らいぶらりぃ
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日本の響きシリーズ 雅楽・彩々

●日 時1997年8月22日(金)19時開演
●会 場いずみホール
●出 演芝祐靖(音楽監督・横笛)/玲楽舎
●曲 目芝祐靖/春日ニ題
石井眞木/飛天生動I
一柳慧/星の輪
古典雅楽曲/平調調子・甘州・陪櫨
武満徹/秋庭歌


 約3週間ほど、演奏会まわりも夏休みをいただきましたが、これから、今年の後半 戦が始まります。その最初は、雅楽!であります。

 だいたい、雅楽なんて普段聴かないようなものですが、ところがどうして、現代作 曲家の先生方も、いわゆる「現代雅楽」の曲をたくさん書いてはるじゃないですか。 それに、それらの作品は、聴いていて、どこか、懐かしさみたいなものを覚えさせて くれるのです。やはり、どんんなに文明が進んでも、日本人の心というのは、根本的 な部分では変わらずに、伝統的なものを失わないでいるのかなぁ、ということを感じ た演奏会でもありました。

 最初は、「春日ニ題」。2曲あるうちの1曲目は、奈良の春日山の朝の風景を描い た曲。笙が不思議な雰囲気をかもしだしてきて、そこに筝や琵琶が入り、朝霧がたち こめるような絵を描きます。あくまでも静かな、幻想的な風景を、篳篥も加わって、 描いていく、美しい曲でした。2曲目は、興福寺の仏像を描いた曲。慈悲深い釈迦如 来さま、その風情が感じられた…かな。(ちょっと、うとうとしてしまってたんです …)

 「飛天生動I」は、聴いた中で、一番、気に入った曲です。「飛天」は、例の、中 国・敦煌の莫高窟の壁画に描かれている、天使さまです。キリスト教で言えば、エン ゼルですね。昔、NHKの「シルクロード」で見た、あるいは、昨年、「エルミター ジュ美術館展」で見てきた、石窟の中の仏像や、その周りの壁画などを思い出しなが ら聴いていると、その実に躍動的な飛天たちの様が、見事に音空間に再現されてい る、と思いました。龍笛や篳篥の、自由自在に流れるような旋律が、天を舞う飛天た ち、そのものであったと思います。

 「星の輪」は、笙のソロの曲です。天に輝く星の光を、描いた曲ですが、これは、 とにかく、笙という楽器の持つ、表現力の素晴らしさを思い知らされた感じがしま す。複数の音を同時に鳴らすことのできる、この楽器ならではの響きというものがあ りますよね。それに、細い音から太い音まで、巧みに演奏し分けることができるもの なんですね。まったく関係ないのですが、pppからfffまで、幅広く表現するこ とのできる、パイプオルガンを思わせるような(って、全然違いますが。^^;)、豊か な音色に、聴きほれました。

 後半は、古典雅楽です。舞台には、緑色の敷物が。その上、センターに太鼓、上手 寄りに鞨鼓、下手寄りに鉦鼓が配置されています。おぉ、これは、昔、教科書に載っ ていた雅楽の舞台そのものだぁ、と思っていると、ソデから静々と雅かな衣装を着け た、舎人達が入ってきます。その雅やかさに、もう、気分はすっかり、宮廷の貴族 モードです。音合せが終って始まった曲は、割と知られた曲なのだそうですが、知ら なかったですぅ… でも、特に2曲目なんか、2+4のリズムが気分よくはずむ、 とっても感じのいい曲でした。舞い、のための音楽なんですね。聴きながら思ったの は、同じようなパターンを繰り返していくねんなぁ、ということ。聴きようによって は、ワン・パターンやないか!ということにもなるのかもしれませんが、でも、パ ターンの繰り返しによる美というものもありますもんね。その繰り返しが、全体を一 貫したものにまとめ、統一感のある音楽に仕上げている、というように感じました。 考えてみたら、西洋でも中世の頃の音楽は、モノフォニックな動きの繰り返しから成 り立っているのでしたね。その辺は、やはり、東も西も、一緒なのでしょうかねぇ。

 最後は今世紀最大の現代雅楽と言われる、武満さんの「秋庭歌」です。舞台中央 に、「秋庭」の演奏者達が陣取り、その周り、後ろをぐるりと囲むように、「木魂 群」(「もものけ姫」の「コダマ」ではない、念のため。^^;)の演奏者(脇役、です な。)が並ぶ、という、ちょっと変わった体型で演奏する曲です。何か、不思議な感 じのする旋律を「秋庭」の篳篥が奏し、やがて、それを「木魂群」が模倣し、複雑に からんできます。高麗笛の音色も奇麗、でした。やがて、太鼓が連打され、曲は、 「嵐」の部分を描写しているところに入ります。盆踊りのような(?)、とってもリ ズミックな感じの曲(部分)でした。そして、最後は、紅葉を描写した部分なのだそ うです。確かに、聴いていると、紅葉の美しい色彩や、紅葉がはらはらと舞う様が目 の前に浮かんでくるような、雅やかな雰囲気があって、何か、いいなぁ、と思いなが ら聴いてました。

 やっぱり、日本人ですから、こういう曲も聴かなくては、と思うのでありました。