らいぶらりぃ
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マイ・ディア・アマデウス・シリーズ

オペラ「後宮からの逃走」

●日 時1998年4月19日(日)14時開演
●会 場いずみホール
●出 演大守セリム:片桐直樹(バリトン)
コンスタンツェ:日紫喜恵美(ソプラノ)
ブロンデ:西垣千賀子(ソプラノ)
ベルモンテ:西垣俊朗(テノール)
ペドリロ:小林正夫(テノール)
オスミン:松下雅人(バス)
湯浅卓雄指揮大阪センチュリー交響楽団
関西二期会合唱団
●曲 目モーツァルト/オペラ「後宮からの逃走」K.384

 「後宮からの逃走」での一番の聴かせどころといえば、やはりコンスタンツェのア リア。今回は日紫喜恵美さんがこのコロラトゥーラに挑みます。先日の神戸新聞(4 /2(木)夕刊)にちょうど、日紫喜さんの記事が載っていて、このことにも触れら れていました。「”一期一会”という言葉があるけど、舞台や共演者などに影響され る私の歌は”一期一声”とでも言うか、一生に一度きりのもの。同じ歌を繰り返す ことはできない。いずみホールが持つ空間の力を借りて、今度の公演を最高のものい したい」と新聞紙上で仰っていたのですが、さて、まさにそのとおりの最高の公演 だったと思います。

 大守セリムに愛を迫られて歌う、最初のアリア「私は恋をし、幸せでした」の悲し さに満ちた表情、さらに1幕の最後に歌われる「あらゆる拷問が」の中に込められて いる悲しみや怒りを乗り越えた決意の表れ、どれも、決して技術だけでは表現しきれ ないものだと思うのですが、見事にコンスタンツェの役を演じきっていたと思いま す。特にその2曲目の方は、ホールいっぱいにその澄んだ声が響き渡ると、そこに込 められた気持ちというものがホール中に浸透していくような感じさえしました。素晴 らしい演唱でした。

 ところで、ブロンデの役には西垣千賀子さん。西垣さんと日紫喜さんのキャラク ターからすると、むしろ、逆に、日紫喜さんがブロンデ、西垣さんがコンスタンツェ かなという気もしないでもないのですが…(^^;) オスミンとのやり取りはなかなか 聴き応えがありましたねぇ。そそ、そのオスミンがやはり、一番強烈に印象に残りま すね。松下さんの太いバスの声が、何ともたまりませんね。最初の登場からして、い かにも悪人という、怪しい雰囲気を十分に出していたと思います。女の尻を追っかけ たり、酒に酔っぱらったり、逃走の計画を寸でのところで阻止し、ぬか喜びになると も知らずに喜んだり、何かユーモラスな存在なわけですが、この役を松下さんもま た、見事に演じきっていたと思います。とにかく表情が豊かですから、見ていても、 十分、楽しいですね。千賀子さんとのやり取りのところなんかも、なかなか面白かっ たですねぇ。

 また、ベルモンテには西垣俊朗さん。相変わらず、綺麗な声をしてはりますね。特 に後半、再会の場面で歌われる「喜びの涙を流すとき」なんか、ほんまに喜びの表情 に満ちていて、よかったですねぇ。コンスタンツェとしっかと抱き合うベルモンテ、 その後ろで千賀子さんのブロンデが見守っているのが、妙に気になってしまったよう な…(^^;)

 そうそう、大守セリムには片桐さんだったのですが、これがまた、何とも言えない 味を出していました。台詞だけの役なのですが、台詞を読むというよりは、何か朗読 をしてはるかのように聴こえるのです。棒読みされるのに比べればいいと思うのです が、人によっては、わざとらしいというふうに聴く人もいるのでしょうね…

 …と歌手の皆さんのことを、思い付くままに書いてみましたが、この日は演奏会形 式。でも、ちょうど、オルガンの部分を宮殿に見立てて、オルガンの上(というか、 鍵盤のあるとこ)と、その下(舞台の上にひな段は出していましたが)とでストー リーが展開していくという形でした。大守セリムは下手側の2階桟敷席の一番前(オ ルガンのすぐそば)の所に位置し、そこでつらつらと台詞をしゃべっているというわ けです。こういう縦の空間をうまく利用しているから、演奏会形式とは言え、結構、 見ごたえもあったのではないでしょうか。なかなかきれいにまとめられた公演だった と思います。