らいぶらりぃ
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クリーヴランド管弦楽団

●日 時1998年5月19日(月)19時開演
●会 場京都コンサートホール
●出 演クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
●曲 目バルトーク/弦楽のためのディヴェルティメント
モーツァルト/交響曲第40番ト短調K.550
ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調「新世界より」
(アンコール)
チャイコフスキー/交響曲第4番より 第3楽章
ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第8番

 「完璧な機能美を誇るスーパー軍団」、チラシに書いてあった宣伝文句です。が、 これは決して誇大宣伝でなく、まさに、このオーケストラのことをずばり、言い当て ています。緻密に組み立てられたアンサンブル、一糸乱れぬ構築の美、まさに世界一 と言うにふさわしい演奏でした。また、バルトークで弦のみのアンサンブルを味わ い、モーツァルトで、弦に木管が加わったアンサンブルを、そして、「新世界」でフ ル編成を堪能させる、という選曲も、段々と編成が大きくなっていくようにできてい て、なかなか心憎い演出のようにも思います。

 さて、文句なしで上手い演奏なのは、よいのですが、逆に、そこから伝わってくる ハートというか、熱意というか、そういうものがあまり感じられないというような聴 き方もあるかと思います。何というか、各楽器とも、たっぷりと歌い上げていくとい うよりは、楽器間のバランス・構成の美を組み立てていくように演奏する、という感 じなのです。それは、例えば、「新世界」の2楽章のイングリッシュ・ホルンのテー マ、テンポ自体がちょっと速いということもあるのですが、もっとたっぷりと歌って もいいのではないかという不満に表れます。もちろん、音は安定して、たっぷりと響 いてくるから、いいのですが、それ以外の何か、なんです。この辺りは、多分、人に よって評価が分かれるのではないでしょうか…

 私の感想ですが、モーツァルトはあれくらい、端正に作られると、とても素敵だな と思います。特に、木管の音がとてもクリアに聴こえてくるのは、感動ものです。し かも、入りがぶれるというようなこともなく、すっと音が入ってくるし、まさに、1 人1人がずば抜けた技量を持っているんだと、実感しました。

 が、「新世界」はちょっとだけ欲求不満が残りました。音は確かによく響いてきて いるんです。弦にしても、とてもクリアな音が響いてきますし、ラッパ系も高らかに 鳴り響いているのです。けど、何か、それだけ、という印象がしてしまいます。どこ か小じんまりとしたような感じがするのです。この曲自体が持っている何か、熱いも ののようなものが、演奏にも出てきているのかしら…と思います。

 そこで、思い出したのが、「職人」という言葉。ドホナーニさんご自身にしても、 オケ自体にしても、まさに音楽の「職人」さんなのではないかと、思うのです。「職 人」として、かっちりと組み立てるべきものは組み立てていく、彼等は、そういう姿 勢であるのではないでしょうか。たっぷりと歌い上げることも大事だけれど、感情を 大にして表現するだけでなく、もっと理性的に、知性的に、音楽をかっちりと組み立 てる、ということに重点を置く、それが「職人」さんの「職人」さんたるゆえんなの でしょう。

 って、何か、文句を書いているように取られるかもしれませんが、全体的には、 とっても満足した演奏会でした。しっかし、神戸からでも、定時に職場を出れば、何 とか京都まで、間に合うものなのですね… そのことを実証してしまったことの方 が、我ながら、驚きです…(^^;)