らいぶらりぃ
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1998神戸学院大学Green Festival第131回

長谷川陽子チェロ・リサイタル
〜3大B組曲・ソナタ全曲連続演奏第3回

●日 時1998年6月20日(土)15時開演
●会 場神戸学院大学メモリアルホール
●出 演チェロ:長谷川陽子
ピアノ:野平一郎
●曲 目ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第2番ト短調Op.5-2
       /「魔笛」の主題による7つの変奏曲変ホ長調WoO.46
       /「魔笛」の主題による12の変奏曲ヘ長調Op.66
       /チェロ・ソナタ第5番二長調Op.102-2

 神戸学院大学のこの催しは、毎年、春と秋に行われています。昨年も1回だけ、大 フィルの演奏を聴きに来ました。…昨年までは、仕事の都合で、行きたくても行けな い、そんな演奏会が多かったのですが、この長谷川陽子さんのシリーズもその1つで す。「3大B組曲・ソナタ全曲連続演奏」のシリーズは、ちょうど1年前の春の公演 から始まったもので、初回は、ブラームスを、2回めの昨年秋は、ベートーヴェンの 前半を、されたのでした。どちらも、行きたかったのですが、うまい具合に仕事と重 なっていて、行けなかったのでした。(しくしく) が、今回からは違います。仕事 も代わり、土日はしっかりと休ませていただきますので、これで、もう安心、という ところです。(^^;)

 さて、今回は、ベートーヴェンの後半、ということで、ソナタが2つに、変奏曲が 2つ並んでいます。最初のソナタ2番は、ベートーヴェンが若い時に作った曲です ね。古典的な書法を使った、2楽章編成の曲ですが、そのメロディーは、ロマン派的 な響きをもう、持っているのかもしれません。陽子さんの演奏を聴いていると、その ように感じます。長ぁい序奏の後、明るい華やかな第1テーマが現われますが、これ を、実にたっぷりと歌っているんですね。朗々とした、ふくよかな響きが会場を包み 込みます。また、軽快な第2テーマの扱いも見事ですね。そして、第1テーマを展開 して、再現していくところの集中力と言ったら! いつもの如く、曲に対して真正面 から向かっていくという、陽子さんの姿勢が、はっきりと捉えられ、聴く者もその世 界に引きずり込まれていきます。第2楽章は、さらに美しい音楽。初めはピアノだけ で主題が呈示されますが、野平さんのピアノも見事なもので、陽子さんのチェロを引 き出すのにふさわしい音楽空間をそこに作り上げています。そして、陽子さんのチェ ロがその上にさらに叙情的な世界を作り上げる… 若き日のベートーヴェンのロマン ティシズムというものをも垣間見たような気さえするのでした…

 お次は、7つの変奏曲。元ネタは、モーツァルトの「魔笛」の第1幕でのパパゲー ノとパミーナとの2重唱のテーマ、「恋を知る男は」ですね。非常に端正な感じの曲 で、それに合せて、演奏の方も、とってもしとやかなものです。陽子さんがパミーナ で、野平さんがパパゲーノ、と考えると、何か、おかしいような気もするのですが (ごめんなさい)、ほんまに語らい合っているような演奏は素敵でした。余談です が、第4変奏のように、マイナーになる変奏、好きです。モーツァルトのこういう テーマって、マイナーに変調すると、ぐっと人間臭く、渋味のある音楽になると思う のですが、こう思うのって、私だけでしょうか…(^^;)

 休憩の後、陽子さんと野平さんのお2人にインタビュー、のコーナーになります。 会場のお客さんからいろいろと質問を集めて、それにお2人が答えていく、というも のです。「陽子さんは、最近、髪を短くされたようですが、何か、心境の変化でも あったのですか? 恋をなさっているんですか?」…いきなし、そんなことを(^^;)… と思いながら、答えを待っていると、「特に何もなく、普通に生活してますよ。」  え、そうなのぉ… 「で、すっぴんで歩いていると、よく高校生に間違われてしまう んです。」 あ、分かるような気もする… また、「演奏をしていると手とか肩とか 凝りませんか? 何かしていらっしゃいますか?」という問いには、「時々、マッ サージに通っています。」 あ、やっぱりそうなのね… 「で、帰りには、いつも、 その近くにラーメン屋さんがあって、必ずそこに寄ってラーメンを食べていくんです よねぇ。それが目的で行っているのかもしれませんけど。」 陽子さんがラーメン屋 でラーメンを食べてはる図って、想像しにくいぞ… と、まぁ、もっともっと楽しい お話を聞いていたいような気もするのですが、そろそろ時間だから、とお話は終わ り、後半のプログラムに移ります。

 12の変奏曲も「魔笛」の主題が元ネタですね。こちらはパパゲーノのアリア「若 い娘か古女房か」です。チェロというよりは、むしろピアノの方が活躍するような変 奏曲で、野平さんのピアノの素晴らしさがより引き立っていました。第10変奏や 11変奏のようにゆっくりしたテンポにしても、このメロディーって、結構、いいも のですねぇ。

 最後は、5番ソナタ。第1楽章、輝かしいテーマがピアノとチェロと両方に現わ れ、華やかな雰囲気を作り出していきます。それが第2楽章になると、穏やかな、和 やかなな雰囲気に変わり、お2人の演奏はさらに溶け合っていきます。お互いがそれ ぞれを支えながら、かつ十分に自己主張してくる、その息はほんと、見事にマッチし ています。やがて、3楽章のフーガが始まります。このフーガにかける意気込みのよ うなものがひしひしと伝わってくるようで、その迫力が会場を包み込みます。新たな テーマも加わっての、ベートーヴェンならではの2重フーガが展開してくると、その 迫力はさらに増大していきます。正に壮大な曲を、迫真の演奏で聴かせてくれていた と思います。その演奏してはるお姿からは、さっきのラーメン云々なんて姿は、やは り見えてこないぞ…(^^;) と思いながら、感動的なクライマックスを迎えて、演奏は 終わるのでした。何とも言えない満足感に溢れた演奏会でした。よかったぁ。

 この秋には、いよいよ、バッハの曲に挑んでいくという陽子さん、今後も楽しみで す。