らいぶらりぃ
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イングリット・ヘブラー〜モーツァルトの夕べ

●日 時1998年6月27日(土)17時開演
●会 場シンフォニーホール
●出 演ピアノ:イングリット・ヘブラー
●曲 目モーツァルト/「美しいフランソワーズ」による12の変奏曲
       アダージョロ短調K.540
       ピアノ・ソナタ第15番ハ長調K.545
       ロンドイ短調K.511
       ピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331
(アンコール)
スカルラッティ/ソナタ
シューベルト/即興曲集D.935 Op.142第2変イ長調

 モーツァルト弾きとしてすっかりお馴染みのヘブラーさんの登場です。

 全体的なことを言うと、どの曲の演奏も、「たおやか」という言葉がぴったりとく るような、やさしさのあふれる演奏だったと思います。1音1音がとってもやさしい 響きを持っているんですね。それが、モーツァルトの曲にぴったりと合っていて、至 上の音楽を聴いているような気になってきます。例えば、3曲目のハ長調のソナタ、 ソナチネとしても有名な曲ですね。この1楽章や3楽章の、ころころとした感じで音 が鍵盤の上を回っているような感じ、これこそが、まさにモーツァルトらしさ、だと 思うのです。モーツァルトのやさしさ、明るさがにじみ出てくるような演奏でした。 こういう表現ができることこそ、ヘブラーさんの持ち味ですね。こういうモーツァル トは他では、なかなか聴けないんじゃないでしょうか…

 けど、もっと素晴らしいと思ったのは、短調のアダージョとロンドです。今回のプ ログラムは、明るい長調の曲に合間にこの短調の曲を挟み込んでいくというもの。こ ういう緩急のきいた選曲も素敵ですね。で、モーツァルトの短調の曲って、表現する のが結構、難しいんじゃないかと思うんです。ベートーヴェンのように、悲しいとい う感情を激しく出すものでもないし、かと言って、音を単に並べるだけじゃ、そこに 込められている作曲者の想いが表現しきれないし。その点、ヘブラーさんの演奏は、 上品ににこっと笑みを見せながらも、表情はどこか寂しげ、というニュアンスを見事 に表現していたと思います。ロンドでも、同じテーマが何回も出てくるわけですが、 その1回1回が、すべて違った表情を見せながら、ひたひたとその寂しさがこちらの 心にも伝わってくるようでした。改めて、モーツァルト弾きのヘブラーさんの魅力に 感心するのでした…

 アンコールはちょっと意表をついて、スカルラッティとシューベルト、奏法もどこ か違えて弾いてはったように見えましたが、こんな曲も弾きはるんだ…と、その熟年 の持つ味というものを堪能できました。

 でも、私自身は、モーツァルトの曲って、あまり自分では弾こうと思わないんです よね… 上に書いたような点が難しいから。もっとも、今回のプログラムの中では、 ソナタの2曲とも、弾いたことはあるんですけどね。音を取ることはできても、そこ から先がまさに難しいので、結局、中途半端なままで終ってしまってます… ヘブ ラーさんの演奏を聴いて、ますます、自分には難しいのだということを、はっきりと 自覚するのでした…(^^;)