らいぶらりぃ
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ヘルマン・プライ〜シューベルトの夕べ

●日 時1997年12月12日(金)19時開演
●会 場シンフォニーホール
●出 演バリトン:ヘルマン・プライ
岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
●曲 目シューベルト(鈴木行一編曲)/歌曲集「冬の旅」D.911


 「冬の旅」のオーケストラ版!であります。しかも、バリトンはプライさん! お 客さんも結構、入っていましたねぇ。(補助席も出ていた…)

 で、その演奏の方ですが、これがなかなか… 演奏自体はそれほど、悪くもないと は思うですが、オケ編曲の方が、ちょっと気になったりしました。特に悪いというこ ともないのですが、かといって、素晴らしいとも言えないなぁ、という感じで、何か が違うような気がするのです。そりゃ、普段はピアノ伴奏でしか聴きませんから、違 和感があるのは当然なのでしょうけど、けど、何だかなぁ…

 例えば、「おやすみ」の冒頭、ピアノだと右手に主題が現れますが、これをObに 吹かせているんですね。そのObの音色が、この曲の雰囲気とどれだけ合っているか なぁ、と考えてしまいました。言わば、訣別した想いみたいなものが込められている 曲でしょう。それのテーマをいきなり、Obで、言っちゃ何ですが、のぺ〜っとした 感じで吹かれると、ちょっと…という感じはします。「菩提樹」にしても、あのピア ノって、菩提樹の枝葉がさわさわと鳴る様を表しているのだと思っているのですが、 そういう観点からすると、あのオケ伴は、ちょっとそういう風には聴こえなかったか な… その他、何故、こんなところでTuttiになるの?と言いたくなるようなと ころもあったりはしました。けど、もちろん、そんな欠点ばかりというわけでもな く、例えば「春の夢」のテーマ、これをFlに吹かせているのですが、こういった辺 りの楽器の扱いはいいなぁ、と思います。まさに春らしい軽やかさがよく出ていたと 思います。

 と、オケの方のことばかり書きましたが、肝心のプライさんの方はと言うと、これ は、もう、おぉ!と感動しっぱなしでした。淡々としながらも、シューベルトのこの 曲の世界をよく再現してはったと思います。高い方の音なんかで、ひょっとして音程 が…? というようなところもあったように思うのですが、けれど楽譜上だけのこと でなく、そこに込められている精神的なことをも考えて、それでこぶし(?)をつけ るということは、音楽表現上、有効なことでありましょう。語るところと、たっぷり と歌うところ、叫ぶところと泣くところ、等の表情がはっきりとしていて、「冬の 旅」という、ひとつの物語、ドラマを見ているかのようでもありました。

 しっかし、客席の咳の多さにはちょっと閉口してしまいました。曲間に拍手はしな いよう、その旨、アナウンスが事前にあったからよかったのですが、その代わりに咳 があちこちで。ひどい人なんか、演奏中にも大っきな咳をしていたし… よく見てい ると、岩城さんの指揮って曲間でも完全に下に降りてないんですよね。つまり、音楽 は曲間でもずっと続いているというわけで、そんなこともお客さにも考えてほしかっ たな…(なかなか難しいことなのかもしれませんが。)