陣とともに、会場を回り、やがて、外へ。田中先生も舞台に 残った女声陣と共に下手へハケていき、会場はまっ暗の中、静まりかえります。人間 の様々な生きざまを柴田作品を通じて表現していきながら、最後は、第3部のテーマ である「死」へと向かう、柴田さんの世界を十分に堪能したような気分になりまし た。(まだ第3部もあるのにぃ…)

そして、第3部。「死」というものと正面から向かい合うことになります。少年少 女合唱団も交えて、ほぼ全員が舞台に上がってきて、第1章は「マルテの手記」、 「宮澤賢治の青森挽歌」、そして「ソレアの唄」と順に演奏されていきます。特に 「ソレアの唄」の内容の悲痛な叫び!「やめろ、おれを刺すな、やめろ!」という叫 び声は、最近の何かと騒がしい世情からも、とっても訴えてかけてくるものがあった ように思いました。

 第2章は、舞台上手側の2F席に陣取った男声の声明から始まります。何やら厳か な雰囲気に浸ってくると、舞台の後ろの方に並んでいる少年少女合唱団が、「Dies irae」を声明の上にのっかって、歌い出します。東洋と西洋の宗教の域を超えて、人 間の死というものに向かおうという姿勢が感じられます。舞台下手側の2F席に陣 取っている女声陣も歌い出し、その世界がより広くなっていきます。聴く側も何か、 背筋をぴんとはって聴いてないといけないような、気持ちになりますね。

 そして、第3章、曲全体の締めでもあります、「幽冥礼讃」。全員そろっての奇麗 なハーモニー感のある曲です。今までの曲も全部、そうですが、言葉を、皆さん、 しっかりとしゃべってはりますね。歌詞カードを見なくても、何を言うてはるのか、 はっきり分かります。言葉を聞いていると、人間の存在って何なのだろう、というよ うなこを考えさせられますね。う〜む、奥の深い音楽ですな。最後、男声陣がまた、 客席へ降りて来ます。そして、客席をぐるりと囲むように壁に沿って並んで、舞台上 の女声陣と、ひとつの輪になって、最後の言葉を歌います。「まもなくわたしは知る だろう。わたしが誰であるのかを。」 照明も暗くなって、より効果的に私たちに訴 えかけてきていました。しんみりとした気持ちになり、何か、すぐには拍手をする気 になりませんでした…

 宗教とか、哲学とか、難しいこと言わなくても、音楽で、これだけ奥深いことを表 現でき、訴えることができるのだなぁということを、改めて感じたのでありました。