らいぶらりぃ
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ウィーン・オペレッタ劇場「メリー・ウィドウ」

●日 時1998年6月21日(日)15時開演
●会 場フェスティバルホール
●演 目レハール/オペレッタ「メリー・ウィドウ」
●出 演ハンナ・グラヴァリ:メラニー・ホリディ
ミルコ・ツェーダ男爵:ワルター・イェネヴァイン
ヴァランシェンヌ:ロッテ・ライトナー
ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵:ダニエル・フェルリン
カミーユ・ド・ロション:ローレンス・ヴィンセント
カスカーダ子爵:アロイス・ヴァルヒスホーファー
ニエグシュ:クルト・リーデラー
ハインツ・ヘルベルク指揮ウィーン・オペレッタ劇場管弦楽団
同合唱団/同バレエ団

 オペレッタというと、今までには、「こうもり」しか、生で見たものはなかったの ですが、今回は、「メリー・ウィドウ」です。しかも、ハンナに役には、今回初めて この役に挑むというメラニー・ホリディさん。彼女の人気のせいもあってか、会場は 満員御礼状態です。(^^)

 幕が上がると、そこは華やかなパーティーの真っ最中。男爵が何やら難し気な顔を していろいろと言ってますが、そんなことお構いなしという感じで、その傍で、妻の ヴァランシェンヌがカミーユといちゃついているのが、いいですね。(^^;) ライト ナーさんの声がすぅっと通ってきて、それに応えるヴィンセントさんの声もまた素敵 です。そういや、ヴィンセントさんは、去年の正月にもフォルクスオーパーの演奏会 でその美声を聴かせていただいてましたね。あの時の感動も蘇ってきます。

 そうこうしていると、いよいよメラニーさんのお出ましとなります。大勢の男声陣を従えての 堂々の入場(?)であります。その姿は、さすが、貫禄がありますね。「女王様とお 呼び!」と言うか何と言うか…(ちょっと違うか。^^;)でも、その愛嬌をふりまく様 子は、ほんと自然体で、何故、今までハンナ役をしなかったんだろう、とも思いま す。彼女には、ヴァランシェンヌ役もいいかもしれないけど、ハンナ役もぴったりな んじゃないでしょうか… そして、全員が退場すると、ダニロが登場してきます、2 人の可愛い子ちゃんを連れて。(^^;) このダニエルさんの声が、また、大らかで素晴 らしいですね。こんな声を聴かされたら、女性もひとたまりもないような。(^^;) 酔 いのためにソファーにぶっ倒れて寝ていると、ハンナが現われ、2人の再開の場とな ります。この2人のやりとりが、また、いいですね。まさに意地だけで反発しあう2 人、という様がよく表れています。顔と顔を1cmくらいまで近づけて、睨み合い、け なし合う、この辺りの演技など、ほんま、迫真のものなんじゃないでしょうか。そし て、彼女に群がる男どもを追っ払って、最後に優雅に踊るハンナとダニロ、う〜む、 素敵な図ですな。

 第2幕、ここからさらに盛り上がってくるわけですね。舞台は、どこぞの庭園を模 したもので、ホリゾントにはスクリーンに綺麗な庭園の風景が映し出されています。 で、最初は、民族舞踏。非常に生き生きとしたダンスですね。バレエ団の皆さんに惜 しみない拍手が送られます。そして、一番の聴かせどころ、「ヴィリアの歌」が始ま ります。メラニーさんのその歌声は、細ぉい線がすぅっと心の中に入ってくるよう で、実に感動的でした。照明もぐっと落とした状態で歌われるものですから、その美 しさは、さらに引き立っていたと思います。歌い終わったところで、満場割れるよう な拍手が起こったのは言うまでもありません。ご要望にお応えして、とアンコールで もう1回、歌ってくれたのは、とっても嬉しいですね。もう、これだけ聴いたら、 帰ってもいいぞ、って感じにすらなります。(こらこら…)

 すると、ダニロが現われてきますが、この辺りで展開する、男爵とニエグシュとのやり取りが、楽しいですね。1幕でもそうでしたが、この2人のやり取りって、漫才のようで、面白いです ね。こういうコメディックな要素があちこちにあるからこそ、とっても気楽に見るこ とができるというものです。やがて、ダニロとハンナのやり取りが終わると、やが て、男声陣による「女をどのように」の合唱が始まります。と、女声陣も入り込んで きて、華やかなダンスを交えた舞台が展開します。まるで、もうカーテンコールを見 るかのような(おいおい…)盛り上がりで、気分は、さらにぱぁっとしていくのでし た。しかも、これもまたアンコールに応えてくれるという、サービスぶり! 嬉しい ですねぇ。

 そして、やがて、またハンナとダニロの2人になると、流れてくる、あの美しいワ ルツ。ヴァイオリンの音色がとっても艶やかで、この場の雰囲気をさらに盛り上げま す。そうそう、このオーケストラの音が、非常に繊細かつ大胆で、各場面ごとに適切 な音を出してきて、場を盛り立ててくれているんです。さすが、ですね。で、この2 人のシーン、見ていると、うっとりとしてしまいますねぇ… ダンスが終わると、今 度は、カミーユとヴァランシェンヌの2人が登場してきます。カミーユの歌うアリア 「あそこに小さな東屋が」、ヴィンセントさんの聴かせどころです。うんうん、これ を待っていたのよねぇ、と聴いていると、ちょっと高音部が苦しそうなふうにも聴こ えましたが、調子でも悪かったのかしら… でも、とっても甘美的な歌い方で、素敵 でした。そして、東屋の中に消える2人、それを鍵穴から覗こうとする男爵、ニエグ シュがこの危機を救う大事な役を務めるのですが、リーデラーさん、いい感じで、こ の道化役をこなしてはりますね。ところどころ、「サヨナラ」とか日本語を交えてい るのが、また、お茶目ですね。そして、ハンナとカミーユが婚約?という意外な展開 になり、幕が降りてきます。

 第3幕、幕が上がると、お待たせしました、のフレンチ・カンカンです。「天国と 地獄」が華やかに鳴り響き、それに合わせて、バレエ団の皆さんだけでなく、舞台上 の総勢が、踊りまくります。ニエグシュのリーデラーさんがいきなり、大の字で体を 横に回転させながら、舞台をよぎっていきます。おぉぉ!と思っていると、男爵の イェネヴァインさんも足を上げて踊ってるし、ヴァランシェンヌのライトナーさんも ノリノリで、もう、舞台中、飲めや歌えや、の大騒ぎ状態。(^^;) 客席もノってき て、拍手喝采を浴びせると、もう1回、さらにもう1回と、計3回も踊ってくれま す。バレエ団の人たちはともかく、歌手の皆さんも、そないに踊っていて、後で歌え なくなるなんてことはないんでしょうか…(←余計な心配か…) そこへダニロが遅 れてやってきて、男爵の命で、「お国のために」ハンナと結婚する意思を固めます。 で、彼女に告白、もともと、彼との婚約を望んでいた彼女がそれを拒むことなどな く、2人は結ばれる、そこで高らかに流れる、ワルツ! もう、最高に美しいです。 2人の美しい声とオーケストラの艶やかさとが、よく溶け合って、甘美さを高めてい ます。後は、もう、テンポよく展開し、男爵とヴァランシェンヌとの間にあった、扇 子の問題も一件落着して、オチとなります。

 とまぁ、とっても楽しい公演でした。カーテンコールは、割とあっさりとしたもの でしたが(?)、最後まで楽しさ溢れる舞台の世界に、しばし、現実逃避(?)する ことができたようでした。(^^;)

 しかし、プログラムの中でも許光俊さんが書いていらっしゃったのですが、このオ ペレッタ全体の明るさの向こうに見える、哀しさのようなものも忘れてはいけないよ うな気もします。ハンナとダニロにしたって、自分達の明らかな意思によって、幸せ を勝ち得たというのではなく、むしろ、「国」のためにという事情など、周りの力に よって、最後に結ばれるわけで、その意味では、社会に流されていくだけの、無力な 弱者にすぎないんですね。それが、この社会で生きていくには、表面上、明るさをふ りまいて、陽気にしてでもいかないと、やっていけない… そういう社会事情をも、 このオペレッタは、表わしているのではないでしょうか。偶然が重なってできた、 ハッピーエンド、実際には、そうそう起こるものでもありますまい。大体、別れた男 女がよりを取り戻すにしたって、あんな簡単にはいかないんじゃない、というふうに も思いますし。(私の単なるひがみかもしれませんが。^^;)そんな意味では、まさに 架空のお話、夢のようなお話、ということになるのかもしれません。そして、だから こそ、人はこういうものに触れて、一時、自分達を登場人物に重ねながら、幸福感・ 満足感を味わうことができる、というものなのではないでしょうか…