らいぶらりぃ
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レ・ミゼラブル

●日 時1997年12月8日(月)18時15分開演
●会 場劇場「飛天」
●出 演ジャン・バルジャン:滝田栄
ジャベール:川崎麻世
コゼット:早見優
マリウス:石川禅
エポニーヌ:島田歌穂
アンジョルラス:岡幸二郎
ファンティーヌ:鈴木ほのか
テナルディエ:山形ユキオ
テナルディエの妻:夏木マリ
  制作:東宝株式会社
 潤色・演出:ジョン・ケアード/トレバー・ナン
 指揮:佐藤和男
●演 目レ・ミゼラブル
 作:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク
 音楽:クロード=ミッシェル・シェーンベルク
 作詞:ハーバート・クレッマー
 原作:ヴィクトル・ユゴー


 え、コンサートちゃうやん、と言われそうですが、ミュージカルであります。日本 初演10周年記念の今年、ようやっと初めて「レ・ミゼラブル」を見に行くことがで きました。初演の頃は、まだ私も実家(千葉県)の方にいて、帝劇で公演していると 知り、行きたぁい!と思っていたのですが、受験勉強のために行くことができずにい たのでした… その後も、大阪にも何回か来ているのは知ってはいたのですが、なか なか行くことができずにおっただけに、今回、行くことができたのは、とっても嬉し かった…(^o^)

 話の筋は改めて書くまでもないと思いますが、私がヴィクトル・ユゴーの原作を読 んだのは、高校生の時。詳しいところまでの話の筋を忘れていた部分もあって、まず はプログラムの解説の部分を読むことから始めました。(^^; ふ〜む、そういやぁ、 そんな話だったなぁと思い出していると、開演です。

 で、こういう劇場にあまり行き慣れてないこともあるのですが、ここの舞台って、 まん中の円形部分が、ぐるりと回るようになっているのですね。円盤の上の、前面の 部分で、演技が展開され、後ろになっている部分で、次のセッティングをして、ひと つの場が終わると、ぐるりと回してきて、次の場が登場する、というふうになってい るんですね。なるほどぉ、こんな風にしていくんだぁ、と感心してしまった。(^^;  おかげで、いい感じのテンポで、舞台が展開していくのでした。

<第1幕>
 滝田さんが扮するバルジャン、さすが、初演の時からずっとやってはるだけに、貫 禄がありますね。「料理バンザイ!」のイメージなんかで見ていたら、いけません ね。(^^; プロローグが終わると、物語の本筋へと入っていきます。失業者たちがた むろしているところとか、娼婦たちがたむろしているところなんか、なかなか猥雑な 感じがよく出ていて、いいなぁと思います。そして、前半のヒロインとも言うべき、 ファンティーヌ、鈴木ほのかさんが演じてはりましたが、いいですね。演技はもちろ んですが、歌唱の方も、なかなか素敵でした。切々と歌う「I Dreamed a Dream」は、 実に説得力がありました。声にハリがあるから、とても素晴らしかった。その境遇を 思い、そこにこめられている想いというものを思うと、涙なしでは、聴けませんね。 しっとりとしていると、おぉ、ジャベールの登場ですね。川崎麻世さん、アイドル時 代から何年たったのかしら…なんてことはおいといて、彼にしてみれば、ちょっと年 上の役になるのでしょうか。でも、実にぴしっとしていて、見事にキメていたと思い ます。すらっとしてはるから、こういう役も似合うのかもしれませんね。バルジャン の正体を疑う彼と、法廷でついに告白するバルジャン、2人の戦いが始まります。そ う、これがこの話全体の大きな筋なんですよね。原作でも、これが本筋なんだよな、 と思いながらも、何かあちこちに話が飛んだりしていて、内容が分かりにくいぞぉ、 と思ったことを思い出します。

 ファンティーヌが息をひきとると、場は変わり、テナルディエ夫婦の宿屋が現れて きます。山形ユキオさんと夏木マリさんが、いい味を出してますね。(斉藤晴彦さん や森公美子さんでも見てみたかった…)欲望まる出しの、イジワルな感じの夫婦とい うのが、よく表れています。おお、可愛そうなリトル・コゼット… あどけなさの残 る、この子の歌う「Little Cosette」がまた、泣かせます。辛くても、泣くんじゃな いのよ、とまるで、キャンディ・キャンディのような…(←オイオイ…)そこへバル ジャンが現れ、彼女を引き取っていくのですね。何でも、今回初めて、ここでバル ジャンとリトル・コゼットが初めて出会うシーンというのが、付け加えられたそうで すが、(音楽的にも)特に違和感はありませんでしたね。引き取ったのちに、2人で 踊る、その様は、ほほえましくもあり、また涙が出てくるのでした…(こればっかり …)

 「10年後」と字幕が出た後、舞台はパリへ。学生運動の真っ最中というところ で、再び、バルジャンと出会うジャベール、彼を逃がしておいて歌う「星よ」、素敵 ですね。この、時に冷酷なまでに正義感溢れる警部という役柄、川崎さんにも案外と 似合う役なのかもしれませんね。…と、いきなり思い出すのが、「トスカ」のスカル ピア。(何でやねん!?)ちょっと違うかもしれないけれど、でも、ハンサムで、 クールで、冷酷で、って、この2人、何か、似てません? 「星よ」も何となく、そ の内容が、「行け、トスカ」に似てるような… ということは、この前のスロヴァキ ア国立歌劇場の「トスカ」でも歌っていたミルンズさんなんかでも、ジャベールの 役って、似合うのかな… という余計なことはおいといて。(^^; コゼットとマリウ スの出合いがあり、エポニーヌも含めた三角関係というものが展開していきます。コ ゼットは早見優さん。さすが、元アイドル歌手ですね、「Rue Plumet」も素敵でし た。さすがに高い音は苦しそうでもありましたが、ヴォイス・チェンジをうまく使っ てはりました。それに、さすが元ネイティヴですね。子音がはっきりと聴こえてくる のが、いいですね。「コゼット」という単語にしても、他の歌い手さんが歌うと、 「コゼット」の「ト」の音が聴こえないんですね。「コゼッ」までしか聴こえないわ けで、「ト」がほとんど、というか全く聴こえないんです。ところが、早見さんだ と、これがしっかりと、「ト」の「t」の子音が聴こえてくるんです。でも、案外 と、日本語の歌でも、時にこうやって子音を立てて歌うということも、言葉をはっき りとしゃべる、という意味では有効な手段なんではないでしょうか… (ちなみにコ ゼットの役はもう一人、純名里沙も演じられるのです。彼女も聴きたかったな…)恋 に燃えるマリウスとコゼット、それを見るだけのエポニーヌ、ジャベールから逃れる ために外国へ逃げようと考えるバルジャン、決起しようと意気込む学生たち、金儲け のことばかり考えているテナルディエ夫婦等、全員が、「One Day More」を、めいめ いばらばらの言葉で歌いあげると、第1幕は終わるのでした。ふう、長かった…(^^;

<第2幕>
 第2幕はどどぉ〜んとバリケードが築かれているところから始まります。と、すぐ に一番の聴きどころ、エポニーヌのアリアが始まります。「On My Own」、もちろん、 歌うのは、初演の時からずっとこの役を演じ続けている島田歌穂さん。ひとりでいる ことのさびしさを切々と歌い上げるこの曲はほんと、素敵ですね。それを実にしっと りと、言葉もはっきりとしゃべるながら歌う島田さんも素敵ですよね。彼女はもう、 世界的にも、押しも押されぬエポニーヌ役、と言ってもいいのでしょうね。 そして 彼女は、銃砲を受けながらもバリケードへ帰ってきて、マリウスの腕の中で息絶えま す。うぅ、また涙が出てくる… やがて、激しい市街戦が繰り広げられます。次々と 死んでいく若者たち… リーダーのアンジョルラスも、可愛いガブローシュも、皆、 死んでしまいます。この辺りは、ほんと、涙なしでは見ていられません。(;_;)

 何とか助かったバルジャンは、まだ息のあるマリウスを抱えて下水道管へと逃げ込 みます。と、そこへ、ジャベール。ここで会ったが100年目、ってなとこですが、 バルジャンに説得されて、結局、彼を逃がしてしまうんですね。自らの正義が崩れた ことに、絶望し、川に身投げして自殺してしまいます。このシーンがまた、素晴らし いですね。川の中でもだえる姿を、ありありと演技してはります。ワイヤーか何かで 体を吊っているのかな… やがて、真っ暗になって、ジャベールは暗闇の中へと沈ん でいくのでした。と、ここで、バルジャンVSジャベールの物語は終わり。

 後は、コゼットとマリウスが結ばれていくお話。結婚式に登場するテナルディエの 狡獪さが、またいいですね。やがて、死の床についているバルジャンの元へ向い、2 人に見守られながら、息を引きとっていくバルジャン、ここでまた、全ての出演者が 出てきて、彼を囲んでの合唱。思わず、この前の「金閣寺」の最後の方のシーンを思 い出したりしながら(^^;、じぃ〜んと感動が込み上げてきます。素晴らしい舞台でし たぁ。

 音楽的なことになりますが、全体を通じて、よぉ〜く聴いていると、同じテーマを 何回も繰り返して使用していることに気付きます。例の「On My Own」のテーマにして も、1幕の最初の方から、何度も出てくるんですね。バルジャンもこのテーマにのせ て歌うところがあったし、おぉ、これは… と思ってしまった。(^^; でも、このこ とが、このミュージカル全体を見事にひとつにまとめあげているのだと思います。美 しいテーマを、主だったところに繰り返し配置することにより、全体がばらばらにな ることなく、ひとつの通ったストーリーの展開を、音楽的にも表している… これ は、作曲家のシェーンベルクさん(例の12音音階のシェーンベルクの弟のお孫さん なんですね)の見事な技量というものでしょう。そして、そういう音楽構成であると いうことと、物語の壮大さとから見ると、これは立派なオペラにもなりうるのではな いかと、思います。バルジャンはドヴォルスキーさんで、ジャベールはミルンズさん で…なんて、勝手なことを考えたりして。(^^;ゞ 誰か、そんなことしてくれないか な。(^^;)\(--;)バキ

 ま、たまには、ミュージカルもいいもんだ、と改めて思った、公演でした。