らいぶらりぃ
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朝日新聞創刊120周年記念

第2回朝日名曲コンサート

●日 時1998年5月23日(土)18時開演
●会 場フェスティバルホール
●出 演トーマス・ザンデルリンク指揮大阪シンフォニカー
ソプラノ:六車智香
●曲 目プッチーニ/歌劇「ジャンニ・スキッキ」より 「私の大好きなお父様」
カタラーニ/歌劇「ラ・ワリー」より 「ふるさとの家よ」
マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より 間奏曲
ヴェルディ/歌劇「リゴレット」より 「慕わしき人の名は」
ヴェルディ/歌劇「椿姫」より 「ああ、そは彼の人か〜花から花へ」
ヴェルディ/歌劇「運命の力」より 序曲/「神よ平和を与えたまえ」
チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調Op.64

朝日新聞創刊120周年を記念しての名曲コンサートの第2回目です。今回は、関 西で、もはや中堅どころとして活躍中の六車さんを迎えてのオペラ・アリア・シリー ズです。(^^;)

 実は、3年くらい前に一度、彼女の出演する演奏会の手伝いを聴いたことがあるん です。その時までは、私も彼女のことをあまり存じ上げなかったのですが、なかなか 力のある人だなぁ、と印象を受けたのを覚えています。それが、今回、聴いてみて、 かなり成長したなぁ、ということを実感しました。最初の「ジャンニ・スキッキ」の 初めの方でこそ、ちょっとオーケストラの中に埋もれてしまいがちに聴こえたもの の、後半からすぐに巻き返してきて、豊かな声量で、ハリのある声を聴かせてくれま す。一番印象に残っているのは、やはりヴェルディものの中から、「椿姫」と「運命 の力」でしょう。高音域まで、ぴんとした声で高らかに響かせているのが、素敵で す。それに、ただ単に歌うだけでなく、情感の込め方も、いいなぁ、と思います。実 は、彼女、来月に第2子をご出産なさるそうで、体の方は大丈夫なんかとこちらが心 配してしまいます。しかも、昨年の4月にイタリア声楽コンコルソ第1位・シエナ大 賞を受賞されて、今年の秋からイタリア留学を約束されていたそうですが、出産のこ とを理由に、一方的にキャンセルされてしまった、という苦い体験もつい最近に味 わっていらっしゃるのだそうなんです。そういうショックを乗り越えられて、今回、 フェスティバルホールという広い会場でオーケストラをバックに歌うということが、 そのこと自体が、涙なしでは聞けないお話です。一番苦しいのは、彼女自身なので しょうけど、その歌声には、そういうことを全く感じさせない、力強さがあります。 そして、歌い終わった時の笑顔! そこには、ご自分の音楽を思いっきり表現しきっ たという満足感に満ちたお顔がありました。精神的にもより深みを増してきた彼女で すが、後は、あえて言えば、中音域以下をいかに響かせるか、ということが課題にな るでしょうか。今後の活躍にも期待がかかります。(^^)

 さて、後半はがらりと変わって、チャイ5です。これは、もう、ザンデルリンクさ んの腕の聴かせどころという感じで、シンフォニカーさんも、かなり熱の入った演奏 でした。シンフォニカーの音楽というものは、その若々しく力強い音に、豊かな感情 表現の力が加わっている、というところに魅力があると思うのですが、今回も、まさ にその通り、力強くも美しいチャイ5でした。弦の音のクリアさ、その上に乗ってく る木管の柔らかさ、そして金管の明瞭さ、いずれも素晴らしく、それらが巧みに織り 重なって、アンサンブルを作り出しています。特に2楽章の綺麗なこと! テンポも 微妙に揺らしながら、ダイナミクスの幅も広く、そして、たっぷりと歌う、もう、何 も言うことはなし、という状態です。見事な演奏でした。